#Side Yuri
今、思い出しても腹が立つ。
そうは言っても、その腹が立つのが自分自身だったら目も当てられないのは、紛れもない事実だ。
まだ、記憶に新しい。デュークと名乗った男に会ってからオレの世界は変わったんだろう。騎士団にフレンと居た頃、突然現れたその銀色はオレを見つけると一度睨んでそして剣を向けてきた。
そのときはオレとフレンしか居なかったらフレンに隊長を呼びに行かせてオレはデュークと対峙した。相手もそのほうが好都合だったらしい。元々目的はオレかと思ったが、奴が使っている剣にどうも見覚えがあった。
不思議な形の剣だとは思ってはいたが、剣を交えるたびに頭の中で誰かがオレを呼んでいた。笑って、照れて、怒って、泣いていた。
そうだ、アイツの髪も銀色だった。
そう思ったときにはオレはその剣に腹を刺されていた。
氷が刺さったようなその感覚から血が沸きあがるような熱に蝕まれて、一気に「何か」が逆流したのだ。
『ユーリ』
−−笑っている。あいつが、
『ユーリ!』
−−怒って居る。あいつが、
『っユーリ!』
−−照れている、あいつが
『・・・ユーリっ』
−−−ないて、いる・・・
「っく・・・シルヴィア・・・つ」
痛みと共に吐き出した名を…俺は今まで一度も聞いたことはなかった…なのに…。
カランっと目の前にアイツの剣が落ちた。それは血の跡だけ残して光となって消える。
ふわりとソレはオレに降りかかると、一気に「すべて」が戻ってきた。
「っあ、あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
オレは、何回繰り返した。
オレは何回アイツを苦しめた。
オレは何回アイツを裏切った・・・!!!
刺された部分の痛みなんてどうでも良くなった。
それよりも頭を支配する記憶が、胸の痛みが、全てを拒絶していた。
情けねぇ、涙が止まらなかった。
…俺が、願ったことだった。俺が誤った判断をしたばかりに…あの「場所」で願ったことだった…。
それが…どうだ。結局あいつを巡らせたのは…。
その数日後におっさんに会って、殴り飛ばしたのは、まぁ苦い思い出だが。
あぁ、そうか、理解されないってのはこんなに苦しいものだったんだな。
それからすぐに騎士団を辞めた。
フレンからは苦笑いをされたが、元々、規律やらはオレにあっていなかったし、あの頃のオレもとっくに騎士団なんざ止めていた。
下町に戻ってから、カロルを見つけて、あの頃よりも少し早めにギルドをスタートさせた。
エステルと出会ったのはあいつが飼っていたインコが脱走し、ソレを捕まえようとエステルが木に登り落ちたところを助けたのが始まり。
今までにこんな出会い方はなかったが、おそらくソレはオレが記憶を持っていることが一番の原因だろう。あの頃オレはまだ騎士団に居たしな。
そこからエステルがよく城を脱走するようになったのだがそれはオレは悪くない。
記憶持ちかとも思ったが、そうでもないのを見ると、少しの行動で簡単に未来ってのは多少変わっちまうらしい。
下手に動けねぇな、とか思ったがそれでも順調にジュディスやおっさんをギルドに引き入れて、宿屋の隣にしっかりとしたギルドを建てた。オレとフレンが幼馴染って言うのもあるが、そのおかげか下町と貴族街でも偏見があまり起こらなくなってきたのは、思ってもない改善だった。
ギルドをしっかりとした軌道に乗せ、そこそこ収入を得られるようになってから下町の一角に一軒家も買った。今度こそ、アイツを迎えいれられるように。
だが、世界ってのは随分と悪戯好き、らしい。
世界樹が輝いた。
あぁ、物語が始まる。やることはいっぱいある。一番はアイツを抱きしめて、謝って、今度こそ世界樹から取り戻すことだ。
そう、思っていたのに、
目の前に、青みがかった銀色がとおりすぎた。
思わず、その手を掴んでしまったオレはきっと悪くない。いや、悪いなんていわせない。
不思議そうに振り返った銀色の空色の瞳を見て、確信する。思わず「お前、何で此処に」と言いかけて、音には出せなかった。
『離してくれませんか、おにーさん。』
オレを、知らない目。
心臓が握り締められるような錯覚に陥るほど、衝撃的だった。後ろでおっさんがなにかほざいている、が、それどころじゃない。オレが、間違えるわけがない。
『私に何か?』
「いや、知り合いに似てたもんで、わりぃな」
『いいえ、世界には三人も似たようなヒトが居るって言うから仕方ないわ。』
懐かしい声、懐かしい話し方。
そうは思うのに、するりと抜けた手が、酷く他人行儀で。
『此処であったのも何かの縁ね。初めましてシルヴィアといいます。』
にこりと笑った笑顔も、何もかも、一緒で、固まった。
固まったが、数秒置いて、「ユーリ、だ。アンタはどうしてここに?」と問う。
ファミリーネームを言わなかったのは、オレの、トラウマだからだ。
オレの問いに、ちらりとギルドの隣の宿を見て『私、そこの宿に泊まろうと思ったの。そしたらあなたが止めたのよ』と告げる。
下町に家があって、そこに住んでたらさすがに俺も気がつく。そうでないならアドリビトムが家なシルヴィアのすむところ、といえば宿くらいだろう。
あぁ、だが、確証的な何かが欲しくて
「あんた、出身は?」
出した疑問に、視線をそらして、『へーゼル村よ』とシルヴィアは告げた。
彼女はあっさりと町の中に溶け込んでいた。
