レディアントを装備しているせいか、そこからあまり魔物が襲ってこなくなった。それは心底ありがたいことだ、ここにいる魔物、特にメデューサローパはシルヴィアの最大の天敵である。
だからこそ、なんなく進み、外に出るための扉を開けば強い風が吹いて、全員の髪がなびいた。
そんな風の音しかしない「創世伝えし者の間」。まっすぐに延びる通路を歩いていけば、そこには、宙に浮かぶ「ニアタ」がいる。
「これは…」
目を細めたジュディスと「ここ,ヴェラトローパとはまた異質なものだな…」端的にそれを分析したキールがそういう。その様子を少し離れたところでシルヴィアとミラは見ていた。
「私,呼びかけてみるわ」
息をはいて、ジュディスは意識を集中させる。
【我々を呼びかけるのは誰だ…】
「し,しゃべった!」
【そなたらは…ルミナシアの民か、ん、お前は…】
そのジュディスの呼び掛けに、ノイズ混じりの言葉が発せられる。
驚きの声をあげるキールとは別に、事態を確認しているらしいニアタが回りをみて、シルヴィアを写した。
『そっか、「久しぶり」って言った方が、いいのかな、ニアタ・モナド』
【あぁ,そうだな、改めて、我々はニアタ・モナド。肉体を捨て,ディセンダーの介添人として,一つの機器に宿った精神集合体だ】
「ディセンダーの介添人?」
【そうだ。そなたらと異なる世界【パスカ】のディセンダーに使えしものだった】
残念ながらシルヴィアの予感は当たったらしい。告げられた言葉に、ニアタは否定をしなかった。
「異なる世界のディセンダーってことは。君の世界にも世界樹があったのか?」
【左様。だが,我々の世界は遥か過去に寿命を迎え,もう存在していない。世界もなく,仕えるディセンダーもおらず,我々は朽ちぬ機械の身体のままあらゆる世界を旅している最中に…,まだ種子の状態だったこの世界を見つけたのだ】
「そして、この世界の創世をみたということだな。」
【そうだ】
なんども聞いた会話だった。
少しでも違和感があれば、と、耳を済ませて集中しているが、今のところはなにもない、はずだ。
【この世界が我等の世界の記録を受け継ぐものかどうか,それを知るためにとどまった。】
「記憶?」
【世界樹の種子は,その親となる世界の記録を受け継ぐ。どのような者が存在したか,どのような生命が存在したか・・・ すべての情報を受け継がせる】
「それじゃ,本当に生物と・・同じなんだな」
「じゃあ伝えられる記憶を元に新しい世界は創世されるってことだな」
ニアタの動きが、止まった。
まっすぐにシルヴィアを写しているように見えたのは間違いじゃない。無機物であろうと、彼はなんどもシルヴィアの最期に立ち会っている。
【そうだ,そうして,生まれ行く世界は進化し続け新たな縁をうみ、孤独を呼ぶことがある。】
「孤独?」
【あぁ、だから我らはあの壁画を作った。】
『それって、あのレディアントがいたところの?』
【あぁ。それに,我々には思いがある。世界に危機生まれしとき,そこに住む民に力を貸すと】
そしてそこまで言ったニアタはシルヴィアへと視線を向ける。
彼に感情があるのかわわからないか、彼は波、間違いなくディセンダーの生まれた意味を理解している。
【シルヴィアよ。そなたが生まれたというなら,また、そのときなのだな】
『そうだね、私はまた生まれたよ。この世界のために。』
【あぁ、そして、「生命の場」を持たない情報だけの存在も再びこの世界に芽吹いた。世界樹の種子に実体はない,輝くエネルギーの実で構成されている。そこには,生命を生み出す力「生命の場」といかなる世界を構築するかの「情報」がある。この二つがなければ種子は芽吹かない。」
「情報…言い換えれば,ドクメントだけの存在だったラザリスに,私達の世界の人間が願い…」
「それをかなえてラザリスは力を手に入れたってことか?」
ディセンダーと異世界の住人の話としたら違和感はないのかもしれない。
ただ、状況を理解できない彼らからすれば疑問が増えるのはしかたないんだろう。
『ニアタ、』
【どうした】
『この世界は、私のせいでーーー』
空間が引き裂かれた。赤い光が的確にニアタを壊した。
瞬時に背後を振り返ったジュディスたちとは裏腹に、静かにシルヴィアは振り返り、その姿をとらえる。
「時空が騒いだと思ったら、こんなのがあったなんてね」
『ッラザリス』
「僕が何者か分かったようだね。そう,僕は「生まれるはずだった世界」、「ジルディア」にしてその一部。だけど,僕の種子は芽吹かなかった。」
芽吹かない。
その言葉に、シルヴィアは表情をしかめたが、「シルヴィアはそんな顔しなくていいんだよ」とラザリスはわらう。
「僕はね、あのまま何度も朽ちるはずだったんだ。でも、世界樹は僕を取り込み,星晶で封じて何度も目覚めさせた。なんとために封じたのか、僕には全然わからなかったんだよシルヴィア。でもね、君が堕ちかけたときやっとわかったんだ。」
