ガルバンゾにある道具屋は最近休みが多い。
とはいっても、騎士団がしっかりと機能しているおかげでなかなか利用されるのも少ないのだが。
「…休みか。」
その看板の下がる店の前でクラトスは言葉をつむいだ。
連絡は入れてあったのだが、今は難しいというならば、何かしら接触があったらよかったとここに着たがどうやら入れ違いだったらしい。
ここ数日、ガルバンゾで情報を集めているが、やはりあの森に近づく者たちが少ないせいかなかなか有益な情報は得られない。
逆に、自分のほうが詳しいとも言えるかもしれないが。
「おや、先にこちらにいらしていたんですね」
「…ジェイドか。」
さて、どうするかと考えていれば複数の足音とともにやってくる一団にクラトスは振り返る。
たまに見る少年と数日前船で別れたジェイドとカノンノ。ただユーリの姿は無い。
おそらく、彼は彼なりにやりたいことをやっているのだろう。
「そちらは何かつかんだか」
「私たちよりもあなたのほうがもともと詳しいでしょうに。こちらは先日アルナマック遺跡で会ったシンクと呼ばれた少年と瓜二つな少年と出会いました。ジュードという青年ともね」
「ジュードさんがクラトスさんを探していましたよ。伝えてくれればって」
「…そうか。」
だが、あぁやはり入れ違いになってしまったかと、ため息をこぼしたのは仕方ない。
いっそ一緒にいけたのならば一番楽だったのだが、彼らにも彼らの都合があるだろう。無理強いはできない。
「ローウェルはどうした。」
「例のシルヴィアという女性が住んでいた宿で別れたっきりですね。傷心中じゃないでしょうか?かわいそうに。」
「んなわけあるか」
「ユーリさん!おかえりなさい!」
まさか、閉店中の道具屋の前で集合とは誰が思うか。
「ユーリ!」というカロルの明るい声に、反対に彼の声は気の抜けている。
「そちらはなにかわかりましたか?」
「あー、そいういうの調べてたわけじゃねぇし。クラトスに任せてた」
何のためにこの男が着たのか、彼の言葉にカノンノが苦笑いをこぼした。逆にジェイドはあきれてメガネのブリッジを押し上げる。他人任せもいいところだ。
「ローウェル。ここから北西の森はわかるか?」
「あぁ、問題はねぇが今からいくんじゃ夜になるぞ」
「だろうな、」
「だったら僕たちのギルドで休んでいけばいいよ。最近のことユーリに相談しておきたかったから」
道具はすでに準備済みだが、時間が遅ければ魔物が活発になる。
それはいただけない。と、そうなったときにカロルから告げられた言葉は彼らにとってはありがたいものだった。
「さんきゅな、カロル。今日はここで休んで明日の朝出よう。そのほうがいろいろ都合はいいだろ。」
「いいよな?」とジェイドに最終確認を求めたユーリであったが、それはいっそ疑問系ではなく確定なと、気がつくのはだれだったか。
***
その森は、ひどく静かだった。
ユーリの記憶の中では果物の調達に使うイメージだったり、大量発生した魔物をちょっと狩るぐらいの範囲だったが、今はひどく穏やかなように見える。
「…おどろきましたね。これは絶滅危惧種の花ですよ」
ただ、昔よりも命が豊かだと、そう思うのは仕方が無いだろう。緑が広がり、見たことの無い果物もみずみずしく育っている。なにより、昔よりも植物が多い気がしたのだ。
おそらくそれは、等しくあの存在のおかげなのだと、
ガサリ。
そんな静かな空間に、音。
その方向を向けば、弱った白い生物。なんだ。と思う前に、それがラザリスの世界の動物に似ているとなればカノンノが驚いたように目を見開いた。
「そう、ここは救いの楽園です。」
けれど、更に反対。
これから自分たちが進もうとしているその先から声が響けばやってくるのは緑。「イオン?」とカノンノが彼を呼べば「昨日振りです」と彼は笑って自分たちの横を通り過ぎてその生物の元へと歩いてく。
「僕たちの大切な家族の楽園。そして救いを求める者たちが集まる場所です。案内役が必要かと思いまして。」
「案内役、というと?」
「野心のある人間はトレントたちがいたずらをして迷わせてしまうんですよ。」
ひどくやわらかい笑顔だ。
いたわるようにその腕の中の白を抱えながら、さも当たり前かに自分たちの先導を行く。それこそ、魔物なんて恐ろしくないというように。
戦うことすらししなさそうな、優しいそうなのに、魔物の名をさらりと言って少し先を見据えれば、森がわずかに揺らめいたのは仕方が無いだろう。何より、彼の手には音叉のようなロッドが握られている。
「ユーリどうしますか?」
「…信じる。」
最終判断はユーリがくだした。
歩き出したイオンの背を追う。彼に続いてジェイドとカノンノが続けば一番最後はクラトスとなった。
ひどく命のあふれた場所。そのくせ魔物はおとなしく、少し先から様子を眺めてくるが襲ってくることは無い。
それはイオンがいるからかもしれないが、そんな彼はときたまに木々のすきまから果物を取ってはバスケットにつめていた。
「…おや、あの動物は。」
「あぁ、あれはチーグルです。最近良く見るようになりました」
「あれはマナの豊富なところにしかすまない珍獣ですよ」
「もう少しおくに行くと巣もあると思いますよ。」
行きますか?とイオンは首をかしげる。
この場所では珍しい動物もそこまで珍しいとは思わないのだろう、環境が極端に異なる生物はさすがにすめないが従来森に住む生物たちにとってそれこそすみやすい環境が整えられているというのか。
「本当に、楽園みたいですね。」
カノンノが心底まぶしそうに周りを見回した。そんな彼女に「僕たちは星晶を生活に使いませんから」とイオンは告げる。
「使わない?」
「はい。 水は地下からくみ上げて、火は常にともされてあります。電気はありませんが特に必要は無いです。魔物も襲ってきませんからね。 慣れた人たちからすればちょっと不便だとは思いますが、欲を言う人はいません。夜は星も月も僕たちを守ってくれます。」
「食べ物はどうしているんですか?」
「森からの恵みと栽培と町への調達で補っています。たまに狩りで肉をとりますが基本は魚です。最近はいけすを作ったり、そろそろ牛や豚を飼おうかとそんな話もしてます。」
現代に生きるには思えないほど質素な。けれど文明に頼らないからこそお互いを支えあっているというのあろうか。
「あいつらしいな」
ユーリがぽつりと呟いて思い浮かべるのはひとりだけだ。
おそらくこの場所にある動植物は彼女が救ってきた植物でもあるのだろうから。
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