それなりにデートもしているし、彼が私の家に来ることもある。

何度も何度も何度も何度も何度も二人きりになっている。

それなのに、彼は手すら握ってこない。

親しい友達から聞いた話だと大体の男女は交際スタートから凡そ三ヶ月くらいで一線を超えるらしい。

半年ほど前に「お前が好きだ」と告白されたのだけれど、あれは私の勘違いだったかと思うほど何もなく。

頻繁に会う友達のような状態がずーっと続いていて、今日も私の家で二人で晩ごはんを食べながらテレビを見ていたりする。


「あの、桂さん…」
「ん?」


勇気を出して訊いてみようかと思ったのに、いざとなると何と伝えれば良いのだろうか。

如何せん私には男女交際の経験がない。

「ちょめちょめしないんですか?」などと訊いたら端ない女だと引かれてしまうだろうか。


「そのー…えーと…あのー…」


あぁぁどうしようどうしよう何て言ったら良いの。

思考回路はショート寸前。

上手い表現が見つからず、顔に熱が集まってくるのが分かる。


「どうした、体調でも優れないのか?顔が赤いようだが…」


手にしていた箸を休めて私の方に近付くと左手を自分の額に、右手を私の額にそっと添えた。

少し体温の低い手が心地良い…


「む、少し熱いような…大丈夫か?」
「ぁ…はいっ、特に体調が悪い訳ではなくてですね…」


ジッと真っ直ぐに見詰めてくる瞳に嘘は吐けない。

いつまでもモヤモヤしているより、今ハッキリ訊いてしまおう。


「ゎ、私のこと、どう思ってますか…?」
「好きだ」


私の手を握りながら間髪入れずに返ってきた答えに心臓がドクンと跳ねる。


「それは…友達としてですか…?」
「勿論、男女のそれとしてだ」


思わず目を見開いた。

で、でも…


「お付き合いってもっとこう…接触があるものではないんですか?」


今度は彼が目を見開いた。

私の手を握ったまま徐々に目を逸らしながら赤くなって……?


「なまえに無理をさせないよう細心の注意を払っていたつもりだったのだが、逆に悩ませてしまっていたとは…すまないことをした」
「ぃ、いえいえ!気遣って下さってありがとうございます!!」


そんな風に思ってるなんて、全然知らなかった。

繋がったままの手に少し力を込めてみると再び視線がぶつかった。


「桂さん、大好きです」
「俺もだ。なまえを心から愛おしく思っている」


ちゅ、と額に柔らかな感触。


「ここから少しずつ前に進めることにしよう」


照れながら微笑む彼に完全に心を奪われた。