「義勇さん、お誕生日おめでとうございます」


0時丁度にお祝いの言葉を口にする。
手を繋いだままぼんやりとテレビを見ていた彼は、こちらを向くと僅かに目を見開いて固まった。

私が誰よりも早くおめでとうを言いたくて仕事終わりにそのまま彼のアパートへ泊まりに来たことを、てっきりもう気付いていると思っていたのだけれど…
全く気付いていなかったようだ。

少し間があった後で「ありがとう」と優しく微笑んでくれた。


「欲しいものとかありますか?」


腕時計とかネクタイなら普段つけてもらえるかな?とも思ったけれど、好みじゃないデザインの物だったら…などと考えると一人で決められなかった。
せっかくの誕生日なのだから、本当に欲しいものをプレゼントしたい。


「欲しいものか…そうだな…」


彼はゆるく恋人繋ぎしていた手をやわやわと握り込んだり緩めたりしながら一点を見つめて何か考えているようだった。

きゅ、ぱ、きゅ、ぱ…と、どのくらい繰り返されただろうか。
0時に始まったバラエティ番組は既に終わろうとしている。


「ぎ…っ」


義勇さん、と呼ぼうとした声は私の口から上手に出て来なかった。

一瞬の浮遊感。

軽々と持ち上げられて彼の膝の上に向かい合わせになるように下ろされる。
いつも見上げるだけの端正な顔を、少し上から見下ろす形になった。


「…あの、義勇さん…ちょっと、これ、恥ずかしい…です…」


この体勢も然ることながら、真っ直ぐ正面から見詰められるのが恥ずかしくてつい目を逸らしてしまう。
けれど、するりと頬を撫でられて再び彼の瞳をなんとか見詰め返した。


「お前が欲しい」
「んっ?えと…それはどういう…?」
「なまえを妻にしたい」


真顔の彼から放たれた言葉。
思考が追い付くまで少し時間がかかった。
その言葉の意味を理解した瞬間、今度はこちらが目を見開く。


「駄目か?」
「だっ、ダメじゃないですダメじゃないです!ただ…」
「ただ?」
「本当に私で良いのかなって」


すると彼は私の手を取ると徐ろに手のひらへ口付けた。


「なまえじゃなければ意味がない」


明日は一緒にプレゼントとケーキとゼクシィを買いに行こう。