『(やっぱり、世界の進みが・・・速い・・・)』
フレンから交換で聞いた情報は私を焦らせるには充分だった。
ガルバンゾから拠点に帰ってきたのはすでに日が暮れてから。
ジュードといそいで手分けして料理をして今日のご飯はカレーで、皆に配ってそれから解散。
明日の作業もあるからとみんなが新しく完成した広めのロッジにみんなで今日は雑魚寝するって言ってて、今思えば一番最初に出来たロッジは私とミラ用になってた(女性だから良いんだよって言ってくれた)
でも、フレンの話を聞く限り早い、のだ。多分。実際どれぐらいかわからないけれど・・・早い・・・。
『(もう、赤い煙が・・・ラザリスが形を持ち始めてる・・・。レイヴンたちが入ってどれぐらいでミゲルたちが赤い煙に接触したっけ・・・っ)』
一度目は、きっとクラトスがうまくユーリを先導してくれるか、私に何か合図を送ってくれるはずだ。
でも、ここから砂漠までは海とルパーブ連山を越えなくちゃいけない。
それは、アルナマック遺跡に行くのもそうなのだけれど…一度砂漠まで行って、戻ってくるのにどれだけ時間がかかるのか検討が付かない。
『(私は・・・間に合うの・・・?助けられるの?)』
ただ、一言で言うなら怖い。
ディセンダーに恐怖がないなんていったのは一体誰だったのか・・・いや、実際にはヴェラトローパに芽生えたヒトの祖・・・しいていうならそんな存在に情報を与えたニアタだろうけれど。
この場所を長く空けるわけにも行かない。魔物は手を出してこないけれど、いつヒトがこの場所を探り当てるかわからない。
魔物が守ってくれるかもしれないけれど・・・彼等を傷つけて良い理由には、ならない。
「シルヴィア、どうした?」
『・・・ミラ。』
私が戻ってこなかったからだろうか。
虫除けと念のための魔物除けで常に火をともしているここに、ミラがやってくる。彼女の名を呼べば「隣失礼するぞ」と私が腰掛けているその丸太の隣へと座った。
「何か考えごとか?」
『んー、まぁ、いろいろと、かな。』
「私では話せないことか?」
『や、特に深いアレではないからさ、ちょっと世界が進むのが早いなって・・・思っただけなの。』
彼女は、昔の私のように思う。
精霊としてこの世界に芽吹いたばかりだからヒトの世の理がよく分からないのだとミラから一度聞いたけれど、きっと私もそうだったんだろう。
最初に会った頃に比べて、ミラはおいしいものも好きなものもお気に入りの物も出来たから。
「・・・私はディセンダーと共に生きているわけではないから、どれほどこの世界が巡っているのかはわからない。」
『うん。』
「だが、世界樹から私が生み出されたとき、ディセンダーを支えてくれといわれたのだ。昔ほど強い声ではなく、どこか消え入りそうな声だったが。」
ミラの瞳に、かがり火の炎が反射する。
彼女は、セルシウスと同じような部分があるらしい。リヒターとセルシウスと同じようにヒトとの契約によって降ろされた存在でもある。
契約者のジュードが何かしら世界樹に言われたのか、それとも否かなのだろう。
「きっと、世界樹も弱ってきているのだ。」
『・・・それは知ってる。』
「さすが、世界樹の落とし子か。」
『世界樹が弱ってるんじゃなくて、ラザリスの目覚める感覚と意識を持つ感覚が早くなってきてるんだと、私は思うけれど』
あの子は、目覚めるたびに私と違って記憶はなくしていた。
それでもだんだんと物語が進むに連れて確かに彼女は私に対しての憎しみを増大させていった。
4回目のあの時、彼女は言ったのだ。しっかり、私の目を見て。
−−−やっと、救えると思ったのに
そのまま光に変わっていつものように私の胸に吸い込まれたラザリスのドクメント。
私が諦めかけたから、世界の侵食は進み、もう少しで彼女の楽園が生まれるはずだった。なのに、私はその夢を打ち砕いた。
それを受け取って、涙が止まらなくなってしまったのだ。世界樹としての私とジルディアという世界のラザリスが兄弟のようなものだからといえばそうなのかもしれない。いかせん、私もすべての記憶を覚えているわけじゃない。
回数を重ねるごとに最初の頃の記憶はだんだんと忘れていく。
3回目なんてほとんど覚えていない。なのに2回目を良く覚えているのは、きっと忘れられないからだ。
『あの子は…きっと何か考えているの…。その意志が、だんだんと早くに芽生えるようになった。』
「…シルヴィア。」
『たくさん、やることがある。時間足りない。』
私は、止まることは出来ない。左手に輝くリングは見ないフリをしなくちゃいけない。
もう、私が愛したユーリがいる世界には、帰ることが出来ないって知っているから。
だから手紙にも書いたのだ。「もう、私のことは忘れてください。貴方の幸せを願っています」って。
「ディセンダー。私も協力しよう。出来ることがあれば、教えてくれ。」
『ありがとう。でもディセンダーは止めてね。」
「ふふ、あぁすまない。」
Re20210122
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