『・・・小十郎・・・』
歩きながら、小さく小十郎に声をかける、そうすればいつものように私の斜め後ろについた。
『他の奴等は、すまねぇが・・・馬と、けが人を・・・』
視線は後ろに向けないまま、そう言って、また歩く。戦いは終わった。
刀をつけたベルトを外して、自分の馬に・・・あの方からもらった蒼毛の馬…疾風にくくりつける。
それから父上から元服の時に貰った蒼い・・・伊達の家紋の入った羽織を脱ぎ、歩いた。
甲冑も外した私は、いまや軽い装備のみ。本の・・・鷹狩のつもりだったからさらしなんてまいていない・・
女としての、私で父上のそばまで歩いて、目を開いた。
『小十郎・・見てよ・・・』
胸には、私が放った矢が刺さっている。あまり時間はたってないような、赤い液体が未だに流れ続けていた。優しくその身体を抱き上げて、膝の上に頭を乗せた。
もう、息は無い。でも・・・父上の顔は・・・酷く安らかだった・・・。
『何故・・・微笑んでいるんですか・・・父上・・・政宗に話したいことがあったのでしょう・・・どうし・・・教えて下さいよ・・・。』
「政宗様・・・。」
『酷いけど・・・大した人・・・』
サラリ・・・
同じ色の髪を撫でれば、それはスルスルと私の手を滑り落ちていった。もう・・・私は・・・一人の女としては生きれない。なんて、馬鹿な話だ、そんなの当の昔から覚悟を決めていたことだった。
『輝宗様・・・父上様、貴方は私の・・・っ俺の上に立つ資格のある・・・ただ一人の男でした。』
そこまで言って、父上の身体に羽織をかけて、身体を抱き上げる。
でも、私の力では支えることは出来ずに、ぐらりっと傾いたところを、小十郎が支えてくれた。
「政宗様、・・・俺が」
『いや・・・これから私は父上を越える。なのに、俺が・・・父上一人支えられなくて、どうするんだ』
けれど、そう言って、グッと背負いなおす。
このために軽装にしたんだから・・・
『父上・・・俺は・・・最期の最期まで・・・愛しいと、娘と、思ってくれていたことをとても嬉しく思います・・・』
ぽろっと耐え切れなかった涙が頬を伝った。たった一筋だけだけれど・・・多分、きっと・・・
小十郎も、気がつかなかっただろう・・・分かり合えた期間は本当に短かったけれど・・・
本当は、もっともっと、いろいろ教えてもらいたかった。本当に大好きだった
『(大好き、Iloveyou Myfather)』
もう届かない、その言葉を貴方様に・・・
執筆日 20130608