バンエルディア号が森の入り口につくや否や、飛び出したのはリタだった。
それは、研究家として気になって気になって仕方がなかったその場所に、その存在に会えるという期待からだろう。
その後ろをアンジュとジェイドが続いて、そして彼らの護衛としてレイヴンとジュディスが続く。
なぜ、この二人かといえば、よくこの森に魔物の討伐に来ていたからだ。
ものの見事に船に取り残されたエステルはやはり文句をいったが、ナタリアとアッシュに諌められていた。
森の中を迷わず進んでいくジェイドのあとに続きながら、たどり着いたその場所に、アンジュは驚く。自分の協会がやろうとしていることは、まさに、この場所が再現してくれていたのだから。
人々が手を取り合い、そして星晶を使うこともなく、使う必要もなく生活しているその様子。魔物ですら平然と暮らし、共存している。そんなディセンダーがいるとされる場所で手伝いをしていたらしいユーリがやってきたメンバーを見つければひらりと手をふった。
「ずいぶん早いな。」
「えぇそりゃいって戻ってくるだけですからね。彼女は。」
「今ミラたちと話中。もうちょいで終わると思うぜ?」
ミラ。
その名は遺跡ですこしだけ共に共闘した女性の名だと記憶していた。
ということはここにはシンクもいるのだろうかと、アンジュの視線は里の中にむけられる。
「セレーナ。待たせたな。」
けれどそれはすぐに終了。
ユーリの後方からやって来たクラトスとシルヴィアの姿に、アンジュは「いえ、私も今来たところだから」と笑った。
『お久しぶりですアンジュさん、』
「アンジュでいいよ。この間は助けてくれてありがとう。えっとディセンダーって言った方がいいのかな、」
『普通にシルヴィアって呼んで?別にディセンダーは特別なものじゃないもの。』
「何が特別なものじゃない。よ!!十分特別じゃない!」
ばっと、シルヴィアとアンジュの間に割ってはいったのはリタだ。
リタ自身、自分がしるシルヴィアという人間と、生物変化を治すというシルヴィアが同一人物かどうか疑問ではあったが、実際あってみて確信する。
「だから、アンタは早い段階で生物変化や世界がどんな危機をむかえてるかを知ってた。違う?」
それは、あの日言い当てられたことへの探求。
けれど『えぇ、違うわ。』と、彼女はその可能性を真っ向から否定した。
「何がちがうのよ!」
『むかえてるか、じゃない。私はその危機によって目覚めさせられたの。眠っていたかったのに』
目の前にいるのは、自分達が探していたディセンダーだ。
けれどそのディセンダーはまるで、冷たい目をしている。たじろいだリタに「あまりリタっちいじめないであげてよシルヴィアちゃん」とレイヴンが苦笑いをこぼす。
『間違ったことはなにもいってない。一番目覚めたくなかったのは「あの子」に間違いないから。』
そう、間違ったことは何一つ言ってない。今までいい子にしていたのだからすこしくらい反抗してもいいじゃないかと思ってしまったゆえの態度だった。
「あなたの言うあの子とは赤い煙だった存在かしら?」
『そう。あの子もまたディセンダーよ。ルミナシアじゃなくて、ジルディアという世界のディセンダー』
ジュディスの言葉。
濁すこともなくこの先でわかることだけれど、自分の口から言いたかったことだった。
『あの子は自分の世界を守ろうとしているだけよ。このルミナシアを書き換えて。』
誰かが息をのむ。けれど、それもまた事実なのだ。ラザリスは自分の世界を守っていたいだけである。だから、この世界を守る彼女を嫌いほっしているのだ。
「ねぇ、シルヴィアさん。もしよかったらわたしたちに力を貸してくれませんか」
『私は貴方たちが思ってるほど純粋無垢で綺麗な優しいディセンダーじゃないわ。』
「いいえ、優しいわ。それはこの場所が証明してるじゃない。」
優しい色がアンジュの瞳に宿る。
その瞳に視線をそらしたがその先にいるジェイドとがっつり目があってしまったのは予想外だった。
「単刀直入に言えば、貴方のその行動は無意味に等しいです。我々も暇ではないので」
『そう、じゃあ私が力を貸して、貴方たちはなにをくれるの?』
空気が固まる。ユーリでさえ彼女の言葉は予想外だったらしい。
「そうだな、シルヴィアがここを離れたことで起きるかもしれない悲劇をお前たちは回避できるのか」
ミラの言葉に今度ため息をついたのはクラトスだ。まさかそこまでいうかとシルヴィアもミラを振り返ってしまう。そこまではいっていない。
「なんならここら一帯ガルバンゾの保護区にしちゃえばいいんじゃないの?」
「あら、いい案ね。うちにはガルバンゾに属してる人間もいるしいいんじゃないかしら。頼んだわよユーリ」
「オレかよ。」
「あたしからも国の研究施設、特に自然環境の場所もあったから声かけてみるわ。ここは珍しい植物が一杯あるし。」
レイヴンの言葉に便乗したのはジュディスだ。ここにいる面子の半分はガルバンゾにいたからこそだろうが、これから確か騎士も増えたはずである。
そこにまさかリタまで加わるとは予想していなかったのだが、話はとんとん拍子だ。
恐ろしいことこの上ないが「シルヴィア。」と後ろから声をかけられて振り替える。
『キル。』
「俺たちは大丈夫だよ。」
彼の名を呟くように呼べば優しく微笑まれた。
そのまま彼は会話の行われているその輪に加われば、ジェイドをまっすぐに見る。
「シルヴィアはディセンダーという存在ではあるけれど痛みも悲しみも悔しい思いも不安にかられるときだってあって、伝承で伝えられているディセンダーには似ても似つかないかもしれません。」
なんだこれ悪口かと、その場にいた大半は思っただろう。「ですが」と言葉を付け加えて次はシルヴィアを見た。
「誰よりも優しく、誰よりも強く、何よりも俺たちの家族で、ディセンダーという存在の前にシルヴィアという女性はヒトだ。」
けれど、告げられる言葉はそれだ。
おどろいたが嬉しそうに笑ったシルヴィアにカノンノも「私の友達でもあります!」とぱっと笑顔になった。
「わがままで結構溜め込むしな。」
「ははっ違いないね。だから、ジェイド大佐。彼女をあなた方のギルドがディセンダーとして道具扱いするのであれば俺たちは許しません。」
あぁ、なんて暖かいのだろう。
気がつけばみなが作業を止めて野外で堂々と行われている話し合いに耳をすませている。
「もともと自然が多かったとはいえ、ここまで命を吹き替えしたのはシルヴィアの願い故です。そしてそれに魔物でさえこの場所を守ってくれるようになった。今さら国の保護なくともこの場所は守られます。だから。」
キルが改めて優しい目でシルヴィアを見た。
「だから、もし俺たちのことが不安で自分のほんとうにやりたいことが出来ないなら心配しないで。俺たちはシルヴィアの帰ってくる場所を守ってるから」
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