*Side Kanonnno
ユーリさんに運ばれてきたシルヴィアは真っ白で冷たくて、まるでおとぎ話に聞いた王子さまのキスを待っているお姫様見たいに思えた。
実際はそんなに綺麗なものじゃない。シルヴィアが見に纏うものはお姫様のドレスじゃなくて、血まみれの泥だらけの服。綺麗な銀髪も乱れて血に汚れてしまってる。
どうして、彼女ばかりこんなことになってしまうんだろう。それは救世主だからなんて理由に収まらない気がするのは、きっと私だけじゃない。
「…カノンノ、少しいい?」
眠っているシルヴィアはさっきまで私たちが治療に当たっていた。アニーからやっとOkが出てみんなが一度解散しても私は彼女の手を離せないままでいたんだ。
だって、今はなしたら本当にそのままいなくなってしまいそうで、ただ、怖くて。
だから、リタに声をかけられてどうしようかとも思った。私のわがままだけど…
リタと一緒にいたのはジュディスさん。それからフレンさんとシンクとイオン。真っ白な顔でシルヴィアの様子をみて、卒倒しそうな彼をシンクが支えている状況だ。
医務室の手前の方ではクレアさんとヴェイグさんもいたから、今は、私は私にできることをしなくちゃいけないんだと思う。
「うん。大丈夫。」
「申し訳ないけど場所を移動させてもらうわ。いい?」
「はい。」
シルヴィアの手が少しずつヒトとしての体温を取り戻したのを感じながら頷く。
立ち上がって、一番近い場所が空けばそこに駆け込んできたのはやはりイオンで、彼女のシルヴィアを呼んで泣いていた。
シルヴィアはあんなことになっているのに、空はひどく澄み渡って、いっそ清々しいほどの蒼を広げて世界の危機を忘れさせてくる。それがひどく憎らしい。だってシルヴィアはあんなに苦しんでいるのに。
「ねぇ、カノンノ。貴女の絵の中に、ニアタが言っていた物質があったわよね。」
「はい。」
「…他にはなにか描いていたりはしない?例えは、シルヴィアによくにた女性の絵、とか。」
ジュディスさんに言われて静かに驚いてしまったのは、彼女にはその絵を見せたことがないからだ。
リタにも見せたことはないはずだ。私の反応に「あるの?」とリタが私に投げ掛ける。世界を見渡せるこの展望デッキは私の特別な場所。
そして、いくつもいくつも綴った絵をおいておく、場所。
特に、今描いている絵…部屋の隅に布をかけておいてあるキャンバスはジュディスさんがいっているように彼女の絵だ。
「もしよければ、見せてほしいの。ちょっと引っ掛かっていることがあって。」
「かまいません。待っていてくださいね。」
うなづいていくつかのスケッチブックをひっぱりだして、テーブルにひろげる。彼女が乗船してからも、乗船する前からも綴っているもの。
広げられたものたちに、リタの目が開かれて、そのままスケッチブックに食いついた。
それは、シルヴィアに見せてすぐに閉じられた、彼女とそしてユーリさんが世界樹をバックに微笑みあっているもの。
美しい夕焼けに、彼女たちの服は夕日に染められているのだけれど、明らかにそれは、
「そうね、こんな…幸せそうに笑う子だったわ…っ!」
吐き出された言葉にどきっとする。
大粒の涙をこぼして何枚も何枚もリタはページをめくっていく。その度に、たくさんの一人の女性の表情が現れてまた彼女は表情を歪める 。
困ったように笑っていたり、美しく立ち回る剣士だったり、夜月明かりに照らされる姿だったり、穏やかに眠る顔。
ユーリさんに髪を結ってもらっている姿、食堂でうたた寝して毛布をかけられている姿。
「今」では見たことのない穏やかな。
「バカよ、本当に、本当に!!あの子は!!」
だんっとテーブルに叩きつけられたのは私の手が知らぬまに描いてたラザリスに侵食されたヒトのようなボロボロな姿をした半分、ラザリスにそっくりなシルヴィアの姿
綺麗なのに、その目は全部を諦めた赤い血の色。彼女の目は綺麗な空の色なのに。私はその瞳を赤に染めた。
「絶対に許さないんだから……っ」
「それは、私たちもだけどね。」
「わかってるわよ!…カノンノ、あんたはあのこの事覚えてたの…、こんなたくさん」
広げられているそれらを見て、リタが言う。確かに、私が見て、感じたものなんだと思う。
でも違うとも言い切れる。
だって、
「……わからない。私はシルヴィアにあったばかりだもん。でも、きっと私の知らない私がいるんじゃないかってそう思ってる。」
「そう、……貴女には辛いことがたくさんあるだろうけど…あの子は真っ直ぐよ。本当に可哀想なくらい。」
ジュディスさんのきれいな指が私の絵を撫でる。その中のシルヴィアはどこかぼぅっとしたまま外を見ていて、どこか儚げな。
きっと、私の知らない「私」が知っているんだろう。
シルヴィアに初めてあったとき、「懐かしい」と思ったように、ユーリさんとあの子が幸せそうに過ごしているのを、すごくうれしく思ったり、一人で抱え込もうとする彼女に泣きたくなったり、
私は…
「(私は、今から何ができるんだろう…)」
20190809
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