赤い瞳がうっとりとシルヴィアだけを写す。
その視線の交わりをたつようにミラが間に割ってはいった。
くすくすと笑い声が聞こえる。
瞬間強い悪寒。
がくっと体から力が抜けて一瞬首がしまったような苦しさが体を支配した。
倒れかけた体を、キールが支えて地に座らせる。
「なんだ,あれは」
そして、気がつく。
空に向けられた美しい白のキバ。
「あれは僕の世界のほんの一部。まだまだ世界樹が生命の場を譲ってくれそうにないからこれだけしかできないけど。すぐに手にいれるよ。シルヴィアを苦しめる世界なんてなくなってしまえばいいもの。ね?全てを僕に頂戴?」
その目は本気だ。世界よりもラザリスはシルヴィアを求めている。
きゅっと体を守るように抱き締めた彼女にまた口許をつり上げて、ラザリスはその姿を消した。
あぁ、寒い。
体がそう訴えている。それは高度が高いところにいるからとか、そういうわけじゃないなんてことは、わかりきっていた。
この不調は明らかにジルディアのキバによるものだ。
気が抜けて足がもつれる。
すぐ前にいたジュディスが気がついて、その体を支えてくれたが、震えが止まらないのが、きっと伝わってしまっただろう。
「シルヴィア、あなた。」
『ごめん、体に力がはいらなくて、』
「大丈夫よ。失礼するわね。」
シルヴィアの様子がおかしいことは創世の間にいたときから気がついていた。
だからきにかけていたが、明らかに顔色がおかしい。
それこそ、死人のような、
体を抱き上げれば、嫌でも彼女の体が冷えきっていることに気がつく。
すたすたとそのまま歩いていけばキールから驚きの声があげられたが、今は気にしている暇はない。
魔物はあらかた片付けてある。だから問題はない。
早く休ませなければ、と
腕の中で完全に意識を飛ばしたシルヴィアに表情を歪めてしまったのは…きっとあれを読み取ってしまったからだ。
暖かい。
添う思ったときには、特に手が暖かかった。ゆっくりと目を開ければ、目の前には黒。
ぼんやりとした頭で何があったのか考えるのだが、ヴェラトローパの途中から意識が飛んでいた。ということは気を失っていたのか、力を、使っていないのに。
「起きたか。」
『ユーリ、』
「ジュディスから聞いた、体調悪かったんだってな。」
優しく髪を撫でながら、ユーリがいう。
手は握られたままだが、その優しい手つきにまただんだんと体が休息を求めているのが嫌でもわかって苦しくなった。こんな、足手まといじゃないか。
「シルヴィア、お前考えすぎだ。」
『え?』
「足手まといだとか、誰もそんなことおもってねぇよ。むしろ、相談してほしかった。いいんだ、弱音ぐらいはいてくれたって。そのために俺はいるんだから」
日の光の下では死んでしまう優しい夜の宝石が.シルヴィアを写す。
何よりも優しい、夜の石。あぁ、この男の前ではただのヒトになりたいのに、それがなかなかできない苦しさが、悲しい。
『ありがとう、ユーリ。でもユーリは、エステルのそばにいなきゃ』
「は?んでだよ」
『だって、エステルはユーリを必要としてる。だったら』
「じゃあお前は?」
『え?』
まっすぐ剃らされることのないその言葉と視線は、逃げることを許さなかった。もともと許されていなかった。握られていた手の強さが増した。あぁ、今、私はユーリにひどいことを言った。
『私は、そんなこと言える立場じゃ、ないもの。』
「シルヴィア、嘘つくな。」
『でも』
「今は俺と二人だけだ。頼む。お前の本心をいってくれ。」
きっと、この答えは、ラザリスがもっともほしい答えなんだろう。だから私は口には出せない。
嘘じゃない。嘘なんてついてない。頼ってしまっては、崩れてしまう気がするのに、
するりと手を解いて、目の前のユーリの腕の中に潜り込んだ。トクトクときこえるそのユーリの命の音に、心が酷く安心する。
私は、この人に生きていてほしい。
ユーリが生きていてくれるならば、笑っていくれているならば、幸せでいてくれるのならばいくら傷ついたって構わない。
そう思うようになったのは、いつからっだったけか。
「シルヴィア?」
『…ユーリ、私、ユーリが大好きよ。大好き。でも、ユーリはエステルを守ってあげてよ。私は、守られるほど弱くないから。』
「あのなぁ。」
『二人きりのときだけ、ちょっとだけ独占させてくれれば、私はいいから。』
さみしいとかくるしいとか、そういうのはこういうときにだけおいておこう。
おいておけるように気持ちの整理をしよう。
そうすれば、大丈夫だ。
閉じた瞳に、命の音を感じさせて、
190216
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