「だめです!!シンク!!」
悲鳴に近い声が上がった。
けれど、それとは裏腹に同じ緑色の髪を持つ少年が襲いかかったのはユーリであり、彼に向けられて放たれた魔術をなんなく交わす。
突然始まった乱闘にカノンノはイオンを背にしながらどうしたらいいのかと頭を回転させるしかなかった。
イオンに案内されるまま、迷路のようにいりくんだ森を迷うことなく進み、時に彼が優しく木に触れれば静かに道を譲るという驚きの現象すら起こった。
時に会話をし、彼が移動しながら採取している果物を食べたりとそうして進んでいっていたのだが、突然ユーリたちを襲ったのは暴風。
瞬間、空中から飛び出して来たシンクに向かって叫ばれたのが冒頭。
もう半月も前になるはじめて彼の戦いをみた時よりもあきらかにその手数が多く、こちらの隙をうまくついてくる。
けれど、決定的な攻撃をしてくるわけではない。
「帰ってくんない、ここ、アンタたちみたいな俗にまみれたやつらがくる場所じゃないんだよね。」
彼は、ここを守ろうとしているだけなんだと、そのために命まではとるつもりはないと、そう態度が示している。
「イオン、なんでこいつらつれてきたのさ。」
「彼らはシルヴィアさんを必要としている人たちです。彼女を傷つけたりしません。絶対に。」
「そういう問題じゃないんだよ!」
森に水しぶきが上がる。
ジェイドが放った水の譜術。それをなんなく交わしながら、次に彼が標的にしたのがカノンノだとすぐにわかったユーリは先に彼の進行方向にたつ。
彼に怪我をさせないように、向けるのは刃ではなく峰。
それに相手も気がついたらしい、顔にでた不機嫌さに、そのまま蒼刃を放つ。
「シルヴィアは、僕たちの家族だ。こいつらに苦しめられるために生まれてきた訳じゃない!!!!」
ぶわりと、広がったのは赤。
なぜ、と思う前に緑だった彼の髪に白がまざり、そしてナックルをはめられていた腕と足に結晶型の武器が現れた。
「これは…!」
「シンク!!だめです!!シンク!!!!」
クラトスの驚きと、イオンの悲願。
けれどその言葉は今のシンクには届かない。先程とは裏腹に、明らかに急所を狙った攻撃が増える。
なにより
「下がって、イオン!」
イオンに対して攻撃の手が向けられた。
それははっきり無差別ととっていい、行動だった。
「っやりずれぇなぁ!」
ユーリが悪態をつくのも無理はない。
彼は間違いなく、シルヴィアの大切なものである。それを傷つけたいと思う方が間違っているのだ。
どうしたらいい、どうしたら。
そう思ったところで、空気の流れが変わったのを嫌でも感じ取った。
「これは、守るための願いですっはあああぁぁ…!アカシック・トーメント!」
とっさに、ユーリを武器である槍で技の範囲より外に飛ばしたジェイドには心あたりのありすぎる技だった。
アルナマック遺跡で目の前のシンクが魔物を吹き飛ばした技だ。味方判定もしていない状態では危なすぎるととっさの判断だったが、思ったよりも余裕がなかったらしい、思いきり振りかぶり過ぎてしまった。
「っこんな、うそ、うそだ…っ」
けれど、彼を正気に戻すことには成功したらしい。
先程までの翡翠の瞳が赤く代わり、自分に技を仕掛けてきたイオンに、駆け寄っていく。
へたりとちからを使い過ぎたのか、座り込んでしまったイオンの髪がだんだんと白く変色していくのに、シンクの表情が歪んだ。
「どうなってんだ。」
吹き飛ばされたその場所から、ユーリが呟く。いままで生物変化を目にはしてきたが、彼らのは特殊過ぎる。
感情に揺さぶられて変化し、少しずつ剥がれるように変化する様は、まるで、
「まさか、あなたたちは生物変化を起こしたことがあるんですか」
それは、問いというよりも、答えだった。
イオンを背後にかばい、シンクがジェイドを睨み付ける。その瞳は理性を取り戻した分、片目だけをその世界にとどめていた。
まるで、突然現れたあの闇のように。
「あぁ、そうさ。僕たちは望まれて産み出されたのに、不要になったとたん、親と言われる人間に捨てられたかわいそうな人間もどきだよ!!」
「捨てられて、食べ物もなにもわからなくて、たどり着いたこの場所で、僕たちはシルヴィアに救われたんです。私の大切な家族と、僕たちをヒトにしてくれた」
吐き出されるのは負の感情だ。
パキパキとだんだんとヒトの色を失ってく手足に、カノンノが治癒術をかけようとするがそれを拒んだのはイオンだ。
寂しそうに笑いながら「これはヒトの術では無理なんです。」と心底悲しそうに言った。
「イオン、シンク。私たちをお前たちの家族に会わせてくれないか。彼女の意思なく無理強いはしない。」
「絶対、だね。」
「あぁ。」
「ローウェル、イオンを背負ってやってくれ。」と、クラトスは言った。
戦闘に参加すらしていなかったが、軽々とシンクを横抱きにするとまっすぐ歩き出す。
一度ジェイドを先程の恨みも込めてにらんだユーリだったが、イオンになんの罪もない。背を向けてしゃがめば「すいません、よろしくお願いします」と遠慮がちに手が回された。
190121
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