情報収集に行ってくるとクラトスが船をおり、その数日後にガルバンゾへの入国許可が下りる。最後の最後までエステルに粘られたが、さすがに行方不明の王女さまを連れてはあるけないと説得すれば、彼女はしぶしぶうなずいた。
何ヶ月ぶりかにガルバンゾに降り立ち、クラトスに言われたとおり下町に行けばみんなにむちゃくちゃにされたがここは相変わらずだと笑ってしまうのはおそらく幸せだからだろう。
この場所はいつ来ても暖かく、家族のように思う。
だからこそ、シルヴィアがこの場所を一時期でも生きる場所として選んでくれたことがひどくうれしいとも思ったのだ。
下町の、ありふれた、平和で、けれどシルヴィアにとってはひどく遠く憧れすらあったんじゃないかという、その場所を選んでくれたのは、正直嬉しい気持ちだった。
彼女が初めてこの場所に姿を現したときはひどく驚いたが。
この場に来たのは俺と、ジェイドと、カノンノ。
今回の面子がこの3人というのはなかなか居心地の悪いものだが、この場所の案内役に選ばれたからには文句は言えない。
ディセンダーの姿を知るジェイドと、ディセンダーに最も近い存在であるカノンノだからこその、この顔ぶれだとはわかっているのだが。
「ユーリ!?」
「お?カロルじゃねぇか。久しぶりだな。」
おそらく、もういないとはわかっているのだが、彼女がすんでいた宿屋に向かえばその前に俺の前に駆け込んでいたのは久しぶりにみるカロルだった。
「久しぶりじゃないよ!!大変だったんだからね!」
「はは、わりぃな。俺にもやらなきゃならねぇことがあるから許してくれ。」
そういえば、物語が始まってこうしてこの場所に途中で戻ってくるのは初めてのことだ。
こんなにもまだまだ未熟で餓鬼なカロルに全部押し付け不安にさせていたのかと思うと少々いたたまれない気持ちになるが、それでも今まではそんな余裕すらなかったのだから許してほしい。
「ユーリさん、彼は?」
「こいつはカロル。ジュディやおっさんも所属してるギルドの頭領ってやつだな、んで、こっちはジェイドにカノンノ。いま俺が世話になってるギルドの連中だ。」
完全に蚊帳の外にしていた面子を紹介した。
きょろきょろと不安そうにジェイドたちをみるカロルは萎縮しちまってる。カノンノはともかくジェイドは威圧感もあるしな。なにより、ライマ国の軍服を着てるとあっちゃしかたねぇだろう。
「ところでユーリ、なぜここへ?」
「ちっと様子を見ておきたい奴がいたんだが、」
「あ、シルヴィアさんならもういないよ?」
周りを見回しながらジェイドが告げる。本当はなにかここであればとは思ったのだが、さらりとカロルが言った。その中に含まれる「シルヴィア」という言葉にジェイドの目が細められたのを俺は見逃さない。
「ほぅ、シルヴィアですか」
「えっと、ジェイドさんも知り合いですか?シルヴィアさんいろんなところを旅してて、ここにはとどまりすぎたって言って」
「カロル。」
静止は少し遅かったような気がする。
え、っという顔と逆に「やっぱりお知り合いだったんですね」という貼り付けの笑顔という正反対な反応をされてため息すらこぼれそうに無かった。
ともかく、だ。
「カロル。ここ数日で何か変わったことがあったら教えてくれ。あいにく俺もあまりここにとどまるとフレンにつかまりそうだからな。」
ーーー着実に、少しずつ
***Side Jude
目の前を緑が横切り、追ってしまったのはほぼ反射ということでしょう。
「すぐにもどる」とそういってカロルを残し、どこかに消えたユーリ。まったくすぐにでも行動したほうが早いというのに彼はどうやらいろいろとやりたいことがあるらしい。
「イオン!」
「はい?あ、カロルではありませんか!今日はお仕事はおやすみですか?」
カロルという少年が教えてくれたことはかなり有益な情報だった。あのアルナマック遺跡で出会った女性がほぼ間違いなくわれわれが追っている女性だということを証明してくれるような内容だ。
だからこそ、早く彼女がいるであろうその場所に行きたかったのだが、その前に見覚えのある少年が現れたからこそ、足を止めたのだ。
先日。シルヴィアとともにいたシンクという少年と瓜二つの「イオン」という少年。
おそらく、双子ではないかという仮定も生まれるが、それにしては声も何もかも似すぎている。
「それとも、そちらの方たちとお仕事ですか?」
「えっと、ユーリの知り合いなんだ。イオンは?」
「僕は今日待ち合わせしているヒトがいるんです。ジュードと二人でお迎えにあがったのですがどうやらすれ違ってしまったみたいで。」
「あ、そうなんだね。」
顔はそっくりなのに、性格はどうやら間反対のようだ。
カノンノが不思議そうに首をかしげているが、それよりも先に聞いてしまったほうがいいでしょう。
「失礼。聞いてもよろしいですか?」
「僕に答えられることがあるなら答えますよ。」
情報が得られるのであれば、ありがたい。声をかければ赤の他人の私からの行動にきょとんと首をかしげる。
「あなたはシルヴィアという女性を知っていますか?」
極力自然に。そう彼に問いを投げかければ「シルヴィアですか?はい。僕の命の恩人ですよ」と笑顔を作る。
「僕と、僕の片割れは、シルヴィアのおかげで今生きているんです。「僕たち」は望まれて生まれたはずなのに、棄てられたんです」
そして告げられた言葉は、笑顔で言えるようなことではない。思わず固まってしまった。彼はまるで怒りを知らないようにも見える。
「あの、」
「イオン!!見つけた!!」
カノンノの言葉をさえぎったのは青年の声だ。瞬間、私たちの間に割って入るように現れたのは黒髪を持つ青年であり、すぐにイオンを背に隠す。
「ジュード?どうしたんですか?」
「どうしたんですか?って動かないでって言ったのに、イオンは危機感が無いってみんなに怒られているだろ?」
私たちを警戒しているのは目に見えてわかる。
そのまま少し会話をして、それからカロルに「ごめんね。引き止めていてくれてありがとう」と声をかけていた。
どうやらこの青年もカロルとは知り合いらしい。
「どうしたの?二人だけでここにくるなんて珍しいよね。」 「あぁ、ちょっとヒトを探してて、クラトスさんって言うんだけど赤い髪の男のヒト。カロルは見た?」
「赤い髪かぁ、今日は見てないなぁ」
だが、出てきた名に聞き間違いが無ければ、カノンノが「あの!」とより声を大きくしたのは確定のようだった。
「クラトスさんっていうのは、アドリビトムのですか?私たち、同じギルドの人間で。」
3人の視線が集まる中、カノンノが告げる。そうすれば、ジュードといわれた青年が困ったような顔をした。判断に困っているらしい。今のご時世、嘘ならいくらでもつけますから仕方が無いのかもしれませんが。
「本当は信じてあげたいんだけど、ごめん。僕たちもあまり詳しく口にはできないんだ。クラトスさんにジュードとイオンが探していたと伝えてくれれば、きっとわかると思うから。」
「申し訳ないんだけど」と告げる。
心底この青年は心根が優しいのだろう。人違いです。といえばいいところをそうやって伝言を残していくのだから。
ぺこりと頭を下げて、二人は去っていった。
さて、早くユーリは戻ってこないものですかね。
←
→
list
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -