風を受けながらいつもより近い空を見上げてシルヴィアは後方で同じ色の髪を靡かせる男を見た。
突然現れ、さらりと物語通りにしろと言ってきたからこそ、こういう形で協力はしてくれないだろうと思ったが、そうでもないらしい。
『手を貸してくれてありがとう、デューク。』
「お前がいないせいでシナリオが狂ってしまうのは迷惑だからな。」
ひとつお礼を言えば、視線さえこなかったが返ってきた返事に、シルヴィアは笑う。
自分たちを運んでくれているのはクロームという名の大きい鳥のような魔物。けれど、デュークの友人なのだろうとシルヴィアは感じていた。それは、デュークがあまりにも優しい顔をしていたからだ。
おそらく、そこらの魔物よりもずっと頭もいいのだろう。それこそ、彼のそばにいた青毛の狼のように。そんなデュークの友人に小船を運んでもらっているのだ。乗っているのはミラと、シンク、それからシルヴィアとデューク。最初は大丈夫かと思ったがそこはヒトとは違うということか。
あっさりと宙に浮いたときはひどく驚いたが、正直、助かった。
「シルヴィア、計画は。」
『とりあえず、遺跡につくまえに近くにバンエルディア号がないか偵察。鉢合わせはしたくないから』
「ばんえるでぃあごう?」
『とても色鮮やかな船だからすぐわかると思うよ。』
シンクの言葉に笑って答えて、また前を見る。今回の任務、もし彼が来ていたらおそらく問答無用で船に乗せられかねない。まだ、その時じゃない。
『(うまくクラトスが誘導してくれてればいいんだけど・・・)』
ディセンダーが生まれたのが知られていればそれでいい。いや、今のところ、赤い煙であるラザリスがそれに近い存在でもあるのだが、それにしても、だ。まだ、あの場所に戻りたくないと思うのはなぜか。
それはきっと、いまがあまりにも中途半端な軸だからだ。
「シルヴィア、あれか?」
『あー、そうそう。先越されちゃってたみたいだね。デューク。申し訳ないんだけど迂回してもらってあそこに下ろしてもらっていいかな。』
ミラが指差した先に遺跡へと降りていく巨大な船があった。どうやら少し遅かったらしい。ならば少し遅れて入っていけばいいだろう。シルヴィアの言葉に風の向きが変わった。さらに体が空へと近づく。舞い上がるその慣れない浮遊感に横でシンクがシルヴィアの手にすがった。
*** *** ***
「はぁ?」
「お前は今回オーバーだ。残念だったな。」
バンエルディア号。ホール。そろそろ時期だと、万全の準備を整えていたユーリに告げられたのはその言葉だった。
それこそ突然のことだったのだ。自分が見逃してしまったのがいけないとはわかっているのだが。
「ごめんねユーリくん。クラトスさんが一度遺跡に調査にいったことがあるって言うのを聞いていたし、今回はカノンノも興味を示してるから。」
「今回は特に大きな戦闘にもならないでしょうし、あなたの手は借りなくても大丈夫でしょう。」
告げられるのはその言葉だ。
アンジュと最近船に乗船したジェイド。相変わらず口の減らない策士だが、たしかに彼女がいない分己が戦闘で戦っているのは周知のこと。それが裏目に出るとは思わなかったが。
「俺もちっとはディセンダー様とやらに興味はあるんだぜ?」
「では船で待っていてください。我々が連れ帰りますから」
眼鏡のブリッジを押し上げてジェイドがユーリへと言葉を返す。平然と返されるその言葉に、さすがに口を閉じるしかない。
ジェイドとアンジュはリーダーとして、クラトスは行ったことが在るものとして、カノンノは今後のこともあるからだろう。本来ならば彼女が入っていた場所はカノンノに書き換えられていることが多いのが事実だ。
「アルナマック遺跡に到着しました!」とチャットの明るい声が響けば一番に降りたのはカノンノで続いてアンジュとクラトスだった。
「それに、あなたには自国の姫君の護衛もあるでしょう。こういうことは私たちに任せてくださっていて大丈夫ですよ」
さらりと、
ジェイドから告げられたその言葉に、睨み付けてしまったのは仕方ないだろう。
そんなの望んだ仕事ではないのだから。
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