ディセンダーという存在は、英雄のようであって英雄ではない。
カイルの世界でいう英雄とは自分の両親であるスタンやルーティ、そして仲間だったというウッドロウとフィリア。選ばれた者たちのことだったらしい。そのうちの一人にリオンも居たらしいが、彼は仲間を裏切った反逆者としてその名を歴史に刻んでいた。
けれどそれはカイルの世界の未来の話であり、ここの世界とはもともとの理が違う。
「ディセンダーは生まれながらの英雄なんでしょ?いいなぁ。」
だから純粋な問いと、その言葉が酷く苦しく苦笑いしか溢せなかった。
『カイル、生まれながらの英雄なんてどこにもいないよ』
「え?だって」
『ディセンダーっていうのは“降臨するモノ”。英雄っていうのはその行いが認められて人々がつける名称。なりたいと思ってなれるようなものじゃない』
私は一度、世界を裏切った。自分の私欲のために、世界を捨てた。
それでも世界はディセンダーを求めた。私はディセンダーになるしかなかった。救世主として、死になさいと言われ続けてもうどれぐらいたったのだろうか。
「そうなの?」
『ディセンダーだって悪いことぐらいするわよ?』
「シルヴィアも?」
『さぁね。それはヒトの価値観と評価だから』
にこりと笑いかける。
はやく先に進めばこの場所からも出れる訳だし、と足を進めてすぐにカイルに呼び止められる
「ねぇ、シルヴィア!」
『なに?』
「シルヴィアにとって英雄ってなに?」
「これで最後だから」とカイルがじっと私を見ている。
私にとっての英雄。そう考えて思い付くのはたった一人の男。
『大切なものを守るために手段を選ばない自分の志と正義をしっかりと貫けるヒト、かな。』
黒髪が脳裏でなびく。
その後ろ姿が振りかえれば彼はまっすぐ私に笑いかけてくれる。
怒ったり、笑ったり、泣いた顔は見たことないけれど、彼はまっすぐで、嘘がきらいで、きれいな私にとっての光だった。あの人のところに何度も帰りたいと思うが等しく難しいことだ
「そうなんだ」
『うん。私も世界にとっての英雄じゃなくて誰かにとっての英雄になりたいってそうおもうよ』
「おーい!こっちに下の階の道があったわよー!」
響いてきたしいなの声にそちらを向けば先に進んでいたジュードとしいながこちらに向かって手を振っているのがみえる。カイルと目を会あわせて、『行こうか』と笑い、歩き出した。
「誰かいるよ。」
あぁ、この世界はやっぱりおかしい。
美しい青い水晶の前にやはりいつものごとくあの狂戦士はいた。じっと目を伏せなにかを待っている姿は酷く不気味と言った方がいいのかもしれない。瞬間、突然刮目して、その眼が周囲を見渡す。
「みつけた、みつけたぞぉ、シルヴィア…!」
『…え?』
まっすぐにまっすぐに私だけをみて、男の口許がつり上がる。
いまこの男はなんていった?
野性的なそのぎらぎらとした眼が殺気を孕んで私のことを写しこんでいる。
なぜ、この男が、私の名前を…
ぐるりと風を裂くようにバルバトスの武器である巨大な斧が振り回された。
そしてそれはまっすぐに私に向けられる。
確実にヤツは私を覚えてる。剣を抜いて構えた瞬間に飛ぶ勢いで私に切りかかってきた。
鉄同士があわさる音と、火花が散る。
「シルヴィア!!」
カイルの叫びを耳にしながら考える。どうしたらいい、と。
「シルヴィア!
瞬間、後方からジュードの攻撃がバルバトスを襲った。弾かれるように飛んで回避した相手と改めて距離を取るようにバックステップを踏む。
しいな、カイルと次々にバルバトスに向けられる攻撃。けれどあいつは心底悦楽にしたるようにその表情を歪ませる。
「シルヴィア、大丈夫?」
『平気、これがなきゃぁなぁ…』
そう、この男さえ出てこなければ簡単に結晶にたどり着けるのに、腹が立つ。ひゅっと朱雀剣をふるって駆け出した。
『白破!!』
ぐるっと体を回転させて攻撃を繰り出す。意識をこちらに向けたバルバトスとカイル。少し抜けただけであきらかにカイルが押されていた。それは仕方ない。この世界が異常なのだ
「カイル!勝てる相手なのかい!!」
「心配するな、その答えはひとつしかない。貴様らはここで躯になるだけだ。逃げられるとおもうなよぉ?特にシルヴィア、お前はここでころしてやる!!」
しいなの叫びに、嘲笑うようにバルバトスは言った。そのまま斧が巻き起こした爆風にしいながとばされてしまうが、そのしいなの体をジュードはしっかりと受け止める。
その一瞬にシルヴィアは飛び上がってバルバトスに青龍刀を投げつけた。鈍い音と共に弾かれてしまうが、もう片方の朱雀刀を振りかぶる。勢いそのままに宙に降り飛ばされるが、しっかりと空中で体制を建て直して、壁に足をつけて跳ね返り、ついで、懐にしまいこんでいたマン・ゴーシュを投げ飛ばす。
肉を切らせて骨を立つ。まさにそれが体現されたというのだろうか、腕で飛んできたそれをつかむでもなく、突き刺さらせた。
「いいぞ、いいぞ、いいぞ!!!そうだ!オレをもっと高ぶらせろ!!」
いっていいなら、ドン引きしてる。
けれどささったそれを引き抜いて、そこについた己の血をなめたとる姿をみると、まさに、狂ってるとしか言いようがない。
「っくそ、くそ、くそ!!!」
「カイル君!!」
まるで戦っているのを、遊びのように。
それをみて、許せないところがあったんだろう。まるで、むちゃくちゃな。
「お前なんかに、父さんたちは殺させない!!!」
けれど、彼にとっては切実なことなのだ。家族の命がかかってるのだから、必死になるのだって理解できる。
けれど無鉄砲すぎる。剣を振り上げて、いってしまってはダメだ。
190220
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