#Side Yuri
あぁイラついてしかたねぇ。
調理場でひたすらに野菜を切り刻みながら現状を考える。
今外に出ればもしかしたらあいつの姿を見れるかもしれない。だが、まるでそばから離れないというようにエステルとナタリアがいるのはなんだと思う。
おそらく、ナタリアはエステルにつれられているだけかとは思うが。
「ユーリ様、お手伝い本当にありがとうございます。」
「あ?あぁ、構わねぇよ。やることねぇし。」
ぱたぱたと俺の回りを飛びながら手元をみて告げるロックスに笑っておいてやる。この船でまともに料理できるやつも少ないから余計だろう。
とはいっても、俺も俺でそこまでうまい訳でもないが。
あぁ、あいつが作ったものが食いたい。
「ユーリさんの奥さんになるひとはきっと幸せでしょうね。」
なんて、考える俺にクレアが告げるのはその言葉だ。いつもはフリーにしているその髪は今は俺と同じように下でくくっている。
突然のことだが、「だって、ユーリさんとてもお料理上手ですから」と彼女は言った。
「幸せ、か。幸せにできたらよかったんだけどな。」
「はい?」
「いや、なんでもねぇ。そうだな。一緒に並んで一緒に好きなもん作りながら笑ってられたら一番幸せだな。」
ガタン。
後ろで音がなった。なんだと振り替えればきゅっと唇を噛んでいるエステルがいる。ナタリアが俺とエステルを交互に見てどうしたらいいかと戸惑っているのはきっと状況が飲み込めないからだろう。
そのままずかずかと俺とクレアの方にやって来たエステルは「私も一緒に作りたいです」と言い出した。
「あ?今さらだろ、どうした。」
「私も!ユーリみたいに料理がうまくなりたいんです!だから!」
「人間には得意不得意あんだろ。前に包丁持たせて指切ったやつが練習もせず調理場たてると思うなよ。」
最近、ひたすらこれが多いのだ。
クレアが「エステルさん。あとは煮込むだけなんです。これはヒトの感覚と経験なので」となだめようとしているが、まるで駄々っ子のように首を横にふるだけだ。
「悪いが、俺のは本当に独学と感覚だ。ちゃんとうまくなりたいならロックスやクレアに頼んでくれ。」
ぽんっとエステルの頭に手をのせて撫でてやる。
ぎゅっと自分の洋服を掴んで震えるエステルに「エステリーゼ、行きましょう?」とナタリアが優しく声をかけていてそのまま連れていった。
「ったく、なんだってんだ。」
ほんっとうにおんなってよくわからねぇ。
ーー
「たしか、彼女は精霊、と呼ばれていましたね。」
ホールに響くのはジェイドの声だった。遺跡から戻り、そして今回のことをまとめていながら告げる。
彼女。とはラザリスの攻撃を防ぎ金色の髪をなびかせたミラだった。あまり会話に加わらず、自分達を見ていた神秘的という言葉が似合うだろう。
「そうですね、となるとあの子も、シルヴィアも精霊ということですかね。」
「ただの精霊が生物変化を治せるでしょうか。それをいうなら先日ユーリがカダイフ砂漠で起こした同様の現象は証明できません。」
「だったら」
「ディセンダー、じゃないですか。」
疑問だけが深まっていく。
可能性だけを告げるには不特定すぎて下手な期待は持たない方がいいともわかっている。けれど、会話を遮るようにカノンノはいった。
「私は、シルヴィアがディセンダーじゃないかって思います。」
「それはどうしてですか?」
「何となく何となくなんですけど。初めてシルヴィアにあったとき、彼女空から光に包まれて落ちてきたんです。」
不安と期待。
思い出すのは初めてシルヴィアにあったときのこと。
真っ青な青い空からゆっくりと降りてきた光。その光はすごく懐かしくて暖かくて、たまらなかった。
ゆっくり地面にまでおりて光がやめば、眠っているシルヴィアで、目を開いたあと酷く悲しそうに自分を見てまた目を閉じた。
戦いに関しては完璧だった。
それこそずっと一緒に戦っていたような感覚すらあった。自分の死角を的確にやしなってくれる。背中を安心して預けられた。
「たしか、ガルバンゾに行ったわよね。」
「ふむ、ガルバンゾですか。」
「なにか心当たりでも?」
彼女は世界を旅していると言っていた。そして自分達にいった場所はその国だ。
「いえ、ガルバンゾ周辺は赤い煙の出現率が低く魔物もここ最近は酷くおとなしい傾向にあります。それにユーリの出身地もガルバンゾでしたね」
「確かにそうですが」
「一度彼に事情を聞いた方がいいかもしれません。そろそろキールたちも精霊の場所をつかめるでしょう。ひとつひとつ確実に進んでいった方がいいですから。」
氷の精霊は告げた。
世界樹の落とし子はすでに存在している。
けれど、その落とし子は酷く自由に世界を生きていて、自分の守りたいもののために前を向いている。
光をまとい、そして、戦っている。
「んで、なんで俺なんだよ」
「あなたが一番詳しそうだったので。」
雪山から戻ってきたジェイドが呼び出したのはユーリだった。その場にいたのはジェイド、アンジュ、セルシウス、リタでまるで逃げ場のないその空間に彼はため息をつく。
「あなたからディセンダーの気配を感じるわ。でもディセンダーじゃない。」
「当たり前だろ。俺は普通だっての」
「ですが実際、あなたは一度生物変化を治しているわけですからね。」
おそらく、ディセンダーの気配というのは最初の頃の、彼女のドクメントの影響だろう。それしか考えがつかないのだがそれを言ったところで彼らは信じるわけもない。まちがいなく、彼女はそれに苦しんできた。
「それは、」
「そういえばアンタ、ここに来る前に私に紹介した女のヒトいたわよね」
「リタっ」
「ほぅ、心当たりがありますか?」
思いだした、というにはリタのなかでは突拍子もないことだったのだが。ふと、彼の持ち物が少なくなっていることには気がついていたのだ。
「私の憶測だけど、ガルバンゾにいたのよ。銀色の、えっと名前は忘れちゃったけど」
眉間にシワを寄せてしまったのは本当に無意識だった。それをジェイドが見逃すわけもなく、「我々の目の前で生物変化を治したのも銀色の髪を持った女性でしたねぇ、たしか、あなたは前回の任務に参加を希望していたと聞きましたが?」とそれはさっそく疑問や質問ではない。
それは尋問だ。
「ともかく、ガルバンゾに一回いってみましょうか。少し情報を集めてみないといけないもの。」
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