それは突然だった。
休み時間に伊之助と教室を移動している最中、たまたま隣の教室のドアが開いていて何気なく視線をやったところに彼女が座っていた。 俯き加減で机の上のスマホに視線を落としている横顔がとても綺麗だと、そう思った。
その瞬間…
「…あっ!!」 「!?」
弾かれたように彼女がこちらを向いた。 伏し目からパッと見開いた瞳がキラキラしていて、ドキリと自分の心臓が大きく跳ねた気がした。
「もう、心配したんだからね!」 「えっ…」
笑顔で教室のドアへ駆け寄ってくる。 俺 何かしたっけ!? なんて慌てそうになった時、
「ごめんごめん!寝坊しちゃってー」
後ろから女の子の声が聞こえた。 どうやら俺の後ろに彼女の友達がいたらしい。
…焦った。
「1時間目来なかったから休みかと思ったよ」 「ごめんってばー」
背中に彼女たちの声を聞きながらそのまま足を進める。
心臓がやたらと五月蝿い。 ほんの数秒… あっという間の出来事だった筈なのに、パッとこちらを見た彼女の顔が鮮明に目に焼き付いている。
「どうした権八郎?なんだ?旨そうなもんでも見つけたか?だったら俺様が最初に食ってやる!なぁ、何処だ!?」
隣で伊之助が不思議そうに騒がしく声を掛けてきた。
「…いや、ちょっと鈴蘭のような柴犬が」 「はあ?柴犬?」
教えたいような、教えたくないような。 ふわふわと浮き立つような初めての感覚。
あの子の名前、何ていうんだろう。 可愛かったなぁ…
これが一目惚れと気付いたのはもう少し後。
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