【望んだから、欲しがったから、力をあげたのに…今の君達はとても強いよ?なぜなら僕がそうしてあげたから…】
にこりと、彼女は笑っていた。
幼い子供がそうするように救いを求める彼らを嘲笑う。カツンカツンとヒールの音が響いて彼女はぐるぐるとひれ伏している彼らに回りをまわる。
【君達さぁ、強くなりたいんだったら,そうならなければならなかったんだよ。大丈夫。今はまだ半分人だろうけど、時期に完全に変化するよ。そうすれば、今よりもっと僕の世界の住人になれる。】
彼女が告げるのは間違いなく真実だ。そんな彼女に悲願するように「そんな!コレでは魔物ですっ元の姿に…っ」と声をあげた。そんな笑みに含まれるのは、皮肉。
【本当に欲しがってばかりだね…だからいつも苦しまなければならないんだ。ま、もう君達に付き合う必要も無い。もう十分に力は手に入れられたんだからね…】
そのまま、またくるくると彼らの回りをまわり、息をはいた。
【今度こそ、僕は救ってみせる。】
間違いなく、それはラザリスがもとめていたもの彼女の目的。そこへ響いてくるのはたくさんの足音だった。駆け込んでくるのは、
「っあの子が…あの、赤い煙だったもの…?」
一番最初に言葉を発したのはアンジュだった。首だけを動かしてこの場所へと駆け込んできた面々をみて、ラザリスの口元があがる。
いつもより人数が多いが、あの連山で見れなかったその姿をはっきりと見つけた。
「あなたは一体何者なの!」
【僕は、ラザリス】
話しかけてくるのは相変わらずアンジュだ。けれどラザリスの目はまっすぐとたった一人だけを見つめている。
それは、シルヴィアもだった。視線を反らすことなく、まっすぐに見つめ返している。
「あなたが人々のねがいを叶えてきたの?願いをかなえるのは何故?」
【君らから少しずつ世界を知るには都合が良かったから。それに僕にはどうしても守りたいものがあるからねぇ】
アンジュの問いは途切れない。ただし、答えとして告げられるのはシルヴィアへだ。「守りたい」という言葉にシルヴィアは表情を歪めてしまうのは仕方ないだろう。
それを今まで打ち砕いてきたのは彼女自身。その反応にラザリスが確信をもつまでに時間はいらない。
「あなたが願いをかなえた生物から学習した。こういうことですか?」
【そうなるね。「願いをかなえて」って、向こうから僕に接触してきたし、この世界に出たばかりのときは僕にも接触する能力が無かった。だけど、あらゆる生物が僕のほうへと手を伸ばしたんだ。願いをかなえるという意志のコネクトを通じて、僕はこの世界の生命力と情報を少しずつ手にいれて、実体も思考も手に入れた。思う存分。僕の好きなように力を振るうことができる】
ラザリスの口からでる言葉に、シンクがシルヴィアの腕をひく。その手をしっかりと握り返した。
「さっき世界の生命力と情報を手に入れたといったけれど、あなたは人じゃないの…何者なの…?」
【僕は、この世界ルミナシアのように誕生するはずだった世界で、護るもののためならもう手段は選ばない存在だよ。】
カノンノの声が震えている。そんなカノンノを庇うように前にでるのはクラトスだった。
【もうこの世界にはうんざりだ!僕ならもっといい世界になるはずだった!誰も苦しまず涙を流さず、こんな、腐りきった世界をもたらす心ない人間がいる世界なんて、僕なら造らなかった!!】
ぶわりと、ラザリスの背後で光がまたたく。
【君を傷つけ続けるこんな世界っ大嫌いだ!!!】
声が、響く。襲ったのは、衝撃波だった。瞬間、前に飛び出したのはミラ。片手を前につき出して瞬間的に張られる防御壁。彼女の美しい金色がなびく。
【あ、ははははははっ世界樹も必死なわけだ。君を守ろうと精霊までうみ出して】
けれど、その攻撃がフェイクであれば、ラザリスはすでに近くまで迫っていた。そのままその細い足が勢いのままに蹴り出される。
「っぐ!」
ミラを守るように前に出たのはシンク。
吹き飛ばされてしまったがそのまえに彼の飛ばされた先にクラトスがいて彼を支えた。とはいってもとっさなこと、もろに入ってしまったらしいシンクはそのまま地面に崩れおちる。
そのまま
【ねぇ、シルヴィア。いい加減僕と一緒にきてよ。今はそいつらとすら一緒にいないんでしょ?ねぇ?人間なんて私欲の塊で自分の事しか考えてないじゃないか。】
『私の答えは変わらないわ。私も私の守るものを守るだけよ。認められなくても』
【あいかわらず世界樹にしばられて、いったい君はいつまで食い尽くされるんだろうねぇ、】
ーーーーーかわいそうに
おそらく、ラザリスはそういおうとしたのだろう、そのまえにシルヴィアの隠し持っていたナイフが空を切った。そのまま五月雨をくりだし、飛燕連脚につづけ、詠唱を省略し放ったのはファイアボール。
認めたくない。否定されたくない。ただそれだけなのだ。
ラザリスだけに、彼女の目が己と同じ赤に染まったことが見えて瞳がほそまる。
【ほら、君だってそろそろ限界なんだよ。もうすぐむかえにいくからね。】
Side Anju
「ジェイドさんはどう思いますか。あのこの事」
去っていった一団をみて、告げてしまったのは本当にそう思ったからだった。
未だにカノンノは寂しそうに去っていった場所をを見つめているし、クラトスさんはだまったまま。唯一情報を提供してくれそうなジェイドさんに求めるも彼も険しいか顔をしている。
ラザリスという紅い煙だった存在。
攻撃を瞬発的に弾いた精霊と呼ばれたミラ。
不思議な術を使うシンク。
そして、生物変化を治し、ラザリスに迎えに来ると言われたシルヴィア。
一度カノンノにつれられてアドリビトムに来たことはあったけれどすぐに降りてしまった。
確かその時から世界を旅している、とはいっていたけれど。
彼女の動きは旅人というには戦士という動きだった。
それに加え、高度な治癒術、瞬発的な詠唱と、一体いくつの修羅場を潜ってきたのかというほどだ。
「ともかく、一度ここを出ましょう。彼らのこともあります。」
ジェイドさんがいうこともごもっとも。彼女が治した暁の従者の保護は私たちの仕事だ。ひとつひとつ解決しなければいけない。
「クラトス。知っていることがあれば早々に話していただけるとありがたいのですがね。」
「時が来ればな。」
くるりと、クラトスさんが背を向けて歩き出す。彼女たちが去りきるまで私たちに剣を向けていた彼は一体シルヴィアと名乗った彼女のどこまでを知っているのか。
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