*Side Halold
「いきなり何言い出すのよ、あんた」
なかなか来ない人間が来たかと思ったら随分と無茶なことをいい始めたからどういうことかと思った。それはこの研究室にいるウィルもだったらしい。眉間に皺を寄せて変な顔してる。
「大体、あるはずのない記憶の復元だなんて変なこといわないでよ。アンタ、おかしくなった?」
「いえ?いたって正常ですよ。貴女ような天才であればできると、そう思ったのですが。」
平然とそう告げるのは変に冷静になったから。まぁロニの頭を解剖させろだの言ってるけど、一応私も一般常識ぐらいはある。
確かに、ちょーっと変なところはあるかもしれないケド。
「…ふむ、では私のドクメントを開いてみてもらってよろしいですか?」
「ドクメント?」
「えぇ、もしかしたら私よりもユーリ・ローウェルのほうがよいかもしれませんが…まぁ、今ここにいるのは私だけなので、どうぞ。」
なんだこいつ。だったら私に解剖させてくれたっていいじゃない。言ったら言ったで適当にあしらわれるんでしょうけど……ここにリタがいないのが残念だわ。
意識を集中させてドクメントを展開させる。何度も繰り返してきたその作業なのに、ぞわりと背筋に何かが走った。
「…これは。」
言葉をもらしたのは、ウィル。
無茶を言いだした男の体に纏われているドクメントは、「記憶」をつかさどるそこだけが、カノンノともアタシたちとも違った色をしている。
おそらく、これが持ってきた話題の物、ということで間違いない。
心臓が音を立てる。触れたい、という気持ちと触れてはいけないと頭の中が警告を鳴らしてる。
「ハロルド…?」
「…っあたし…」
この色を知っている。
何度も何度も、見たことのある色。それなのに…私は、「アノ子」を。
「っひ、ぁ…っ」
「ハロルド!?」
−−−−ねぇ、ハロルド。ディセンダーの能力を、ヒトに転写できるんだったら、物質にも転換できたりしないのかな。
−−−−さぁねぇ。でもやってみる価値はあるんじゃないの?
−−−−お願いがあるの。いい?
差し出された、小さなリング。
それから、見たこともないような純度の高い星晶。
寂しそうに空色の目を細めて、アタシに力を貸してくれるように願った人間。
「っな、るほどねぇ…っ」
全部、つじつまが合った。これは、すべてあの子の計画。だから、彼女は最初この船に乗ってなかった。
「…おや。思い出しましたか。」
「ってことは、アンタもってこと?何なのよ。まったく…本当、嫌になるわ。」
いまだにぐるぐると頭の中に湧き上がってくる記憶に痛みが伴われるが今アタシがしなくちゃいけないことは理解することだ。
理解して、行動を起こして、あの子を…
「性格に少々難はありあすが、腕のいい技師がいます。」
「…今はどれでもいい、手が必要よ。これ以上あの子に負担をかけるのは危険すぎる。」
「おい、ハロルド。展開が早すぎる。俺にも説明を…」
「あんたは……かけてるもんがあるでしょ。コクヨウ玉虫は本当は「助かる」命だった。」
あぁ、もどかしい。でもこの思いをずっと抱えてる子がいたと思うと、私自身に腹が立つ。
状況を飲み込めていないウィルに告げるのは本来あの子が参加する予定だった任務のこと。
そして、あの子が起こした奇跡。
「何をいって…」
「ディセンダーは不安定で怖がりで認めてもらおうと力を使ったときの話よ。」
それを2回目の記憶。縋るように力を使った彼女を私はおもしろがったけど。
それに彼女はどれだけ心に傷をおったんだろう。
あの子は、ただ…誰かと心を通わせたかっただけだったのに。
***
Side Jede
世界がもしもを繰り返していくのならば、「まったく同じ」世界はどこにもないのだろう。
だからこそ、世界は同じ時を繰り返すことはない。
ハロルドが「記憶」を取り戻したことは好都合。
おそらくリタ・モルディオもその鱗片を持っていたからそのうちきっかけを手にするだろ。
ドクメントの権威が二人…となれば、あとは技師だ。
研究室からホールへでれば、その姿を見つけるのはタイミングがいいと言える。
「久しぶりですね、サフィール」
「今はディストだと言っているでしょう!!! まったくとつぜん何なんですか」
淡く紫がかった髪。
黒いワイシャツに白衣。 典型的なマッドサイエンティストと言えるような出で立ちの男。
だが、本人はただの機械ヲタクだ。
それに、本人は否定するが随分と寂しがりやで、心が優しい男でもある。
「まぁ、ジェイドが?手を貸してほしいというのであれば、幼馴染のこの薔薇のディスト様が、手を貸してあげなくもないんですよ!」
「アナタの技術はかっていますから。 頼みますよ。」
きっと一度目の私ならば、彼のこの言動に呆れかえって居ただろう。
それでも、何度も巡っていた記憶を取り戻せば、彼がどれだけ努力していたか思い出さないほど愚かじゃない。
「え、あ…っえぇ!!!もちろん!!」
死霊使いと恐れられた彼が手を伸ばした先に、死神と言われた男が居ようともそれは彼女を今度こそ助けたいと思ったから。
それは…彼の中に一つ…変えられない過去があるから。
---彼女を、「ディセンダー」という物扱いしたのは…過去の己だった。
20210805
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