そこから目的の場所につくまでは本当にはやかった。
まるで現世から切り離されたように自然のなかに営まれるヒトの生活にカノンノは驚き、ジェイドは興味深そうに回りを見ている。
一番に言えるのは、すべてが自然のものから作られていると言うことだ。
建物も従来の樹だけでできており、おそらくここが放棄されても自然に返るのにそう時間はいらないだろう。
村というよりも里という認識がまさにぴったりのように思える。
「シンク?!」
自分達にかけられた、というよりは驚愕の声に一同の目がそちらにいく。
慌てて駆け寄ってくるのは先日イオンと共に行動しジェイドたちに会ったジュードだった。
クラトスの元にかけよって「一体何がっ」とシンクの様子を見ていた。
「どこか休ませてやれるところはあるか」
「いや、その前に泉の方にシルヴィアがいるからクラトスさんと、えっと」
ジュードからすればクラトスがここにくることはわかっていたし、その仲間であろう彼らもくるんだろうなという予想はついていた。
けれど、唯一初対面であるユーリがイオンを背負っていることにどう案内をすればいいのか、といったところだろうか。
「ユーリ・ローウェルだ。」
「ローウェル?」
「あぁ、そうだが。なんだ?」
「え、あ、ガルバンゾで指名手配のって、思って」
その場が若干凍った。
ユーリに関しては口許をひくつかせて苦笑いだが、ジュードからすれば、それはただのごまかしに過ぎなかった。
ふと、聞き覚えがあると思ったのだ。そのファミリーネームに。
だから復唱してしまった。いったいどこで聞いたのだったか、と考えるがぴんとこない。
けれど、と考えて、クラトスの腕の中のシンクを診る。
はじめて彼らが生物変化したときよりもひどい状態ではないが、それでもここの環境が辛いのだろう、呼吸が荒い。
あまり彼女が大切にしている場所によそ者をいれたくはなかったが、そのまま運んでもらったほうがらくだろうと考える。
「案内します。ついてきてください。」
あぁ、こういうときにミラとデュークさんはなぜいないんだと自分の不運さにため息が出た。
案内されたのは、より緑豊かな泉のほとりだった。
正直、この森にこんな深くまで入ったことがなかったからこそユーリにとってこんな場所があるのかということが驚きだったが、泉をかこうように白い花のつぼみが風に揺れている。
その泉の中に、彼女がいた。
「シルヴィア!」
長い銀色の髪に、真っ白な装束。その声に振り返った瞳は美しい空色。
間違うはずがない、シルヴィアだった。
くるぶしほどまでの水位のところに裸足でたっていた彼女が振り替えって一番に目にいれたのはクラトスに抱かれたシンクだった。
驚いたように目を見開いて足が汚れるにも関わらず水の中から駆け寄ってくる。
『シンク!イオンまで…!!』
それからユーリを見上げて、同じく生物変化を起こしてしまっているイオンをみて絶句した。ユーリと目が合うが、すぐにクラトスに視線を向けて「何があったの」と聞く姿に、眉間にシワを寄せてしまったのは仕方がないことだろう。
かれこれ会いたかった本人に、そんな態度をとられて不機嫌にならないはずはないだろう。
「僕が、いけないんだ。シルヴィアを、守りたいって「願って」しまったから」
シンクの言葉に、シルヴィアが悲しそうに表情を崩した。「僕も止められませんでした、すいません」とユーリの背にいるイオンも謝罪をする。『ユーリ』とシルヴィアが彼としっかりと視線を絡ませて、告げた。
『イオンをこっちに。』
「あぁ」と一言だけ、
クラトスのすぐ横にイオンを下ろせば、シンクとイオンの手を握ってシルヴィアは目をつぶる。
『………お願い。』
ふわりと、強い風と強い光が世界を白に変えた。あまりの光の強さにカノンノもジェイドも光を遮るように目をつぶる、
数拍の間。
「傷が、」
光がやんだとき、イオンとシンクはもとの自身たちの色を取り戻していた。それはイオンがつれていた小さなウサギも。
それだけじゃない。ぽつりとジェイドがこぼしたのはシンクとの戦闘での傷さえいっさいがっさいなくなっていたことだった。
『私の存在理由を、知りましたね。』
二人が無事かどうかを確認してから、シルヴィアは息をついて、立ち上がる。
そしてまっすぐに彼らに向かっていった。
「やはり、あなたがディセンダーだったんですね。」
『俗的にはそうでしょうね、でも勘違いしないで。私は世界樹からうみだされただけであって、あなたたちも世界を救うディセンダーです。』
シルヴィアの態度はいっそ堂々としている。
おそれもなにもないその態度に、カノンノは見惚れてしまった。いっそ清々しいほど自分の存在意義を発揮しているのは彼女だとわかっているからだ。
『私は、自由に生きているだけ。使命にとらわれたりしません。もちろん、やることも守りたいものもあります。』
『シンクとイオンを休ませてやりたいので、ロッジの方に行ってもいいですか』とそれは彼女が守るもののひとつだというように告げた。
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