「強い強いとは思ってたけど、あんた化け物だわ。」
「その言い方はねぇんじゃねぇか?」
「ほめてんのよ。」
サンドファング含む魔物を討伐した時にはユーリとクラトスの体力はかなり減っていた。
さらりと言われた言葉に口元を引く付かせたが、戦いのさなか増え続けるファングたちに取りこぼした何体かがケージを襲っていたのをみたからこそまだまだ自分は強くならなくてはと思う。
さすがに詠唱の時間までは稼ぎきれずおかげでグミも大幅に消費した。汗が伝い、拭った。
だが、彼等の中で「確かな答え」が生まれたのだ。
戦いのさなか、ケージから「ヒトの叫び声」が聞こえた。
それを落ち着かせたのはクレスだ。「必ず助けるから待っていてくれ」と。
「イリア、水は?」
「ちゃんと残ってるわよ。さっさとして」
彼等の中で答えは決まっている。
自分達が請け負ったのは「魔物を搬送」することであり「ヒトを捨てる」ことではない。
今度こそ、と鍵をもちケージに足を向けたクレスの姿をみて「ローウェル」とクラトスが彼を呼んだ。
「んだよ。」
「お前も行って来い。」
イリアもクレスのそばにいき、この場に居るのはクラトスとユーリの二人だ。
さも当たり前かに言ったクラトスに怪訝そうに彼を見たユーリだったが、諦めたようにそれ以上は何もいわずに従うことにした。
少なくともクラトスという男は「何か」を知っている。
クレスの少し後ろに立ち、鍵を開けている姿を見ながら記憶を整理してみる。
少し前にファラとマルタが坑道に連れて行った男。たしかその友人と共に赤い煙に接触していたはずだ。
「(たしか、ジョアン…とミゲルだったか」
脳裏に浮かぶのはそれだけじゃない。初めてあったときのことも思い出す。
ぼろぼろの服に身を包み、不安そうにバンエルディア号に乗ってきた二人の男の姿を。
考えごとをしていればガタンっと大きな音と共に扉が開いた。
「何故、そんな姿に…!」
そこに居たのは、案の定
体が半分魔物のような姿になってしまったあの二人の姿だ。
実際にユーリが見たのは初めてだったが、なるほど、確かにこれでは魔物と同じだと思ってしまうあたり、自分は非常なのだろう。
逆に驚いてはいたが、すぐに駆け寄って「ともかく水飲みなさいよ!」と水筒を二人に押し付けるイリアの不器用な優しさが見て取れる
だが、ここからどうすれば良いのかが、彼にはわからず表情を崩した。
本来ならばディセンダーが・・・シルヴィアが居なければいけなかった。・
彼等に光を分け与えるための、救世主が。
「私たちにもわからないのです。あの赤い煙に触れてから、病は治って村で過ごしていたんですが・・・なぜかはわかりません。でも村の中に居ることがひどく居心地が悪く感じるようになってしまって・・・村・・・だけじゃない・・・この世に生きて行く事自体に・・・自分で、自分の存在がわからなくなって、自分が今まで知っている自分でない気がして・・・」
ジョアンが告げる。
空色の結晶が生え、ヒトとは思えないような肌を見て、絶望の色を瞳ににじませながら。
「そうして、次に意識がはっきりしたときには檻の中でした・・・。私は、私たちは、この姿になって暴れていたのです。彼、ミゲルも赤い煙に触れ病気が治った一人で・・・」
「もう、村には置いていけないと・・・あぁ、だけど、確かに俺たちの身体はヒトとは違うようです。だって・・・全然、暑さを感じない・・・」
カランっと彼等の手に握らされていた水筒が落ちた。じわりと地面に水が零れ落ちてしみを作って行く。
「もう、ここに残って死をまつしかないのか・・・」とミゲルは絶望したように告げた。
病に治りたかった。仲間の為に働きたかった。もっと、生きていたかった。
嫌でも、その心が全員には伝わった。
境遇は違うといえど、それぞれ「何か」を助けたくて、この場所に集った仲間だからだ。
「はは、もっと、いろんなこと、すりゃぁ良かったな・・・っ」
「そうだな、生きて、もっと、いろんなものが見たかった」
絶望にくれる二人を見て、何も出来ない。
ふと、ユーリの手が自然と首にかかっていたリングに触れた。
「っ」
ぶわりと光が生まれる。
驚きの声を上げたのはすぐそばに居たクレスとイリアだった。
その光が一層瞬けば、世界が白に変わる。
−−−− ?
耳元で何かが聞こえた気がした。数秒か、それ以上か。
光がやんで、世界が色を取り戻せば別の声が上がった。
「ヒトの・・・!元の姿に!!!」
歓喜だ。
肌色、本来のヒトの肌の色を取り戻したジョアンとミゲルが声を上げる。
今、一体何が起こった。
「あぁ、ディセンダー様だ・・・っディセンダー様が、私たちを救ってくださった!!!」
「聞こえた、俺にも!!!生きたいかと、聞いてくださる女神の声を・・・!!」
口々に言い出す二人に周りは困惑するばかりだ。
「ユーリ、今・・・」
「・・・なんだ?」
「・・・いや、なんでも、ない。」
首に下がっていた「ソレ」を握り締めていた手をそのまま下に。
その姿をみたクレスが彼に声をかけたが、ユーリの表情を見て視線をそらした。
一方のイリアはヒトに戻った二人に改めて水筒を押し付ければ二人はまるで子供のようにその中の水を飲んでいる。それこそ、生きているという実感をかみ締めているのだろう。
数歩下がってひらりと身を返したユーリにクレスはあえて何も言わなかった。
オアシスの、泉のそば。
あの日、彼女と手合わせをしたその場所。
「・・・シルヴィア・・・」
なるほど、だから彼女はこれを自分に託したのかと。
握っていた手を開けば、そこにはバラバラに砕けた鉄の残骸があるだけだった。
きっと、これでもう×れない。
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