数日後、空中に出現したヴェラトローパに、あぁ、カノンノがドクメントを展開したんだなと、そう思った。
「シルヴィアさん、」
『アンジュ、ヴェラトローパの調査任務、私にいかせてくれないかな』
もしかしたらニアタに記憶があるんじゃないかとか、そんなわずかな可能性を思ってしまったから、だから申し出る。
そうすれば「え、でも、いいんですか?」なんて言われて、苦笑いをしてしまったのは、きっと
『私はディセンダーではあるけど、アンジュだってディセンダーだよ』
「え?」
『特別な力があるからディセンダーじゃない。アンジュはこの世界を守ろうと、誰かを守ろうとしてる。だから、アンジュもディセンダー、誰もが特別で、誰もが一番なの。』
笑って見せる。
そうすれば、「やっぱりあなたはディセンダーなのね」とアンジュが微笑んだ。
そんなつもりは毛頭ないのに、うまく伝わらないのは残念だ。
「うん、じゃぁ、お願いしようかな。同行者はジュディスさんとキールくん。もう一人一緒に行けるけど、どうする?」
『ミラも一緒でいいかしら。』
「わかったわ。手配しておくね。」
「まだ準備があるから明日ヴェラトローパにつけるようにしておくよ。だから今日はゆっくり休んで」と言われて頷いた。
「アンジュ!…あ、」
ぱたぱたと、駆け込んできた姿が、シルヴィアをみて立ち止まる。
明るい声から一転、なにかを孕んだ瞳が彼女を写した。
『エステル、アンジュに用?』
「…気安くそのなを呼ばないでください。」
空気が変わった。それはきっと、第三者であるアンジュが一番に感じ取ったことだろう。一瞬だけ驚いたシルヴィアだったが、ふぅっと息をはいた。
そういえば、今回は特に、ダメだったんだったと、今更ながらに思い出して、頭を切り替える。
ユーリとさも平然と過ごしてしまっていたからダメだったんだ。
『失礼いたしました、ヒュラッセイン様、アンジュ、私はもういくね。』
「え、えぇ、わかったわ。ごめんね。」
ごめんね。とはなにに対してか。
それににっこりと笑ってから身を翻す。彼女の後ろにユーリと驚いた表情をしたフレンがいたから、きっと彼を迎えにいっていたんだろう。
ひらりと手を振ってホールをでた。さて、どこにいこうか。
*Side Yuri
「エステリーゼ様。」とフレンがエステルに声をかける。
けれどエステルは視線をしたにしたままぎゅっとっ服を握りしめていた。
もともと、フレンから手紙は来ていたし、これを気にとコンフェイト大森林にフレンを迎えにいって、帰ってきてこの有り様だ。もともと、一方的にエステルがぴりぴりしているとは思っていたが、異常すぎる。
「なに話してたんだ?」
「シルヴィアさんと?」
「あぁ」
「ユーリ!!!!」
叫ぶような、声。
俺もフレンもアンジュも、その声におどろいて振り替える。
ぼろぼろと大粒の涙をこぼして、エステルは俺を見ていた。
「私のまえでっあの人の話をしないでっ!!!」
それは、今まで絶対になかった行動だ。そのまま、両手で顔をおおったエステルにフレンへと視線を向ければ苦い顔をして俺をみて頷く。
「エステリーゼ様。お疲れになってるんです。お部屋にいきましょうか。」
「嫌ですっユーリ!」
「俺はお前のお守りをするために船に乗ったんじゃない。」
「っ!」
ちと、甘やかしすぎた。
エステルが俺の言葉に顔をあげて、またくしゃりと表情を歪める。どうしてこんなになってしまったのか、
いままでのエステルじゃ考えられないすがたに、俺でさえどうしていいかわからない。
「俺はお前の騎士様じゃない。帝国に属してるわけじゃない。お前のわがままを聞くためにここに乗ったんじゃない。俺には俺のやるべきことをやるためにここにいる」
厳しすぎることばかもしれない。だが、この様子のエステルは王族失格だ。俺の嫌いな貴族に成り下がるぐらいならば、さっさと突き放して目を冷まさせた方がいい。
190215
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