*Side Flen
気を使わせてしまったか。
久々に見た目的の人物を見つけて、声をかけてしまったことに謝る気はないけれど、彼女に笑顔でそういって僕たちに背を向けたジュードという青年には少し悪いことをしてしまったという罪悪感はある。
ヒトの多いこの場所で彼女に話しかければそれは目立つ行為だとわかっているし、僕の立場上、目を引いてしまうのもわかっている。
実際、ヒトの視線は多いし、シルヴィアも少し不機嫌だ。
『話しかけるなら場所か、その恰好を選んで欲しかった。』
「シルヴィアを見つけたのもたまたまなんだ。許してくれ。何かおごるよ。」
苦笑いを零してそういえば『彗星でだったら話は聞くけどそれ以外の場所じゃ嫌だからね』と彼女は言った。
きっと彼女にとってあそこは安心できる場所なんだろう。帰ってはいなくとも、あの場所を借りっぱなしだということは知っていたから。
街中から彗星へ、
中に入ればまず、彼女に「お帰り」という言葉が返ってきて、心底嬉しそうにシルヴィアは笑った。
それからなれたように階段を上がって、一番奥の部屋。
シルヴィアが借りっぱなしの彼女の部屋に入れば、やっぱり長らく帰ってきていなかったのだろう、少しだけ埃が目立つ。
それに驚いていたのはシルヴィアのほうだった。ぽつりと『誰もいないのに汚れてる・・・』と言葉したその言葉は、本当に何も知らないんだと思う。
「軽く掃除するかい?」
『・・・そうする。こんなに埃っぽいんじゃお茶も出せない。』
すこしムスッとして、シルヴィアは軽く埃を払ったテーブルの上に持っていた荷物を置いた。それからすぐに身を返して窓を開けに言っているのをみて、彼女は本格的に掃除がしたいんだろうな、と。
まぁ、今日一日ぐらい僕が戻らなくても大丈夫だろうと苦笑いをこぼしてこの作業を手伝う覚悟を決めるのだった。
「女の子にしては荷物が少ないんだね。」
言った言葉は無意識だ。きょとりと首をかしげて『少ない?荷物?ほかに何かいるの?』と心底不思議そうにしている。
女性の部屋に長居をしたことがないから良くはわからないが、彼女の私物はほとんどない。
来客用のカップなどヒトが来ることは想定しているし調理道具もそろっている。確かに彼女は傭兵という認識はあったけれど、
「洋服とか、化粧道具、とか。」
『・・・けしょう・・・?』
あぁ、やっぱり彼女は少し僕達とは違うんだろうな。
首を横に振って「なんでもないよ」と告げれば一通り納得したのか、まくっていた洋服のすそを戻したシルヴィアが「じゃあ、フレンの思う普通の女の子ってなぁに?」とまるで子供のように目を輝かせて聞いてきた。
「普通の女の子?」
『フレンの思う、普通の女の子。』
あいにくと、下町生まれである僕の普通は両極端であることは間違いないだろう。
苦笑いをしてしまえば『じゃあ、私は普通じゃない?』とまた首をかしげた
「シルヴィアは・・・確かにちょっと不思議かもね。」
『不思議?』
「うん。第一に、普通の女の子はよほどのことがない限り、剣は握らないし戦うこともしない。」
だから、一番に言う。
そうすれば、心底理解が出来ないといったように表情を曇らせるから「まぁ騎士団には勿論戦う女のヒトだっているし、ギルドに属してヒトの為に何かをしているヒトもいるよ」と告げた。
「この部屋は、凄く寂しいな、ってそう思ったんだ。ごめんね、悪い意味じゃないんだよ」
『寂しい?』
「うん、これは男女関係なく、ね。自然とヒトが生きて行くとモノが増えていくんだ。写真とか洋服とか思い出のものとか・・・。まぁ、シルヴィアは前に世界を転々としてるって言ってたからそういうのも少ないのかもしれないね。」
行方不明になったエステリーゼ様の部屋には大量の本があるように。
「じゃぁ、部屋も綺麗になったところで、僕と取引してくれるかい?シルヴィア。」
あぁ、でも、本来の目的を忘れたら元も子もないか。苦笑いを零せば、『そういえば、そういう話だったっけ』とシルヴィアは先ほどとは違い少し遠い目をして、また苦笑いをする。
『それで、シーフォ隊長はどんな取引をしてくれるの?』
「キミが持っている情報と、僕の持っている情報の交換。でどうかな。」
『黙秘権は?』
「もちろん、」
『交渉成立。』
