白い世界に赤が落ちる。
懸命に足を動かしながら、シルヴィアは雪山をかけ上がっていた。その後ろからサレがゆったりした足取りで追いかけてくる。彼女とは裏腹に、酷く愉快そうな目で
『っは、は』
寒い。
その言葉に尽きるだろう。手も使えなければ攻撃され怪我をした左足から流れる血が意識を混濁させていく。
それでも、足を止めるわけにはいかない。
もしも、彼らが来ているならば、あの場所にいけば合流できるのだ。だったらそこまで行ければ、いい。
力を込めた足が、雪にとられてそのまま転ぶ。
「鬼ごっこはもう終わりかい?あっけないねぇ」
『はっ、ひゅ、ぅ、んっく…』
歪な音。
体を動かそうにも上手く動けない。寒くてたまらない。体に上手くちからが入らないのは、
「ほら、もっと僕をたのしませなよ…!」
『う"!!ごほっかはっ』
振り上げられた足が容赦なくシルヴィアの腹を蹴った。防御なんてできるはずもない。盛大に咳き込めば視界が霞んだ。悔しさじゃない、これは生理的にくるものだ。
「それとも、君はもう諦めちゃった?」
『…っは、誰が…!』
近づいてきた顔に頭突きを食らわせる。
思ったよりも上手く激突してぐわんっと頭が揺れたが、それは相手もだったらしい。運がいい。そのすきをついて再び体制を建て直して、走りだす。
「ちょこまかと…うざいな」
背中に走る衝撃に、呼吸がうばわれる。
あぁ、本当最近こういうことが多すぎるんだ。完全に力が抜けた体は雪の上に落ちて、じんわりと赤を広げていく。
こんなところ、ユーリにみられたら…きっと、きっと心配するんだろうな…。
「そろそろ、楽にしてあげるよ。」
振り上げられる切っ先、
私は世界の危機で死ぬんじゃなくて、この男に殺されるのか。
殺されるならユーリがよかった。あぁでも、ユーリはきっと悪者以外を斬るのを嫌うから、だめか。
あぁ、最後に私が愛したユーリに会いたかった。
ーー帰りたい。
「ーー諦めるとはお前らしくない」
鋼のぶつかる音。視線だけをその場所へむければなびいたのは私と同じ銀色。デューク。小さく名を呼べば弾き返した剣と同時に、私の上に降りてくる影。
「クローム、オイルツリーの元へ運べ。」
ふっと優しくそのくちばしに掬い上げられる。
合わさった目線で彼女が心配してくれていることがわかった。本当にもうしわけない。ばさっと羽ばたいたクロームに、ふわりと浮くなれない感覚。これではまるでこれから補食される獲物のようだが、仕方がないのだろうか。
『血がついちゃうね…ごめんね、クローム』
言葉を告げて、そこで完全に意識が落ちる。
最近こういうのが多くて、困る。
デュークからはオイルツリーへ運べとそう言われたが、この血まみれの救世主を冷たい雪の上に下ろそうとは思えなかったのだ。本来の目的の場所から少しくだったところで魔物の相手をしていた一軍をみつける。
その魔物たちを蹴散らすように翼を羽ばたかせれば案の定雪山を転がり落ちていった。
「おいおい、まじかよ…!」
「随分でっかい魔物じゃないの。」
クロームの姿をみてさらに武器を構えるのはスパーダとレイヴンだった。ここまで来るのに連戦もあるだろう。
だが、こちらに戦う意思はない。自分はこのぼろぼろの救世主を返しに来ただけなのだ。
地上に降りればクロームがくわえていた彼女の姿が見えたのだろう。
顔を青くしたユーリが一目散にクロームの元へ走りよってくる。その際武器を放り投げていたのは彼からすれば彼女を抱きとめようという意思があったからにすぎない。
首を屈めて、咥えられていたシルヴィアが下ろされユーリの腕の中に収まればすかさず彼らを守るようにフレンが前に出るがそれよりも先にクロームは空中へと舞い上がった。
20190711
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