世界一危険なお茶会(6/7)

今日、サクはアリエッタ達と一緒に"お忍び"で出掛けている。夕方には帰るよ、って言ってたから、早ければもうすぐ帰って来るかもしれない。

……早く、帰って来れば良いのに。

上に出す仕事の報告書を書きながら、シンクはチラッと未だに開かれない扉へと視線を移す。サクの気配が無いから、いない事は分かってるのに……つい、気にしてしまう。

最近、サクが傍にいないと落ち着かない。…正確には、もっと前からかもしれないけど。この部屋…サクの部屋なんだけど、ここにいると、僕に与えられた自分の部屋に一人でいるよりも落ち着くし、サクからもいつ来ても良いって言われてるから、こうして今も来ている。

……今日サクが出掛ける時だって、本当は僕もついて行きたかった。

導師守護役にはアリエッタを連れてくし、リグレット(わりと最近ヴァンの副官になった奴)もいるし、何より今日は女子会だから!という訳の分からない理由で断られた。

当然、そんなふざけた理由で僕が納得いく筈が無かったんだけど……最終的に、僕は頷くしかなかった。

我が儘を言って、サクに嫌われたく無かったから。



『ただいまー』

「おかえり」



報告書が進まずに悶々と考え事をしていると、本当にサクが笑顔で帰って来た。…へぇ、女子会とやらはそんなに楽しかったんだ。



「サクにしては、案外早かったじゃん」

『まぁね。遅くなってリグレットに迷惑が掛かるといけないしさ』



早く帰って来た理由は、僕が待ってるからでは無いらしい。当たり前、だよね。サクはアリエッタ達と遊びに行って、楽しんでたんだ。僕の事まで考えてる筈がない。何を馬鹿な事を考えてんだろ……僕。



『お仕事を頑張ってたシンクに、今日はご褒美があるよ』

「…?」



そう言って、サクは徐に抱えていた紙袋の中から小さな箱を取り出すと、ニッと何故か楽し気な笑みを浮かべながら、其れを僕に渡してきた。



「これは?」

『シンクへのおみやげ』

「おみ、やげ…?」

『うん。思わず店先で一目惚れしちゃったんだ』



箱を開けてみると、中には真ん中に翡翠色の綺麗な石が嵌め込まれた、品の良い装飾品が入っていた。

更にそこへ譜を刻んでおいたから、アクセサリーからなんと響律符へ早変わり!お洒落だし、響律符だから戦闘にも役立つしで、まさに一石二鳥でしょ?と、得意気にサクが話すも、肝心のシンクはおみやげを凝視したまま固まってしまっていた。



『シンクが無事に任務から帰って来れますように……って願掛けもしてあるから、運気アップアイテムにもなってるよ』

「………っ」



忘れて、無かったんだ。僕の事。

それどころか、こんな物まで用意して。わざわざ譜を刻んで、響律苻にして。僕が、無事に任務から帰って来れますように……なんて。

形容し難い感情が、胸の奥から何か熱いものが込み上げてきて、酷く泣きたい衝動に駆られた。

今まで僕は、涙は悲しい時に出るものだと、理解していた。でも……どうやら本当に嬉し過ぎる時にも、涙は出るらしい。ポタポタと、響律苻とソレを掴む僕の手に水滴が落ちてくる。

この時僕は、生まれて初めて泣いた。悲しいからではなく、とても嬉しくて。

本当はサクの前で泣くなんて、みっともないしカッコ悪いし、恥ずかしいから嫌なのに、この時ばかりはどうしても感情が抑えられなかった。

僕が泣いてる事に気付いたサクが、最初は驚いた顔をした後……直ぐに嬉しそうに微笑んで、僕の頭を撫でてきた。



『今度はシンクと一緒に行こっか!雰囲気のいい店を見付けたんだ♪』

「…とか言って、また教団から抜け出す気?」

『夕食迄に帰れば問題ないでしょ』



そういう問題じゃない、とか…子供扱いしないでよ、とか……思ったものの、それ以上は嗚咽が邪魔をして、上手く言葉に出来なかった。

それに、既に脱走の常習犯でもあるサクには、言うだけ無駄だろう。というより、むしろシンク自身も二人でちょっと行ってみたいと思ったのが、本音だったりする。

何処までも自由な彼女に、自分が憧れを抱いているのも事実で。

彼女は、こんな所にいつまでも大人しく縛られている様な人間ではない事も、この時点で既にシンクは理解していた。



「…サク……」

『何?』

「あ…ありがとう…」



だからどうか、彼女がいつか鳥籠から自由な空へと羽ばたくその時は、自分も一緒に連れて行って欲しいと、シンクは秘かに願った。

その隣に、自分もいる事を願って。



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