過去の罪(5/6)


「面倒臭いとかいうふざけた理由ならしばくぞ」

『そんなんじゃないって。私も一緒に行けるなら、是非とも行きたかったんだけどね』



アッシュの米神に青筋が立っているのを見上げながら、サクは軽く笑う。そんな軽い態度がアッシュの神経を余計に逆撫でしているのだが、サクはお構い無しだ。



「そう簡単に、我々が貴女を逃がすと思いますか?」



後ろからジェイドの胡散臭い調子の声が聞こえたと同時に、ピタリ、と首筋に無機質な何かを当てられる。見なくても分かる。ジェイドの槍の矛先だ。あれ、コレって何かデジャヴュ?

ガイの時はあっさり別れたのに、この違いは何?嗚呼、信頼度の問題ですか。



『…やっぱりまだ警戒されてたんですね』

「そりゃあ、此処で貴女を見逃してアクゼリュスの二の舞を踏むのはごめんですから」



ちょ、その言い方だとまるで私が悪者みたいに……ほら、アッシュがどういう事だって怪しんでるし。



『……何か勘違いしてませんか?私とヴァンは繋がってませんけど』

「おや、私はまだ何も言っていませんよ?」



いやいや、話の流れからしてヴァンの名前が出るのは当然でしょ。しかし、この一言でどうやら悪い方に解釈されてしまった様で、いきなりアッシュに胸ぐらを掴み上げられた。ちょ、今ので首筋が切れた!槍の矛先が掠めてちょっと切れた!!



「てめぇ、ヴァンからの回し者だったのか!?」

『一応否定はしとくけど、君には言われたくない台詞だね、アッシュ』

「チッ」



傷口から流れた血が首筋を伝い落ち、法衣に赤が滲む。地味に痛い。

しかも、本気でキレてる様子のアッシュは、舌打ちしながら剣に手を掛けた。私を斬り捨てる気なのか、その様子を見たジェイド以外の仲間達がコレには流石に焦り始める。



「アッシュ!導師サクに何を…!?」

「これ以上コイツを野放しにすると、被害が拡大するだけだ!」



ナタリアの声を強く否定するアッシュ。いやいや、むしろ私を野放しにしないと被害は拡大しますよ。…自身を傲る気は無いけど。



『まだ情報を聞き出せてないのに殺っちゃっても良いの?アッシュ特務師団長』

「死ぬ迄に情報を吐いて助かるか、黙って殺されるかはテメェ次第だ」

『……成る程ね』



こうなってくると、さっきスピノザへカマを掛けたのも、本当は私が計画の内容を知ってたんじゃないかって疑われてるっぽいね。ちょっと調子に乗ったのが裏目に出たか。

しかも、イオンにまで困惑の表情を浮かべられて、ちょっと泣きそうです。

イオンはこの中で唯一、私と導師守護役ユリアが同一人物である事を知っている人物だ。故に、私がアクゼリュスで"何か"していた事も察している。その"何か"を彼に伝えていなかったが故に、私とヴァンが繋がっている可能性にも心当たりがあり、否定出来ないでいる様子。

ジェイドに関しても、フォミクリーの件も含めて、限り無く黒に近い灰色と判断されてるみたいだし。あ、そういえば、アッシュとルークの容姿が同じ事にも驚かずに、普通に接しちゃってたな……かなり今更だけど、成る程。ジェイドが私を疑うきっかけになった最初の要因はこれか。

レプリカ計画には本当に関わって無いのになぁ……否、そうでもないか。イオンやシンクの事を知ってる時点で、私も既に関係者には分類されるのか。完全に部外者だけど。

最早色々と間違った方向に転がり過ぎてて笑うしかない。本当に、疑い深過ぎだよこのパーティー。いや、隠し事や怪しい点が多い私も私か。この状況じゃあ誤解が溶ける気がしない。



『確かに、皆になら……真実を話しても良いかもしれない』



そう言って、サクは諦めた様にため息を溢してみせた。私に向けて突き付けられている剣先が、動揺からか僅かにぶれる。導師サクは、何を話す気なのか。本当に彼女はヴァンの仲間なのか。緊迫した空気の中、一同の間に更なる緊張が走った時。



『でも……』

ギャアギャアッ!!

「「「「!?」」」」



突如響いた魔物の鳴き声に、一同が空を仰ぎ、すかさずサクは右手を上げた。



『残念ながら、今はその時じゃないと思うんだ』

バサッ



アッシュ達の頭上スレスレをフレスベルグが低空飛行し、サクを空へと拐っていった。正確には、フレスベルグの背に乗った青年の手によって、だが。



『有り難うフレイル!タイミングばっちりだよ!!』

「貴女は本当に無茶をされる方ですね……心臓が止まるかと思いましたよ」



特務師団長、本気でしたよ。フレスベルグの背に乗ったフレイルからそう言われて、サクは苦笑混じりに知ってると答えた。

フレイルの言う通り、アッシュには迷いこそあれ、本気で殺す覚悟も持ち合わせていた。まぁ、フレイルの乱入で妨害された結果に終わったけど。



「テメェ、逃げるのか!」

『アッシュも皆もごめんね!でも、私にも此れから行きたい所があるんだ!』



地上にいるアッシュ達に大声でそう叫ぶと、サクはフレイルが乗るフレスベルグの足に捕まった状態から、空中で待機していたもう一匹のフレスベルグの背に乗り移った。……今ので皆にスカートの中が見られてたら嫌だなぁ。



『でも、きっとまた直ぐに会えるよ』



だからその時はいきなり斬りかかって来ないでね、と聞こえているかは微妙だがそう言い残しながら、サクとフレイルを乗せた二匹のフレスベルグは上昇した。アッシュが最後まで何か叫んでたけど、流石に聞こえなかった。



「サク様…よろしかったのですか?」

『うん。最初から決めてた事だしね』



それに、アッシュやルーク達はもとより、ヴァンより先回り出来なければ、この作戦の意味がない。敵を欺く為には、先ずは味方からともいうしね。あー、でも心残りがあるとすれば、ワイヨン巣窟での生アシュナタをこの目で拝めない事かな。デレるアッシュを愛でる事が出来ないのは残念過ぎる。



『それに、そう遠くない内にバレる事だし。問題無いよ』

「分かりました」

『それより、ジョン君とパイロープさんの方は?』

「はい。先刻連絡を受けたアリエッタ様とクロノ様がタルタロスへ向かわれましたので、問題ありません」

『流石。皆仕事が早くて助かるよ』



港に着いた時にこっそり彼等と接触し、手紙を渡して指示を出しておいたので、私達が第一研究所へ行っている間に行ってくれたらしい。クロノ達の事だ。二人の保護はもう既に完了しているだろう。



『じゃあこの後はクロノやアリエッタ達と合流次第、作戦通りシェリダンに向かおう』

「了解しました」



それにしても、街中にフレスベルグは流石に悪目立ちするなぁ……今度からグリフィンにした方が良いかもしれない。街の出口を目指して飛行中に、そんな事を頭の隅で考えるサクであった。



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