---もう少し、時間をちょうだい。
そう言ってユーリから逃げてしまった。
逃げたというにふさわしい行動だったのは自分で把握しているのだけれど、仕方ないじゃないかと、言い切りたい。
あの目にとらわれるのは、苦手なのだ。
そんなこんなでもうすでに2日が過ぎたが、平然と農作業やらを手伝っているユーリに頭がいたくなってくる。キルに聞いた話、彼とは昔馴染みのようなものなのだというが、それにしても平然としすぎじゃないだろうか。
外堀から埋められているような気がしなくもないが、「シルヴィアさん!」とぱたぱた駆け寄ってきたカノンノを振りかえれば彼女と共に行動していたのはイオンで、手に持ったバスケットには焼きたてだろうパンがたくさん入っている。
「あの、もうすぐお昼休憩だから、イオンと一緒に作ったんです。いっしょにたべませんか?」
すこし不安そうに私を見ているカノンノに安心させるように微笑んだ。それにしても、バンエルディア号と違って全部自分で火加減もなにもしなくてはいけないのに、よく短期間で覚えたものだ。すごいなぁと感心してしまう。
『そうね、ここに来てからカノンノとあまり話もしてないもんね。』
実際、今回カノンノと関わったのは、目覚めて船に乗船するぐらいまでの間だ。
「いいんですか?」
『カノンノは私と話すのはいや?』
「ううん!!嬉しい!」
ぱっとその表情が破顔した。よく知る彼女のその明るい顔にこっちまで暖かい気持ちになる。何度も何度もカノンノの笑顔には救われてきたから。
「イオンもおいで、ミラに声をかけてきてくれる?」
「はい!ではまた後程!」
傍らにいたイオンにも声をかけて体を反転させた。そうすれば私の後ろをぱたぱたとカノンノが追いかけてくる。
その姿にほのぼのしつつ、この穏やかさが最後の穏やかさだと理解して、
*Side Kanonno
光の里。
そういわれるこの場所にたどり着いて、シルヴィアさんに再会して早くも2日。ひどく穏やかに流れている時間に、今世界に訪れている危機なんて忘れてしまいそうになる。
実際、ここに赤い煙の驚異は及ばないんじゃないかってほど、緑豊かで、自然に溢れてる。
だけど、今の大国じゃ、ここみたいに星晶を手放せと言われたって、手放しで首を縦に降るヒトも国もいないだろう
だからこそ、ここにいる人たちはすごい。
『かまど、使うの難しかったでしょ。』
「うん。イオンに見てもらいながらだからなんとかできたけど、一人じゃできなかった。」
『私も作ってるのを横で見てたときは本当に驚いたわ。』
白い花が咲き誇る泉のそばで、シルヴィアさんが笑う。さらさらと風にシルヴィアさんの髪が揺れるのを見て、あぁ、ヒトとは確かに違うな、と思ってしまったのは、あまりにもきれいだから。
『ヒトはすごいのよ、カノンノ。もちろん、あなたも』
「私?」
『そうよ。あなたはその笑顔でヒトを救ってきたんだから。』
眩しそうにシルヴィアさんが笑った。
シルヴィアさんは、いつ自分がディセンダーだと気がついたんだろうか。どうして無理を承知でこんな人里離れた場所に集落を作ったのか。
きっと、今の私が聞いても教えてくれないだろうけれど、いつか教えてくれるだろうか。
『カノンノ。アンジュさんが来たら、ちゃんと話すわ。私はあなたのいるギルドの人たちにはなかなか受け入れられない人種だけれど、そばにいてくれる?』
「っ!もちろんだよ!だって私とシルヴィアさんは……」
私と、彼女は?
そこで言葉が止まった。私は何を言おうとしたのだろうか。
不思議そうに首をかしげた彼女に、「私は、あなたの友達になりたい」と似たような言葉を続けた。
『友達、ふふ、いいわね。友達ね。』
「うん!」
-----------------------------私は、あなたの、「 」だった、のに。
誰かが、泣いている。
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