にっこりと笑う彼女に、ホッとする。僕が何を聞きたいか、大体彼女はわかって居るだろう。
そして、彼女が欲しい情報は、星晶や世界情勢のこと、という僕の情報も間違っていないはずだ。
*Side Raven
今日も今日とて、この船は騒がしい。
騒がしいなんてレベルじゃないなーっていうのは最近よぉくおっさん思ってるんだけど一番雲息怪しそうなのが青年と来ればまぁ、黙ってるわけにはいかないわけで…
「ちょっとぉ、青年なんでそんなに落ち込んでるわけさ」
俺様とジュディスちゃんが乗船して、このギルドに一時加入して早いもんで早1週間といったところか。
ガルバンゾでシルヴィアちゃんから受け取った二通の手紙のうちの一つは青年あてだったから、簡単に渡すことが出来たがもう一通が知らん名前とくれば、探すのに手間取って、結局アンジュちゃんに預けることになった。それで大丈夫だったかしらといまさらながらに心配にはなるが、他人の手紙を覗いたりはしないだろう。
まぁ、あの子のことだから、きっと何か奢るぐらいで許される…はずだ。
ただ、一番の問題は目の前の青年なわけだ。
俺様からあの日ひったくった手紙をルンルンしながら開封していたにもかかわらず、内容を見てから顔を真っ青にして船を飛び出そうとしたもんだから止めるのにも苦労した。
第一、アンタガルバンゾじゃ指名手配中なのよ。と思うのだが、青年を垣根なしにそうさせちゃうあの子の存在も凄いと思う。
そして、もう一つ。
青年とは、ガルバンゾを出てっきりあっていなかったんだけど、いつの間にか首に指輪が光ってた。
きっとお嬢ちゃんも気が気じゃないだろうねぇ、なんて思う。だって、青年は妹分、ぐらいにしか見ていないだろうケド、あの子の青年を見る目は明らかに異性に向けてのソレ。
「…なぁ、おっさん。」
「なんよ。」
「どうしたら、自己犠牲ってやめさせられんだよ」
唐突な質問に、さすがのおっさんもビックリだわ。
力の抜けたその身体は机に突っ放しっぱなし。ため息が尽きたいぐらいだれた生活をしている青年にあんまり言いたくはないけど、青年も青年で自己犠牲しまくってると思うのおっさんだけじゃないと思うのよ。うん。
「シルヴィアちゃんのこと?」
「…まぁ」
「…んー、あの子はどっちかって言うと」
全部、諦めちゃってるよね。と。
口に出した言葉に悪気はない。
青年もピクリとも動かない。でも俺様が一番に思ったのはそれだった。あの子は、青年に根本が似ているけど、俺にも似ている。あの子は何かを諦めている。
「おっさんがそう感じるって言うことは、そうなんだろうな」
「根無し草みたいだからねぇ。どっちかって言うとタンポポの綿毛かなー。一つのとこにとどまれないって言うの?」
少しだけ、諦めたような青年の声。
此処まで沈み込んだ彼の声を聞くのも心底珍しいが、そうさせているのがあの女の子だというと納得は出来る。
おっさんだって、昔、騎士団に居たからね。青年が騎士団に居たときのことはよぉく知っちゃってるわけさ。
「あの子を、引き止めるのは青年の役割でしょ?」
気が狂いそうになっていた青年が俺様に飛び掛ってきたのは酷く情けない思い出だ。
あの時、弱兵がと思ったがガチ目のガチ。本気モードで飛び掛ってきて秘奥義まで決めちゃって、俺様のいやーな思い出まで引っ張り出してくれちゃった青年は、きっと深く後悔してるって言うのは知ってるし、それから俺様と青年は共犯ってわけなのさ。
「・・・あぁ」
「しんどくなれば、青年が先に待てなくなったって迎えに行っちゃえばいいのよ。そうでしょ?」
「・・・そう、だな。・・・あぁ、そうだな。」
彼が泣きながら吐き出したあの言葉がだんだん現実味を帯びて行く中で、世迷言と取れなくなってきた世界で
あのときの青年は本当に壊れそうだったし、昔の俺様に似てたから、思わず手を差し出してしまって手が引けなくなった。
だからだろうか。
光を失った瞳で、俺様の羽織を抱きしめて泣いていたあの子を思い出したのは。
「(いつでも帰ってきてイイのよ。シルヴィアちゃん。)」
青年は、もうキミを裏切ったりしないから
Re20210122
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