act.1




「待ちやがれぇえええーっ!!」

イタリア・ミラノのとある住宅街の一角で、ある男の怒号が響いていた。男の名は、平和島静雄。凄腕の悪魔祓いである。

「シズちゃん!!あっち!!そっちじゃないよっ!!あーっ!!また窓ガラス破壊した!!また弁償だよ!!しかも取り逃したし!!最悪っ!!」

「うっせぇっ!!文句ばっか言ってんじゃねぇよ!!てめぇも少しは手伝いやがれっ!!」

「手伝ってるじゃん!!シズちゃんと違って俺は視えるだけで滅することはできないんだよ!!もう何度も言ってるでしょっ!!」

静雄に向かって早口に言葉を並べているこの男の名は、折原臨也。静雄とコンビを組んでいる悪魔祓いだが、静雄と違って何の力もない。ただ、生まれつき悪魔を引き寄せる体質であり、悪魔が視えるというだけである。しかし、その身体能力は一般人のそれとは比べ物にならないくらい長けていた。異常なまでに強い力を持つ静雄に引けをとらずについていけるのがその証拠だ。


「ちっ!!んなことは分かってる!!新羅から手にいれた武器があんだろうがっ!!あれを使えって言ってんだよ!!」

「えーっ!!あれ高いんだよ!!使っちゃったら絶対、シズちゃん壊すじゃん!!やだよっ!!」

そんな会話を交わしながら悪魔を追う二人だったが、その呼吸は全く乱れていない。周囲の建物がまるで風のように過ぎていった。

「……このままここら辺の建物を一つ残らず破壊するのとどっちがいい?い〜ざぁ〜やくんよぉお!!」

「分かった!!分かったよ!!もうシズちゃんって本当に滅茶苦茶なんだからっ!!じゃあ俺は先回りして大通りに出る直前の道で待ち構えてるから、シズちゃんはそこまでうまく誘き寄せて!!失敗したら許さないからね!!」

臨也はそう言って、近くの塀を蹴りあげると、そのまま跳躍し、壁を伝いながら屋根に飛びうつった。

静雄はその姿を確認しつつ、悪魔を見失わないように、じっと窓ガラスを凝視した。

悪魔は、ガラスや鏡などの物体を介して移動する。下級の悪魔ならそこから出ることはできない。どうやら今回は下級のそれらしく、窓から窓へと移動していた。

「逃がさねぇぞっ!!」

静雄はそう呟くと、臨也が消えていった方向にどんどん悪魔を追い込んでいった。この悪魔は、逃げ足だけは早く、静雄の拳を次々と交わしていく。

「くっそ!!もう少しだったのによ!!」

そんな攻防を繰り広げながら走っていると、いつの間にかすぐ目の前に臨也がいた。その手には一枚の鏡が握られている。

「……おいで。」

臨也がそう呟くと、まるで吸い寄せられるように悪魔がその鏡の中に入っていった。閉じ込められた悪魔は慌てたように、キーキーっと甲高い声を上げている。 

「よしっ!!捕まえたっ!!シズちゃんっ!!」

臨也は鏡の中に悪魔がいるのことを確認すると、そのままその鏡を静雄の方に放り投げた。

静雄はそれを合図に、鏡に向かって大きく拳を振り上げる。

「観念しやがれっ!!」

そう叫んだのと同時に、鏡は静雄の手によって破壊され、悪魔は粉々に砕け散った。白い煙のような気体が鏡から立ち上ぼり、やがて消えた。

「「任務完了」」

それを見届けた二人は同時にそう呟いた。



♂♀




今日の仕事を終え、一息ついた二人は、本部に報告するため、見慣れた道を歩いていた。

「今日もごくろうさま。あぁ〜…。結局、壊しちゃったね…。貴重な鏡だったんだけどなぁ…。別に鏡ごと破壊しなくたって、引きずりだして滅したって良かったのに…。シズちゃんのバカ!!」

静雄に破壊され、枠部分だけが残った鏡を見つめながら、臨也は静雄に向かって文句を言った。

「…面倒くせぇ。鏡くらいまた買えばいいじゃねぇか。」

静雄のその言葉に、臨也はむっとした顔をする。

「あのねぇ…対悪魔用の魔具がどれくらい貴重か分かっててそういうことを言ってるの?シズちゃんには必要のないモノかも知れないけど、何の力もない俺にとっては命の要なんだよ!!」 

臨也はそう言ってそっぽを向くと、静雄を置いて、スタスタと先に行ってしまった。

そんな臨也の態度に、静雄は慌ててその後姿を追いかける。

「…悪かったよ!!てめぇは俺が命にかえても守るって約束する!!それでいいだろっ!!」

「な……っ///」

公衆の面前で恥ずかしげもなくそんなことを言う静雄に、臨也は頬を赤く染めて振り返った。

「臨也…。だから…機嫌直せよ…。」

振り返った先にはそう呟いて照れくさそうに視線を外している静雄がいた。静雄のその姿に不覚にもときめいてしまった臨也は、さらに顔を赤くしながら、静雄に駆け寄った。

「もうっ!!本当にシズちゃんには敵わないよ…!!もういいから…。さっさと本部に報告を済ませて帰ろうよ…。今日の夕食の当番はシズちゃんなんだから…おいしいご飯食べさせてよねっ!!」

臨也のその言葉に静雄は優しく微笑むと、その手を強く握りしめた。

「あぁ…今日はてめぇの大好物を作ってやるよ。」





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