空に近いところで風を浴びながらシルヴィアはただ世界樹を眺めていた。
バンエルディア号。しいてはアドリビトムに加入してからすでに数日。
まさか例のごとく入団テストを受けるとは思わなかったが問題なく通過して、今日。
さすがに初日の全員の視線は痛かったので一緒に来ためんめんと一緒にいたのだが、まさかジュードやミラ、シンクにイオンまで一緒に来てしまうとは思わなかった。
デュークに関しては置き手紙だけで別れてしまったが、それは仕方がないだろう。あの男がいないのが悪いのだ。
「久しいわね、ディセンダー」
『セルシウスも、記憶があるとは思わなかったなぁ』
甲板にはいつも氷の精霊がいた。
けれど、まさか彼女が記憶をもってこのばにいるとは思わなかったのだ。
世界樹も必死なのかな、と思ってしまうが逆に考えれば逆行するのに全員の記憶を消す力が弱まっているということなのか。
「あなたはいつも辛い道を歩かされるのね。」
『そうなのかな。でも、今回はいつもより落ち着いてるつもりなんだけどな。』
「いいえ、きっと」
『いいの、「私」の寿命なんだと思うし、わがままもできたし、もう悔いはないよ』
悲しげに眉を寄せるセルシウスを安心させるように、微笑んだ。早期で入団しなかったことでおそらく一部の面子からは嫌われてしまうことも覚悟していること。
今はまだわからないが、この先どうなるのか自分では全く想像がつかないが、大丈夫。
『私は、ディセンダーだもの。ヒトになりたかったヒトのなりそこない』
自分の価値はそれでいい。
なぜ、世界樹はディセンダーを「ヒト」の形にしたのかもわからない。どうしたいかの願いもわからない。
ならば、獣の形でもよかっただろうに。
*** *** ***
「あんた、ヴェラトローパって知ってる?」
それは突然のこと。
食堂でミラたちに軽食を作っていたところにやって来たリタの言葉だった。
そんな順番だったけかとまばたきをしてしまったのだが、それは仕方がないことなのだろう。自分が入ってくる順番にあわせて進んでいるのだから。
『創生の立会人に会いたいってこと』
「えぇ!そうよ! どうしても行き方がわからなくて、そもそも地図上にはない場所だし。」
『そうね、ヴェラトローパは現世には必要のないものだから私たちの目には見えないのよ。非物質なの。』
「それは、しってるんだけど」と悔しそうにかんがえこんでしまう。
ということは、カイルたちを呼んでしまったあとのことかと、ひとつ納得してちらりとミラをみれば、食べるのに必死でこちらに興味すらないようだ。
ジュードは苦笑いを浮かべているがシンクとイオンはもともと興味がないのだろう。
「その、非物質を物質に変える方法が、うまくいかないのよ。それで」
『精霊ももともと非物質で契約者との繋がりによって物質化して見えるようになってるわ。』
「あんたは、その人を知ってるの。」
どう説明したらいいのだろうか、と考えてしまう。露骨に言えば、彼女が困惑してしまう可能性が高い。
あのときはどうだったのかと考えていれば「ヴェラトローパの気配を持つ娘ならこの船にのっているだろう」とミラが告げた。
「ちょ!!それどういうこと!」
「私たちのところに来ていた桃色の髪の娘。あの娘は他のものと違う気配がしたぞ。」
「っありがとう!!」
食堂からリタが駆け出して行く。
「うるさいところだね」とシンクがあきれたように息をはいて作ったプリンをスプーンでつついていた。
「でも賑やかで楽しいですよ。」
「そうだね、ここは子供が多いから楽しいね。」
「それがうるさいってこと」
『シンク。みんなと仲良くしてね。』
それぞれの意見はあるだろう。
特にシンクはクールだからうるさいと感じてしまっても仕方ないかもしれない。
イオンは非戦闘員として登録はさせてもらっているが、ここに来て治癒術の才が出てしまったこともあってジュードと共に医務室に配属となりそうだ。
とはいっても、まさか「昔」私が使っていた部屋がそのまま私たちの部屋になるとは思わなかったのだが。
「それにしてもシルヴィアは料理も本当に得意ですね。いまはなにを作っているんですか?」
『アップルパイだよ。あそこから持ってきたリンゴでまぁ特産品みたいな?かんじかなぁ。これからもよろしくねってことで』
「そうなんですね!」
アップルパイは少々嫌な思いでもあるものではあるが、今は関係ないものだ。
いくつめかのパイ生地をオーブンにいれて完成したものはそのまま冷蔵庫のなかにいれていった。
「お、全員勢揃いだな。」
「よっシルヴィアちゃん。」
『ユーリ。レイヴン。…と、エステリーゼ様と、?』
「失礼、わたくしライマ国、王女のナタリア・キムラスカ・ランバルディアと申します。」
「私はウッドロウ・ケルヴィンだ。」
その作業をジュードに手伝ってもらいながら過ごしていれば開閉音と共に入ってきた黒に振り替える。
ひらりと手を振って入ってきたレイヴンとその後ろに王族が続く。
エステルはともかく、他二人は何ようなのだろうか。
「わたくしたち、ユーリからあなたの過ごしていた場所の話をききましたの。もしよろしければガルバンゾだけでなく、わたくしたちの国でも不可侵条約を結ばせていただければとおもいまして。」
「ガルバンゾが敵対している国も大国の保護のある場所をみすみす攻撃する頭は持たないだろうとおもってな。いかがだろうか」
ぱちぱちとまばたいてしまったのは反射だろう。そんなつもりは微塵もないのだが、とりあえず国の重要人物たちをたたせたままなのはどうなのだろうか。いや、私は全くもって関係のないことなのだが、ちらりとジュードをみれば顔を真っ青にしていた。
『イオン、シンク、そこを譲ってくれる?』
とりあえず、だ。
とりあえずそういえばにこやかに「どうぞ」とどいたイオンと反対にむすっとしたままプリン片手に移動したシンクと正反対すぎて笑いそうになったがユーリの目がプリンにいっていたことには気がつかなかったことにしたい。
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