お風呂上がりの彼の長い髪をドライヤーで乾かしてあげるのは、同棲を始めてからの私の日課。
「…なまえ、頼む」 「はーい」
洗面所からブラシとドライヤーを持って来た彼はソファーに座る私にそれらを手渡してすぐ目の前の床に座る。
一緒に暮らす前はザザッと適当に拭いたまま自然乾燥していたらしいけれど、それでは傷んでしまうからと私が好きでやり始めた。
ソファーから立ち上がって彼の横から前からと色んな角度から丁寧に梳かして、前髪から順に温風で乾かしていく。 温かい風が気持ち良いのか、髪の隙間から見える目はうっとりしたように閉じられていた。
ブリーダーさんってこんな感じなんだろうか… 大型犬みたいで可愛くて堪らない。
前髪、横髪を大体乾かし終えると後はソファーに座って後ろ髪を乾かす。 全体を乾かした後でもう一度丁寧に梳かしてから冷風を当て、完成。
「義勇さん、終わりましたよー」
日課を終えてブラシとドライヤーを洗面所へ戻しに行く為ソファーから立ち上がろうとしたら、彼は私の両手からそれらを奪ってテーブルに置いた。
「…義勇さん?」 「………………」
呼び掛けるとジッと見詰めてくる穏やかな青い瞳。 何も答えずにただ見詰めてくるのは何か言いたいことがあるのか、したいことがあるのか、のどちらか。 以前は全く分からなかったけれど、もう慣れた。
「どうし…っ!?」
どうしたのか訊こうとしたら肩を押されてソファーに仰向けに倒れ込む。 そのまま上に覆い被さってくる彼に、一瞬ここでする気なのかと焦った。 けれどじっとしたままでいると私の胸を両手で掴み、ぽふりと顔を埋めて深呼吸し始めた。
「…義勇さん? あの…ちょっと重たいのですが…義勇さん…?」 「………………」
呼び掛けてもスー…ハー…とひたすら深呼吸している。
うーん… この状態、暫く続きそうですね。
彼を上から除けるのを諦めて、先程乾かしたばかりの少ししっとりした長い髪を指でゆっくり梳く。 ふわりと、私と同じシャンプーの香りがした。
「……すまない、少し仕事で疲れた」
暫くすると彼は私の胸に顔を埋めたままモゴモゴ喋った。
「ふふっ、いきなりどうしたのかと思っちゃいました。よしよし、今日は甘えたさんですねぇ」
頭をゆったり撫でる。 すると次第に彼の両手にやわやわ力が込められ、手の平の辺りで胸の中心をクニクニと押し込むような動きに変わっていった。
「……っ、んっ…、ぁ、あのっ、義勇さん…?」
もどかしい刺激から逃れようと身を捩る。
「勃った」 「えっ」
抗議する為に彼を見ると欲を灯した瞳でこちらを真っ直ぐ見詰めていた。 太ももに固いものを押し付けられ、「抱きたい」だなんて囁かれては拒否など出来る筈もない。
「…ちゃんと加減して下さいね」 「善処する」
善処する、が出来たことなんて今迄ないけれど。
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