誰かが私を抱き締めて泣いている。
ごくごく普通の部屋のなかで、夕暮れのなかで、彼が、泣いているのだ。
『ユーリ、』
口のなかがひどく乾いていて喉がいたい。
彼の名をよべば、しっかりとまじわった視線だけれど、彼の瞳から涙が止まらない。
どうして、とそうおもうのにユーリは私に謝るばかりで、聞けない
『ねぇ、ユーリ』
「っ」
『泣かないで…?』
私はあなたの笑顔が見たいの。
再び目覚めたときイオンよりもシンクよりも先に、シルヴィアに飛び込んできたのは、カノンノだった。それこそ、飛び付くと言った方が正しかったのかもしれない。
若葉色の目から大粒の涙をこぼして、声をあげて泣いた。
そんなふうに彼女が涙を流すことがなかったから、シルヴィア自体驚いて固まってしまって動けなくなってしまったのは仕方がないだろう。
それぐらい、彼女がそこまで涙を流す理由がわからなかったのだ。
いや、実際たくさんの心配はかけてしまっているんだろうが。カノンノを抱き締めて背をさすってやりながら回りをみればミラとジュードそれから眠ってしまっているイオンとシンク。それからユーリの姿があった。
口パクで『ごめん』と告げれば理解してくれたらしいユーリがシンクを、それにつられてジュードがイオンを抱えると部屋から退出していき、ミラもそれに続いて出ていった。
カノンノと二人になった部屋で、彼女が泣き止むまで背を撫でて続けた。
しばらくしてカノンノが落ち着きを取り戻せば一番に出てきたのは「シルヴィア、また何日もさまさなかったんだよ!!」というお叱りの言葉だった。
確かにそれじゃあ心配かけてしまうのも仕方がないのかと思ってしまったのだが、力を使うたびに気を失っていたのでは、正直迷惑しかかけていないことだろう。けれどこれに至っては自分ではどうでもできなくて申し訳なくなってしまう。
『心配かけて、ごめん、カノンノ』
「もう無理はしない?」
『それは、保証できないけど、努力はするね。』
謝れば帰ってきた言葉に確実なことが言えなくて申し訳なくなる。
けれど、絶対なんてこの世にはありえないことだから、だから私にはそう返すことしかできない。それは心苦しいけれど、私の言葉に困ったように笑って「仕方ないなぁ」っていってくれた。
「ねぇシルヴィア。少し前にヴェラトローパに行ってきたんだよね。どうだった?」
ぎしっと、カノンノがシルヴィアのベットに座っていった。カノンノはまだあの絵のなかにはいっていないから余計に気になるんだろう
『誰かから聞いた?』
「ううん。シルヴィアから聞きたくて誰からも聞いてないの。」
『そっか、少し長くなるけどいい?』
ならば、一からかそれとも私の考えかと思ったから聞いただけ。その言葉が帰ってきたから息をはく、
『ヴェラトローパはすごくきれいなところだった。そこにはヴェラトローパに住んでいた人の祖が描いた壁画があって世界樹の事やラザリスのこと、それからディセンダーのこと、ディセンダーの武器であるレディアントのこと、それから』
「それから?」
『ディセンダーの生涯を描いた壁画があった。そこでレディアントの装備もてにいれたの』
「シルヴィア、全然着てないけどね」
『だって恥ずかしいんだもん』
くすくすとふたりで笑う。笑い合う。
結局、あの壁画を読み取ったジュディスとあれ以来話していないから、彼女が何を読み取ったかはわからないが彼女は口が固いから大丈夫だという確信もある。
『それから、創世を伝えるものの間で、ニアタっていう別の世界の住人と話したよ。彼らは私たちの世界の事を本当に思ってくれているヒトで、今集めているドクメントの情報をくれたのも彼らよ。』
「そうなんだ、すごいひとなんだね、でも、そんなにいろんなことがあったら戸惑っちゃうだろうな」
いろいろはしょったけれど、そんなところだろうか。それでもしっかりと聞いてくれたから大丈夫だろうと思う。
「…ねぇ、シルヴィア。世界がよくなったら…あなたは予言どおり世界樹へ還らないといけないの?」
一拍おいて吐き出されたカノンノの言葉にシルヴィアは伏せていた目を見開いた。けれど苦笑いして『そうかもしれない』そう告げる。
「あなたは、それで思いつめてるの?」
静寂に包まれる。
キョトンっとしてしまったシルヴィアにたいして、カノンノが寂しそうに「シルヴィアはいつも困ったように笑ってるから」とうちあけた。
「初めてあったとき、ルパーブ連山であなたが光に包まれて降りてきたときからあなたはなにかを諦めて笑っているように思っていたの。なにかをみるたびに、懐かしそうな、でも、悲しそうな目で見てて、」
『カノンノ…』
「ユーリさんを見てるときの目は、まだね、自然なように思えるんだけど、ちょっと私寂しいなって、ごめんね、わがままで」
あぁ、すごいな。そう純粋に思ってしまった。
カノンノは本当に回りをよく見ている。だから、そういう風にまっすぐにいうことが出きるんだろう。
「私ね、シルヴィアにたくさんみてもらいたい絵があるの。この世界のきれいなところも、たくさん、たくさん!きっと私の想像かもしれないけどあなたが笑っている絵も描いてるの!前に見せた絵とは別に」
『うん。しってるよ』
ここに来てすぐにみたカノンノの絵には戦慄したけれど、でも、カノンノが覚えていることに違和感はない。
記憶がというわけではなく根本が。彼女は他の世界の記憶も引き継いで生きているのだから。
「だからね、一人で抱え込まないで、皆いるから、私も、ユーリさんも、それにみんなもいるから」
そう言って笑ったカノンノにつられて笑ってしまった。あぁ、本当に私にとってユーリが特別だと見抜かれてる
「それに、シルヴィアが間違った道に進むなら、殴ってでも止めるから!」
『え、っうん、よろしくね』
けれど、言われたことばに、目尻に涙がたまった。
190306
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