知りたがりは、時に心に大きな傷を作る。
それはよくしっていることだったけれど…、でも知らずにはいられなかった。
…シルヴィア・ローウェル。
これは私の最後の記憶と変わらない。 そしてこれは一番最初の一つ目の記憶。
でも、私はこの記憶は知らない。ということは、やっぱり私は「巡った私」と「廻らず帰った私」の二人が居るんだろう。
そしてこれは、「帰った私」の記憶だ。…たぶん。
でも、それでも私には分からないことが多い。多すぎる。
だったら調べに行くだけだ。 そう思って武器を手にしようとしたのに、部屋には飾りものになった剣のレディアントしか残されていなかった。
…長く連れ添ってきたものだけれど、あれは使えない。
だったら、よろず屋で買うだけだ。
「…旦那から許可はもらった?」
『……もらう必要が、あるの?』
「一応、君に食料以外を売るなって言われてるんだ。 …かれこれ20回目だよ?」
『……そう。』
そう、思ったのにまさかの拒否だった。
…なるほど、やっぱり「私」は「私」だと言うことか。
『ごめんなさいね。迷惑かけて…ユーリには内緒にして?』
「あぁ、もちろん。彼が帰ってくるころには忘れてるさ。」
ユーリは私に「戦う力がない」と知っていて、「戦う術」を奪い戦闘から遠ざけている。
にこりと笑って、いくつかの果物を買った。 別にお腹が減っているわけではないけれどそれでもごまかすにはちょうどいい。
…よろず屋の店主は、私のよく知る人ではなかった。
それから下町を歩いて、そのまま少しずつ上の方へ。ただ、世界樹が見えるところに行きたかった。
世界は変わる。 世界は、変わっていく。 変わらないものなどありえない。
すでに夜だ。
髪が風に攫われて、靡く。
視線の先に、美しい新緑と、乳白色を雑ぜた大樹がそびえて輝いている。
きっと私はあの創世の間でディセンダーとしての私をラザリスと共に眠らせたんだろう。
そうしてただの人の器となった私は世界にとって用済みであり、そして吐き出され…ユーリと生きることになった。
簡単に考えればそういうことだ。
私の瞳が青いのは、ラザリスの世界と対になる色だからだ。
元々は赤い、同じ色だった。
今は完全に青で、この世界の一員になっている、ということなんだろう。
…不本意な、形で。
『…私、貴方の背を守りたいのよ…守りたかったのよ…。なのにどうして置いていったの。』
どうしてなのか。
戦いのあるこの世界が、駄目なのか。 それとも、やっぱり…。
『…私じゃ…駄目だった。貴方の隣に立てなかった。』
世界の危機が去ったのは5年前。それはカレンダーの日付で分かっていた。そしてここの私は最初の内はここでの生活を良くしようと考えていたんだろう。
だから、「記念日になるようなこと」は…何かしらに刻んでいた。
それが私が首からかけているドッグタグ。
…日付は今からおおよそ3年前。
…私は2年間世界樹の中で眠り、そうして目覚め、3年間、この生活に生きてきた。
3年間、おそらくずっと我慢してきた。
…それでも…少しずつ私は、耐えられなくなっていた。
だから…。
『あ、あふふ……ふふふ、ふふふふふ…あはははははっ!!!』
これが、私が、望んだ、自由だった。
こんなにも、心が不自由なことが…自由だった。
吐き気が収まらないのは、どうしてなのか分からない。
食べ物を作ってる途中で気持ち悪くなってしまって、作るのもやめてしまった。
それでも体が生きたいと叫ぶから、せめてなにか飲み物だけでもとろうとするけれど、結局吐き出してしまう。
…これは、何なのだろうか。
しらない…こんなの…私は…分からない。
あれ以来、フレンも騎士団の仕事があって私のところに訪れることはない。
ここで、私が頼れる人なんて、居ない。
私がユーリを縛ってしまっているんだろうな、なんて。そう思う。
きっと事実。
『………』
頭がうまく回らない。 ユーリはいつ帰ってくるんだろう。
出来れば…まだちゃんと意識があるうちに、もう一度だけ会いたい。
…でも、こんな弱ってる姿、見られたくないな…
矛盾だ、矛盾、矛盾。 広くて冷たいベットに寝る気にはならなくて、リビングのソファーに寝転がって一度目を閉じた。
眠ってしまえば、忘れられる。全部。全部だ。
-----そうして、芽吹きかけた命と共に、私は一生目の覚めない眠りについた。
20210805
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