あの命を告げる機械ははずされていた。
ベットから体を起こして、周囲を見渡せば、あんなに部屋にあった機械もすべて撤去されている。となれば、ずいぶん自分は眠っていたんだろう。
『今日、何日…?』
足を床につければ、その冷たさが伝わる。体は思ったよりも動くらしく、しっかりと立ち上がり、歩くことができた。
とにかく状況をつかもうと部屋の外に出たがそこもまたしんっとしずまりかえっていて、誰の気配もない。
はて?と首をかしげるが、みんな出払ってしまっているのだろうか。
だったらと、ホールまで出てみるがそこにも誰もいない。
ただ誰もいないのに、明かりだけはしっかりとついている。
『アンジュ?』
呼び掛けても、返事はない。なぜ?と船のなかを歩き回ってみる。食堂にもお風呂にも、研究室にも誰もいない。
ただ、静寂のなかに私がいる。
ここは、いったいどこなのだろう、
そう思って、最終的に甲板に続くドアを、潜った。
『…え?』
開いた戸の先は、エラン・ヴィタールに似た場所だった。美しいラザリスの、ジルディアの世界。
まだ、そこまで物語が進んでいるはずがない。
どうして、なに、私は、いったいどれだけ眠っていたの?
「シルヴィア!」
腰に抱きついてきた白。
それは、何度も戦ったラザリスであり、けれど、ラザリスにしてはひどく、感情豊かだと、
「あぁ、やっと僕のものになってくれたんだね。僕の声に答えてくれた、あぁ、嬉しいよ!嬉しい!だから、あんなのもう要らないよね?」
あんなの?
と、ラザリスがいったさきには、血まみれで倒れる「みんな」がいた。
そのなかで唯一、ユーリが、その腕にエステルを抱いて私を見ている。たしかな殺意をもって私を…
なぜ、どうして、これは、いったいなにが、どうして、どうなっているの?
「っシルヴィア、お前!!」
それは、怒りだ。
純粋な怒りと、嫌悪と、拒絶と、憎悪と、怨嗟と、悔恨と、
いろんなものが波乱だ、噴煙。
「裏切ったのか!!!!」
裏切ってなんかない。どうしてそんなことをいうの。と、そう思うまえに、「うるさいなぁ」とラザリスがいった。
「シルヴィアはお前たちのことなんて、もう要らないんだよ」
違う。
「あぁ、でもお前たちの方が先にシルヴィアを苦しめたんだ」
違うっ
「だからシルヴィアは、僕の声を受けれいてくれたんだよ?」
違う違うっ!!!
「お前たちは、もう要らない。」
「シルヴィア!!!」
ひっぱり出された世界、異常な音を発しているその機械に耳がいたくなりそうだった。それ以上に呼吸が苦しくて、身体中がいたい。
必死に手を伸ばせば、しっかりと手を握り返してくれる。
「そうだ、いいこだ、ゆっくり息を吸え。大丈夫、大丈夫だ。俺の心臓の音、聞こえるだろ?」
ひゅぅっと喉がなる。
けれど左耳に、しっかりとヒトの暖かさと、一定よりも少し早い速度で鼓動が聞こえてきて、また、息をはいた。
『ゆぅり…?』
「あぁ、おはよう、つっても今は夕方だけどな。」
ゆっくりと目を開いたが世界は白いままだ。それに、また恐ろしくなって、ユーリの手にすがるが、するりと抜けたその手が、私のまぶたをおおって黒い世界に逆戻りする。
「今はなにも見なくていい、大丈夫だシルヴィア。大丈夫、大丈夫。ちっと疲れてただけなんだよな。」
その手が私の頭を優しく撫でる。髪をとかすように、優しく下に降りてはまた上から下に。
大丈夫だと言い聞かせながら。
『ユーリ、私、私、』
「なんだ?」
『裏切ってなんか、ない。裏切らない、裏切れない。私は、私は!!』
「あぁ、知ってるよ。お前は優しすぎるんだもんな。」
涙がぼろぼろ溢れていく。目のおくがあつくてたまらなかった。
あれは、きっと、私が裏切った世界の未来だ。
私はなにかに絶望していたんだ。何に絶望していたのかはわからないけれど、ひどく心が虚無だった。
「もっと俺を頼れ、シルヴィア。」
あぁ、私は、その言葉にその声に何度、救われたんだろう。
『ユーリ、』
「なんだ?」
『ありがとう、大好きよ』
ここにいるあなたではない「あなた」が
190226
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