腕の中で眠っている主に、ため息しか出てこない。
元々酒に弱いというのに酌をして、自分も飲んで酔ったなんてまさに笑いごとだ。
成実に聞いてもしやと思い、行って正解だった。
「ご自重なされよ、梵天丸様」
心の中では男だと言い張っているでしょう。元服もし、一応内部ではそうは通っているが、しかし、外の者からみれば、貴女様は格好の獲物。
ただでさえ貴女は・・・いえ、これを言えば貴女様は怒るでしょうが・・・
けれど・・・はっきりといいましょう。
貴女様は女子としての魅力は十二分にあり、美しい。
腕の中にいる貴女は武将としては程遠く、一国の姫君と言われて納得できる。
「おや、景綱・・・と・・・もしや政宗様ですか?」
そして、なんていうときに来たんでしょうかね・・・一応義理ではあるが兄である-鬼庭綱元-その人。
俺の腕の中にいる政宗様へと向けられる、その視線に思わず表情をゆがめるが、兄上の表情も怪訝そうに俺を映した。
「俺が酔わせたんじゃありません。」
「では、その格好は政宗様のいたずらということですね。」
「まぁ、その様なものです。」
「・・・はぁ」
なぜかため息をつかれた。
いや、俺の方がため息をつきたい。
「景綱、いっそお前が政宗様を娶ってしまえば良いのではないか?」
「っな、っにを言うんですかいきなり!!」
突然言われた言葉に、思わず腕の中の政宗様が落ちそうになったが耐え、そして声を荒げる。のだが、兄上は笑う。
「お前、前に言っていたでしょう?政宗様が婚儀を挙げるまで、俺も挙げないと。ならばお前が政宗様を娶れば、政宗様もお前も婚儀をあげ、さらには奥州の民も嬉しいでしょう。喜多の心配事も減るんじゃないか?」
「っ政宗様に失礼ですよ、俺は」
『こじゅ・・・?』
「っ!!」
ついつい、声がでかくなる。そのせいでか、政宗様が目を覚ましてしまったらしい、全く、兄上と良い、政宗様と良い、なぜこう間が悪いのか
「政宗様、あぁ、おはようございます」
『・・・つな・・・?』
「はい、そうですよ、」
うつらうつらしている政宗様は不安なのか、俺の着流しを弱い力で握っている
逆に義兄上は政宗様の目線まで腰を曲げて、あわせる、
「政宗様、貴女は景綱が好きですか?」
「っ兄上」
『・・・こじゅ?』
「ええ、そうですよ。」
いまだうつらうつらと意識のはっきりしていない政宗様に向かってそういう義兄上は大分酷な人だとは思うが、何故政宗様も考える。オロオロするわけにもいかず、固まっていればいきなり首が圧迫された。そして、頬に・・・正確に言えば頬の傷に温かく柔らかい感触
「政宗、様っ」
『えへへ…こじゅぅ、あいらびゅぅ』
「は?」
ぎょっとして、政宗様の顔を凝視すれば、へらりっと笑って、そのまま小さい頃に・・・本当に小さい頃にあったときのような笑顔で俺に言った。意味の分からない、政宗様が良く使う南蛮語だ。固まったが・・・すぐに、また寝息が聞こえた。
「あ、いらびゅ? どういう意味だ?」
「さぁ、俺にはわかりません」
「だが、頬に口付けとは、脈有りじゃ「義兄上!!」冗談だ。」
へらへらと笑って、俺に手を振った兄上に軽く殺意が沸くが、
それ以上に殺意が沸くのは、恐れ多くも政宗様にだ。
俺は、明日からどんな顔をして政宗様に会えば良い・・・
*-*右目の悲劇*-*
《あー・・あたまいてぇ・・》(・・・)
《元親も帰っちまったしなぁ》(・・・)
《こじゅーろー?》(・・・・)
《(どうしたんだ、こいつ・・・?)》
執筆日 20130603