消えない傷(11/11)

セントビナーへの出発を前に、サクは装備の買い出しに行こうとしていたルークを無理矢理引き摺り……ではなく引き連れて、グランコクマにあるとある防具屋に来ていた。

主に装飾品が並べられたケースを眺めていたルークの目が、とある一点の商品に止まる。…成る程、コレか。



「そr…『綺麗なペンダントですね。これってスターサファイア?』

「お、お客さん御目が高い。ソイツは前に辻馬車の馭者から買い取った良品でね」



どうやら、ビンゴだったらしい。ルークが何か言いそうになったので、足を踏んで強制的に黙らせた。

本日、サクがルークを連れて防具屋に来た目的。それは、ティアのペンダントを買い戻す事だ。

私もよく店主の名前を覚えてたよね。以前グランコクマに来た時に、忘れずにライズって細工師がいる店を探しておいて良かったよ。



『ちなみにおいくらですか?』

「5万ガルドだよ」

『え〜、ちょっと高くないですか?』

「残念だが、嫌なら諦めるこったな」



店主にまけてくれる気はないらしい。まぁ、私もルークも結構質の良い服を着て来ちゃったしね……金を持ってる様に見られても仕方ないか。

何にせよ、10万ガルドよりはマシかな。色を付けるにしても、あれはボッタクリだよね。元々は2万4千ガルドの馬車代だったのに、全くもって釣り合いが取れていない。



『ねぇルーク、コレ買って?』

「!それh…『買ってくれないなら私、自分で買うけど』



そのペンダントはティアのものなんだと言いたいのだろう。分かってるけど、それ以上は言わせないよ?

安くはないけど、5万ガルドで買える所を、わざわざ墓穴掘って10万ガルド支払うなんて損だ。



「……分かった」

『やった!有り難うルーク♪』



暫く思案した後、ルークは複雑な表情のまま、仕方無く頷いた。そして財布の中を覗いて、彼は更に絶望的な顔になった。どうやら、お金が足りないらしい。まぁ、普通はそうそう持ってないよね、そんな大金。



「へぇ、なかなか太っ腹な彼氏じゃねぇか」

『まあね。とはいえ、流石にちょっと高額だから、私も半分出すよ』



此方をおだてる店主のニヤニヤ顔が何かムカついたけど、スルーして。分かりやすいルークの表情に内心苦笑しつつ、あえて気付かないフリをしながら、サクはフォローを入れる。

いつでもこのペンダントを買い戻せるように、教団を出る時から密かにお金は用意してたからね。ついでに、思いがけないソードダンサーとの戦闘で、今は財布にもちょっと余裕があるし。

しかもルークはこの後道具の買い足しもしなきゃいけないから、ペンダントを買うのに財布の中身を使いきる訳にもいかない。何より、そのお金はルークだけの物じゃないし。

故に、現時点でのペンダントの購入は本来ならかなり厳しい所であった。私も一週目の時はその場で買えなかったからなぁ……今では懐かしい思い出だけど。



「まいどあり〜♪」

『あと、一つだけ訂正しますと、残念ながら彼は私の彼氏じゃないんですよ』

「え?」



店主からペンダントを受け取り、店を後にする際にそう訂正をしておいたら、微妙に店主に驚かれた。フッ、確かに私はルークは好きだけど、生憎とルクティア派なのさ。もしくは腐った方向でも可。……流石にドン引きされるだろうから、誰にも言わないけどね。



『有り難うルーク。さっきは足踏んでごめんね』

「サク、その…」

『はい、どうぞ』

「え……?」



先程からずっと気まずい顔をしてて、それでも意を決して本当の事を言おうとした様子のルークに、サクはあっさりとペンダントを手渡した。

突然の事にルークは面食らい、呆気に取られたのか、完全に固まってしまった。何だか表情がくるくる変わって面白いね。

さっきなんかは店主の彼氏発言にもまともに反応する余裕も無かったみたいだし。



『もしあの場でソレは訳有りの大事なペンダントなんだ!な〜んて事を店主の前で言おうものなら、値段に色を付けられるのがヲチだよ』

「あ……」



何故あの時自分はサクに言葉を遮られたのか、ルークは納得した様子だった。



「サクは、最初からそのつもりで…?」

『うん。えっと、前にケセドニアへ行った時に、ティアが辻馬車の馭者とペンダントの事を話してたの、覚えてる?』

「ああ。覚えてるけど…」

『ついこの間その時の馭者を偶然見掛けてね。ちょっと気になって、詳しい話を聞いちゃったんだ』



ちなみに、この話は嘘です。最初から詳しい経緯を知ってたからです。本当は、実際に馭者の人に話を聞いて確認をしたかったんだけど……まだこのサブイベを起こす時期ではなかったせいか、馭者の人には会えなかったんだよね。必死に探した訳じゃないから仕方がないんだけど。まぁ何はともあれ。

買い戻せて良かったね、と微笑むサクに、ルークは申し訳なさそうに頭を掻いた。



「ありがとう……っていうか、何かゴメンな。本当なら俺が買い戻さなきゃいけなかったのに…」

『でも、お金が足りないものは仕方ないでしょ?』

「……気付いてたのかよ」

『だって思いっきり顔に書いてあったし』



俺カッコ悪ぃ…と凹むルーク。

ルークは自分に買い戻す責任があるって思ってるみたいけど、それはそれで間違ってる気がしないでもない、が……そんなツッコミを入れれる程、二人から事情を話して貰ってはいないので黙っておく。

そもそもティアがこのペンダントを手放すきっかけになったのは、無関係なルークを髭討伐の際に巻き込んでタタル渓谷まで飛ばしてしまったせいにある。彼女も其れは自覚していたから、ペンダントを買い戻すのを諦めていたし、原作でもルークがファブレ公爵にペンダント代を貰おうとするのも断っていた。



『(……ていうか、)』



この件に為にペンダントの買い戻しに協力する、というのも些か変な話だ。余計なお節介だって事も理解してる。理解している上で、ルークにお節介を妬いているのだからどうしょうもない。

だってそれがまた面白いんだもん。



『取り敢えず、今はルークにツケといてあげるから、不足分はいつかルークが稼いで返してくれたら良いよ』

「…分かった。直ぐには無理かもしれないけど……必ず返すよ」

『フフ、約束だよ?』



ファブレ公爵から貰ったお小遣いで返して貰うより、ここはルーク自身にペンダント代を稼いで欲しい。ルーク自身の為にも。

ぶっちゃけ、モースの賄賂からこっそり霞め取った汚職金だったりするから、個人的には別に返して貰わなくても良いんだけどね。



『じゃ、サッサと買い出しを済ませて、早く宿屋に戻ろ!ティアが待ってるよ』

「そうだな」



この後、二人は買い出しを済ませて宿屋に戻り、そこでルークがティアにペンダントを渡す様子を、サクは某家政婦は見たヨロシク、内心によによしながら暖かい目で見守りつつ、ルクティアを堪能していたとか。



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