それは間違いなく世界樹の恩恵であり、その愛し子であるディセンダーの力だった。
彼の記憶の中で、その場所は月が美しい場所という印象が強い。同じ場所としては辛く苦い場所でもあるのだが。
カダイフ砂漠。
灼熱の日差しが照りつける中、舞いこんで来た依頼は己には関係がないものだと思っていたのだが、実際、クラトスに連れられて参加することになった。
魔物の搬送。
記憶にあるなかで「ディセンダー」が初めて力を使う場所だ。
「すまないな、ローウェル。」
「別に、構わねぇよ。いい加減お姫さまのお守りにも飽きてたトコだ」
刀を薙いで収めた彼に、クラトスが告げる。
今回のメンバーはクレスとイリア、そしてユーリとクラトスの四人だ。
前衛であるクレスとユーリはひときわ動き、さらに熱を溜めやすい恰好だからだろう。動くからこそクラトスは言うのだが、さらりとユーリはそう言ってため息を付く。
最近、やたら護衛対象であるエステルがユーリにべったり付くようになった。それこそ、常に一緒に居るような印象すら船の中では思われているぐらいだ。
彼の中ではあんなに己に執着するやつだったか?という疑問があったのだが、世界によってまたエステルの性格も少しずつ違っていたからこそ、そこまで気にしなくてもいい、という答えが出る。
ただ、回復や術を使う後衛要員のエステルを連れてクエストにはあまりいけない。
組むとしたらどちらかといえば弓での後衛援護及び回復のできるレイヴンで充分だった。だからこそ、クエストに行くのだが、それ以外の時間はエステルがそばにいる、気がした。
「(だが…)」
この魔物搬送の任務は「彼女」が必須な物だった。ちらりとユーリがクラトスを見たのは、己を誘ったのが彼だったからだ。
元々そこまで口数が多い男ではないと知っているが、何か秘策があるのか、それとも・・・と考えていたところで、魔物が現れユーリはひとまず考えるのを止めた。
「うっわ、最悪…!!砂漠でこいつだけは会いたくなかったのに!!」
叫んだのはイリアだった。銃を構えながら文句を言い放ち現れた魔物-ロックワーム-から距離をとる。一方冷静なのはクレスだ。「ケージを守るためにも倒しておいたほうがよさそうだ」と剣を構えた。
「はぁ!?もうケージをあいつに放り投げて、それで仕事も終わりでいいじゃん!!」
「ギルドってのは最後まで仕事はやり通すもんだぞイリア。」
駆け出したクレスに言葉を投げたが、無視される。
一方のユーリも、さらりと刀を構えればちらりとクラトスを見てから駆け出した。
ロックワームを難なく倒せたのは主にクラトスのお陰だろう。
この暑さの中弱点が炎なのはいただけないがさっさと上級魔術をぶちかまし戦闘を終了させた。
「これで安全に運べるな」
さらりと武器を収めながらユーリが言った。
…が、背後から聞こえてくる「音」に過敏に反応したのはイリア。
「ちょっと!!今何か聞こえなかった!?うめき声みたいなの!!」
まだ魔物を倒して間がないからか、それとも新たな魔物に対する警戒か。
再度銃に手を伸ばしたイリアにクレスは「風のうねりじゃないのかな?」と首をかしげるのだがその言葉を遮るように、今度ははっきりとしたうめき声が聞こえ、クレスは目を見開いた。
「やっぱここで何発かぶち込んだ方が安全だって!!」
「落ち着くんだ、イリア!」
銃口をケージに向ければクレスはその前に立ちはだかった。
今回は魔物の討伐ではない。魔物をオアシスに捨てることだ。傷つけることじゃない。と彼女を説得する。
「だが、ヒトのクスリで魔物が長時間眠ったままだとも限らない。先を急ぐならさっさと行くべきだ。」
まるで、鶴の一声。
はっとしたようにクラトスを見たイリアとクレスに「そうだな、さっさと終らせて船に戻ろうぜ」といったのはユーリだ。
だが、さらりと爆弾となったその言葉に二人は押し黙った。
「…確かに、…やっぱりおかしい」
少しの間。
ついでクレスが言った言葉。小さな疑問は大きな波を起こす。
「まぁ、ともかくさっさと行こうぜ。どっちにしろオアシスに行って鍵を開ければ任務は完了だ。」
**
辿り着いたオアシスはあの頃と変わらない。
朝と夜というだけで景色も雰囲気も変わったように思えるが、水に沈んだ銀を見たときのあの感情は彼の中で忘れられない記憶だ。
とは、いっても、随分と「昔」の話しになるのだろうが。
「さっさと済ませて帰りましょ!!」
一番に言ったのはイリアだった。いい加減この暑さにも嫌気が差したらしい。長時間、いるのもいただけない。
なにより、イリアは医者を目指しているルカのそばに居た。だからこそ、この暑さで密閉された小さな密室の恐ろしさを知っている。
「手順は、鍵を外してそのまま開けずにここを去る。…でも」
そして、それはクレスもだ。先ほどの爆弾は思った以上に彼を疑問の淵に叩き落していたらしい。
ちらりとケージを見て口をつぐむ。
彼の中で約束は、任務は絶対だ。依頼人は「絶対に中を見るな」と再三にわたっていっていた。
「気になるのなら、あけずに相手があけるのを待てば良い。」
ただ、あっさりとそう言ったのはクラトスだった。
驚いたように彼を見たクレスだったのだが、少し考える
「確かに、相手が出てきてくれれば「中を見た」事にはならない・・・」
ソレは言葉の綾だ。
橋を渡るなといわれ、端を歩かず真ん中を進んだ男が居たように。
「なら、鍵を空けて扉は開けないで出てくるのを待つ。それでいいな?」
「…うん。」
小さな金属音。
ユーリの言葉に腰にかけていたポシェットから預かっていた鍵を出したクレスは頷いた。
「ッ!まて!!!」
叫んだのはユーリだった。
ついで、空中に多数の影がかかりソレに気がついたクレスが地面を転がるように退いた。
ケージの上、から今来た道までぐるりと囲んだのはサンドファングの群れだ。
だが、それだけじゃない。
異様な、白。
「…嘘だろ…」
そこにいたのは間違いなく「ジルディア」の魔物だ。まだ、生まれているはずのない存在。
「っ最悪・・・囲まれてんじゃない。」
「多勢に無勢か。」
「どうにかやるしかないみたいだね。」
互いに背あわせだ。それぞれが死角がないように陣形を組む。
だが、まだ、「早すぎる。」
「クレス、イリア。悪いがお前らは手ぇだすな。」
口にしたのはユーリだ。
「はぁ!?」と声を上げたイリアに静かに一瞥したのはクラトス。
「お前らじゃ、「まだ」無理だ。一気に道を開く。ケージを守れ。」
今日はよく戦う日だ。
ここに彼女がいたら最高だっただろうが、今は居ない。
だが「あの時」と同じように魔法を使えるクラトスが居る。
「クラトス、わりぃな援護を頼む。」
背を預けるならあいつが良い。
そう思ったのは紛れもない本心だった。
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