初めて降り立ったガルバンゾは思ったよりも綺麗なところだった。
思ったよりも…と言ったら失礼かもしれないし、特に比べる街もないんだが…。
バンエルディア号から降りるときにセレーナからアドリビトムに依頼する時には道具屋に頼めばいいからね、なんてさりげなく宣伝されたが、そうは言われてもおそらく手紙を届けるぐらいだろう。正直魔物の討伐も収集のお願いも、結局自分でできるものがほとんどだ。だから多分特に交流はなくなると思う。しばらくは。
いつぐらいに戻ればいいだろうか…。いや、きっと…アウリオンが来てくれるかもしれない。それか、噂が一人歩きするだろう。
私は…どうせ、どこにいてもこの力を使う…。
私の手から、光を…。いつかは…世界のみんなの手に、この光が広がっていく…。そして…私は必要なくなる…。
『今は、宿を探さなくちゃ…。』
いらない物は売ってしまえばいい。魔物を倒してガルドを稼げばいい。
いっそ一人でギルドを立ち上げてしまおうか…暁の従者が立ち上がるのであれば、私にもできる気がする…。なんて…
『(歩かなきゃ…)』
私は立ち止まることはできない。立ち止まることは許されない。
ねぇ、…。
立ち止まったところから歩きだす。まっすぐ前を向いて、
「待ってくださいリタ!」
「エステルは待っててって言ったでしょーが!」
そして、懐かしい桃色とゴーグル娘を見つけてしまったのはきっと仕方のないことなのだろう…。驚いて足を止めてしまったが…顔に出てないことだけを祈るばかり。
周りの住人達はその姿を風景の一部ととらえているから…当たり前のことなんだろう。なら、それに紛れるようにまた足を動かした。
それにしてもどうしてあの子はお城から抜け出してるんだろう。放浪癖があったというのか…とりあえず見ないふりをしよう。
彼女らの横を抜けて街並みに紛れる。
少し私は異質な格好かも知れないけれど、でも普通の装備ではあるはずだ。レディアントを装備しているわけではないし…。
「お、お嬢ちゃん見ない顔だね、傭兵かい?」
なんて考えていれば、声がかけられ振り返る。ひらひらと手を振るのは道具屋の…店主らしい。あぁちょうどいいかな、なんて思いながら近づいていく。
道具屋ならばこの国のことについては詳しいだろう。ともかくだ、早めに旅の道具をそろえてしまいたいのもある。
『えぇ、一応。店主、オレンジグミをいただける?』
「まいど! いやぁ、すごいねぇ、お嬢ちゃんみたいな女の子が傭兵だなんて。」
『性別なんて今のご時世関係ないと思うわよ?』
案外、この店主気さくな性格らしい。話しやすいのは正直うれしいけれど…。
「あぁ、そりゃぁねぇ…、今や星晶の回収のために戦争まで起こす国があるんじゃなぁ…特に異国じゃ星晶のある村を襲うっていう国もあるみたいだしなぁ、ディセンダー様がこの世界を見たらなんて思うか。」
『あら、店主はディセンダーを信じているの?』
「そりゃぁ当り前さ! いや、何、俺の実家はかつてディセンダー様をお祀りしていた一族でね、」
アウリオン以外から聞いたディセンダーという単語に、苦笑いしてしまいそうになる。
けれど、この店主はとんでもないことをいうものだ。特にお祀りしていた…なんて…。
「さっき、世界樹が輝いたのを見てね。あぁ、もしかしたらなんて思ったけれど…でも俺は正直、ディセンダー様が降臨されることは救いではなく、むしろ罪だと思うんだよ…世界樹だって悲しいだろうに。」
『面白いことを言うのね。』
「俺の親父はディセンダー様ができれば降臨なさらない世にしたいとずっと言っていたからね。ヒトの都合で眠りから起こされ仕事が終わったら世界樹で眠らされるディセンダー様。あまりにもかわいそうじゃないか。」
でも、あぁ、そういう風に考えていた人もいるのね。
なんて少しだけうれしかった。それはきっと私がディセンダーでもそうでなくても、そう感じるんだろう。
ヒトの都合で眠りを覚まされたディセンダーはヒトの欲望に濡れた世界を救わなければならないのだから…。でも、それはきっとディセンダーというよりも…むしろ、その災厄のほうなんだろう。
「無駄話が過ぎちまった。ごめんなお嬢ちゃん。」
『いえ、面白いことが聞けたから。 店主、この辺で寝泊まり出来る宿ないかしら。』
「宿だったら、この街のギルドの目の前に「彗星」という場所がある。なに、ギルドが目立つからわかりやすい。」
『ありがとう。』
「また買いに来てくれよな!」なんて言い笑顔で言われて品物を受け取り、歩きだした。
ギルド、ギルドか…
『(もしわからなくても、聞けばいいかな)』
きっと、みんな知っているだろう。
Re20210121
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