傭兵と自分で言っているだけあって、外に行くときの護衛やら子供達の遊び相手やら良くやっているらしい。いや、それ傭兵のやることじゃねぇだろと突っ込みたくもなるが、心底楽しそうに笑っているのを見て、何もいえない。
ただたまに、道具屋が使う馬車の馬を借りて遠出している、ということはわかった。
何をしたいのか、オレには全然わからないのだが、なるべく目は離したくなかった。
ただ、情報としてありがたかったのはカロルがシルヴィアと魔物討伐の依頼をした時に、アイツが世界樹の根や星晶についてカロルに聞いていたことだ。これは使える。そう思った。
シルヴィアを独りにしたくはないのだ。もうすぐ、エステルとリタと共にガルバンゾから逃亡する。そうすればしばらくの間、指名手配がかかりシルヴィアに会うことは出来なくなる。
もしかしたら、シルヴィアはホントにディセンダーではなくただのヒトとして転生し今ここに居るのかも知れない。
アドリビトムには新しいディセンダーが居るのかもしれない。そうなったら・・・、アイツは独りだ。
そんなこと、オレが許さない。
そう思って、エステルをうまく丸め込み、リタに星晶を良く知っている奴がいると告げて、シルヴィアを加えようとしたが、撃沈した。
ただ、その時に、シルヴィアの口から「アドリビトム」というギルドの名が出たのだ。
オレが聞き間違えるはずはない。
だから、出発の日。
エステルを迎えに行く前に、シルヴィアを説得しに彗星に行った。
水の音はしないから風呂には入ってないという核心を持ちつつ、ちっとばかり驚かせようと静かにドアを開けたのだ。
ノックを忘れたが、まぁちょっとまえまでよく入り浸ってた、と思ったが、そうでもないらしい。
扉をあけた瞬間に、向けられたのは包丁の切っ先と驚いた俺に『私がお風呂に入っていたらどうするつもりだったの?』と満面の笑みで迎えられた。
それから一つ息を吐いてさすがに包丁は置こうと思ったのか備え付けの台所に向かっていったシルヴィアの背中を追えば随分とたくさんのサンドイッチやら軽食が並んでいて、疑問が募る。
まさか着いて来てくれるのか、なんて淡い期待を持ったのだが、そばに行ったとき、目に入ったものは、いただけなかった。
シルヴィアの左薬指に光る、大きさの違う二つのリング。
その手を包丁を持つ手ごと、掴んでしまった
「お前、結婚、してるのか。」
酷く、ノドが乾いた。
どんな表情をオレはしているのかわからないが、シルヴィアは不思議そうな顔をしてから『姓は変わった。』と随分寂しそうに言った。
そういえば、彼女の前で結婚という言葉は使ったことはなかった、気がする。
わからないから、ソレっぽい言葉を並べたのか、
『それが、何?』
「サイズが違うのに、ふたつもつけんのかよ」
『仕方ないじゃない、返されちゃったんだから。』
「初めて」シルヴィアにあったとき、アイツと擬似だがそういうことをした。そのときのリングはオレにはない。二回目の記憶は、こいつに酷いことをぶつけたことしかない、吐き気がする。思い出したくない。3回目は・・・あまりかかわっていなかったように思える・・・。
『あの人は、私の道標だった。何度だって戻りたいと思った。でも、世界はソレを赦してくれない。』
泣きそうな、
自然と手が伸びて、頬を撫でて顔を上げさせた。
あの頃よりも、少しだけ身長が伸びたのだろうか、成長をしているように思えるシルヴィアはきょとりとオレを見上げているがそのまま逆の手で逃がさないように抱きしめる。
「オレは、お前が好きだ。」
ずっと、ずっと、好きだった。
「だから、一緒についてきて欲しい。お前を独りにしたくない。」
そして、記憶がなくても、あっても。お前を独りにしないという約束を、果たしたい。
『私は、もう、ずぅっと前から独りよ。それに、ユーリのこと、全然知らないもの。』
静かな、拒絶。とどめのように思えた。
あぁ、そうだ。オレが、覚えているだけなら、お前にとってオレは付きまとっていた男なだけだもんな。
だったら、どうして、顔を見ないんだ。
吐き出した言葉は酷く無機質めいていて、震える両の手を、シルヴィアは下でにぎっていて、『一つ、聞いていい?』とオレの名を呼んだ後に言った。
『どうして、初めてあったとき、名前、全部言わなかったの?』
全部、というのはファミリーネームのことだろう。
相変わらず下を向いたままの彼女に「ファミリーネームで呼ばれたくなかった」といえば不安げにゆれている瞳が持ち上がって、重なった。
オレの目を見て、ゆるゆると驚いたように固まった瞳に、もう耐えられなかった。
引き寄せて、口付けを擦る。一瞬からだが跳ねたが触れるだけのそれにシルヴィアの目から涙が零れ落ちて苦笑いをしてしまった。
約束を取り付けて、そうしてお守りといって彼女が渡したのは無理やり「何か」が消された小さな宝石が付いているリング。
おそらく指に嵌められないように、オレの首に掛けたのだろうが、分かれてからすぐに試してみれば、悲しいことにそれはオレの指にぴったりとはまった。
だから待っていてくれると思ったんだ。あの手紙に、「体が元々弱い」ということ「待つといったけど、きっと間に合わない」ということ、そして「「もう、私のことは忘れてください。貴方の幸せを願っています」とそう書いてあって。
あぁ無理やりにでも、連れてくれば良かったと、そう思っても、後の祭りなんだろう。
お前の嘘は、笑えないんだよ、シルヴィア。
Re20210122
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