『小物ばっかでそろそろ腹立ってくる。』
ぽつりとこぼしてしまった言葉に「同感」とシンクが伝った汗を拭った。
なるべく水系か闇、光の魔術で攻めているものの次々に襲ってくるやつらは容赦ない。体力だけが削られていくことにイラつきながら何個めかのパイングミを口に放り込んだ。
「道具使いすぎだろ。」
『前衛にたてない分消費が激しいの。それに自分で作ってるものだしいいじゃない。』
ユーリに言われてむすっと言葉を返す。そのまま腰に下げていた自分の分の水筒を彼に放り投げた。
「ん?なんだよ」
『水分温存するのは構わないけど倒れないでよね。』
「…っはは、ばれてたか」
それをキャッチして、首をかしげるユーリにあきれたようにシルヴィアは言う。実際、シルヴィアの言うとおり、思ったよりもサボテンで給水できるポイントを見つけられず、補給をおろそかにしていたのは事実だ。
見られていたのか、と苦笑いしてしまったが「お前の分をもらうわけにはいかねぇな」とそれを突き返した。
『それにしても、案外見つからないもんね。』
「シルヴィアは目的の魔物がいるの?」
「ティランピオン、でしたか?」
水筒を受け取って、一口口に含む。
それから呟いた言葉にシンクが首をかしげたが、求めていた答えはすずが告げてくれた。
ティランピオン。巨大なさそりのような魔物でなかなか普通の人間では会わないような大きさだ。
「あぁ,この砂漠の中でも,厄介な相手だ。普通の奴が束になってかかっても,なかなか倒せるもんじゃねぇ。」
『だからこそ、私たちが倒しておけば、きっとヘーゼル村の人たちは少しでも楽に進めるかなっておもって』
「そうだな。早いとこそいつを見つけ出してさっさと帰ろうぜ。」
実際のところ、早く任務を終えたいというのは本当のところだが、ユーリの目的はもうひとつある。
シルヴィアと一緒に出れる任務は今まで確実だったのはこの任務だけだった。次はない。
ならば、この任務を早々に終わらせて船に戻る前にシルヴィアとオアシスのところで話そうと思っていたのだ。それこそ、料理を作る約束でも、次に出る任務でも、とにかく、この次に彼女と接点をもつためのこと。
でなければ船にもどって間違いなくエステルがそばにいて離れなくなる。そんな予感がしていた。
『シンクも無理はしないようにね。』
「シルヴィアもね。アンタが倒れるとイオンが悲しむし。」
『うん。気を付けるね。ありがとう』
それに、シルヴィアにはシルヴィアの仲間もいる。彼女が記憶があろうがなかろうが、今の彼女の一番の仲間と言えるのはシンクを含めた乗船したメンバーだ。
とるとられるというレベルじゃないが、不安でしかない。彼女に返事を待つといった反面、せっかちなのは不安だからだろうか。
「ユーリさん、大丈夫ですか?」
「あ?あぁ大丈夫だ。わりぃ考え事。」
ただあまりボーッとするのはいただけないなと、苦笑いをこぼす。まだ重要任務中だ突然おそわれることがあるのかもしれないのだから気は抜いちゃいけない。
「シルヴィア、この任務終わったら杏仁豆腐食べたい。」
『うん、作ろうか。この任務終わったらみんなで食べよう』
「お、いいな。」
「私もいいんですか?」
『もちろん。』
***
まさかと、そう思ってしまったのはきっと仕方ない。ロッドを握りしめながらシルヴィアは表情を凍らせることしかできなかった。なぜ?どうして?そんな思いすら交わっていく。
「はは、でかいな」
「しかも、二匹…!」
常なれば、一匹だけのはずだった。なのに、二匹、しかも片方は今まで見たなかでも倍の大きさじゃないだろうか。
これは、どうしてだと、思ってしまうのだが早々に片付けることに間違いはない。
すずもクナイを構え,シンクも構えをとる。
砂ぼこりを撒き散らしながら、突進してくるティランピオンに、全員が散った。
『火の洗礼!ファイアボール!』
この暑さで炎を使うなとかそんな悠長なことはいってられない。意識を集中してそのまま追撃体制をとるのに、足元にさらに魔陣がひろがる。最初に6連、新たに展開した陣で追撃、連続で12打。
そのままくるりとロッドを回して息をはく。
戦況を確認するためにバックステップを踏んで距離をとった。
前にここで痛い目を見ているからなおさらだ。
「きゃぁ!!」
「蒼破!!連斬!」
すずの悲鳴。
追撃されないようにすぐにユーリが衝撃破打ち込んだ。そのすずを抱き抱えてシンクが飛ぶ。
駆け込んでいって腰に刺していたマン・ゴーシュを引き抜いた。
『牙突衝!』
「お、おま!」
『白破!連斬!!』
それは今ビジョップで出てきているシルヴィアの技ではない。あきらかに盗賊の。
「はは、むちゃばっかしやがって…!」
元々今は使いなれていない武器ではあるが、背合わせになって笑う。
ユーリが駆け出したのをみて手にもっていたマン・ゴーシュをティランピオンに向かって投げつける。
それはハサミで弾かれてしまうが、それでいい。
くるりっとロッドを回して砂につきつけた。
ふぅっと息をはいて、狙いを定める。
シンクがすずに視線を向ける。それに頷いて二人もかけだした。
『天地祀る我が名はディセンダー! きらめき、貫き、そして打ち倒せ!!雷鳴!インディニグション!!』
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