私を助けてくれたのは、白馬にのった王子様等ではなく、黒いヒト。
そんなヒトに、私は恋に落ちたんです。だから、突然現れた、あの銀色が大嫌いで…彼に近づけたくなかった。
半分は、運まかせ。
リタとユーリと3人で、ガルバンゾの外へ。ずっと気にかけていた採掘跡地へ旅に出た。
本当は嬉しかったんです。ずっと好きだったユーリと外の世界を見ることができるのが。
でも、自分の未熟さのせいで敵に追われてしまって、一度は離ればなれになってしまったけれど、ユーリが目的としていたギルドとは接触できて保護してもらえたのは幸いでした。
続けざまにたくさんの出来事があってとても大変だったのだけれど、それでもちゃんとユーリは私のことを見てくれて心配して声をかけてくれて…たとえそれが一国の重役としてでの対応だとわかっていても…嬉しかったです。
そのなかでほんの少しでも好意を持っていてくれると思っていたんです。でも
あの銀色のように、ひらりと突然現れたレイヴンが、彼の興味を一瞬でさらっていってしまったんです。
「青年にシルヴィアちゃんからお手紙よー?」
「っ!かせ!おっさん!!」
「ぅお?!ちょ!?がち!?がちめ?!」
"シルヴィア"
私の大嫌いな、名前。彼の関心も何もかも全て奪った女のヒト。
「ふふ、本当に彼女が気になるのね。」
「あー、そいつにはノーコメントな」
レイヴンから奪った手紙を見ているユーリにジュディスがかける声。どうして、ユーリはそんなに幸せそうに笑ってるんです?
知らぬまに、握りしめた手。
ーーあぁ私は、醜い。
「エステル?」
「…大丈夫です。少し、風に中ってきます。」
誰にも話せない。
この想いは幸せと思うより、痛いと思った。
ーーそれは月の子の本心が起こした、誤解。
初めてその姿を見たとき、魔法の使える普通の女の子だと、そう思った。
きっと、先にミラが教えてくれていなかったら、僕はシルヴィアが僕達の探していた「ディセンダー」だって言うことに気がつかなかっただろう。
時間がたつのは早い。
僕とミラが彼女の元を訪れて受け入れられてからも着々と作業は進んでいて、どんどんヒトの住める環境が整っていった。
ただ、現代文明に慣れ親しんだヒトはここの生活をするのに苦労するだろう。星晶はつかわないということは火をおこすにも水を使うのにも、大変なのだ。それでも、ここに住んでいるヒトたちはまるで「必要」とすら感じていないほどだった。
『ジュード?』
「え?あ!ゴメン!!」
ぼぅっと、していたらしい。僕の名を呼んだシルヴィアにはっとする。
慌てて視線を向ければ首をかしげている姿は、本当に「普通」の女の子の姿だ。(ただ、シルヴィアの方がきっと年上だろうけれど)
『特に何もないけど、やっぱりミラと一緒の方が良かった?』
「違うんだ、本当に少し考え事をしていただけで」
『本当?疲れたならちゃんと言ってね?』
苦笑いをしてシルヴィアがいう。
その両手には大きな荷物が抱えられている。僕も同様だけど、今日は、ガルバンゾにシルヴィアと僕と、何人かとで買出しにきているからなのだが。
僕はシルヴィアの護衛という立場なのだけれど、包帯や薬品関連がやっぱり足りなくなって、それで付いてきたっていうほうがきっと正しいのかもしれない。
けれど、シルヴィアにとって外に出る。ということは買出しよりももっと重要なことがあるんだろう。
僕から視線を外して、なるだけ広い範囲に意識を集中させている彼女の一番の目的は「情報収集」。
ミラが言っていた。
ディセンダーは招かざる災厄を治める「降臨するモノ」
ヒトがおのれ等の生活の繁栄のみを考え、そしてその動力源となる星晶を大量に採掘したせいで眠っていた災厄が目覚め、ディセンダーはソレを治めるため「だけ」に目覚めさせられたということ。
だから、彼女は全てが終ったら世界樹に還るのだということも・・・世界樹が、そのことを酷く悲しく思っているということも・・・
世界樹の意志をシルヴィアは知らない。これはミラが「精霊」だからこそ世界樹に託されたイレギュラーなのだと彼女は言っていた。
「シルヴィア。」
『うん?』
「もし荷物大変だったら一回置きに馬車に帰る?」
『ジュードは大変?』
「うん、少しだけ。」
『じゃあそうしようか。』
女の子として、その大きな荷物をずっと持っていることは大変だろう。けれど、シルヴィアが荷物を降ろしたりしないのは少しでも、というわけじゃない。
普通の女の子がどういうものか、シルヴィアがわからないから、限度がわからないのだ。
だから、僕が一歩下がれば彼女はそれに合わせる。
きっと彼女のそばに居たキルという男の人が、彼女が「ディセンダー」だと気がついたのはこういう些細なことだったんだろう。
「あれ、シルヴィア?」
名が、呼ばれていた。
不思議そうに振り返った僕達が姿を捉えたのは、白と青の鎧に身を包んだ一人の金色の髪を持つ青年…おそらくこの国の騎士様だろう。
『フレン?巡回中?』
「まぁ、そんなところかな。久しぶりだね。」
『うん、こっちに戻ってくることも少なくなったからね。』
さも当たり前かにこちらに寄ってきてシルヴィアと話をし始めるあたり、きっと仲が良いんだろう。確か、キルさんが元々シルヴィアが此処の宿屋で生活していたということも聞いていたし、きっとその時に仲良くなったんだと思う。そう考えると、このヒトは本当にいろんなことを見てる。
「キミは初めまして、かな?僕はフレン・シーフォ。ガルバンゾ国の騎士団に勤めている。」
「え、ぁ、僕はジュード・マティスです。今はシルヴィア・・・さんの手伝いで。」
『良い子でしょフレン。この子お医者さんの卵なの』
「へえ、すごいね。」
なんて思っていたら、彼の方から声をかけられた。どもってしまったのだが、シルヴィアが笑顔で彼に話す。そうすればフレンさんは純粋に驚いたように僕を見るから少しくすぐったい気持ちになった。
「そういえば、最近の噂、キミは聞いたかい?」
『噂?』
「ああ、【暁の従者】と名乗る宗教団体が「赤い煙」を追っているらしいんだ。あいにく、ガルバンゾ近郊で「赤い煙」の目撃情報はかなり少ないからなんともいえないんだけど・・・」
『・・・暁の従者・・・ね、なるほど。知らなかったわ。まだ情報ありそう?』
「あるにはあるけど・・・」
ちらりと、視線が僕に向けられる。
それにシルヴィアが一瞬だけ険しい表情をしたけれど、ため息を付いた。
『なぁに。ジュードに聞かれちゃイヤだっての?』
「彼は、一般市民だろう。それにこんな街中で話す内容じゃない。」
『あらそう。』
とげがある。
そう思ったのはきっと僕だけではないはずだ。
片足重心で、なんともだるそうに話し始めるシルヴィアに多少驚いたけれど、確かに僕はフレンさんとは初対面なのだから仕方がないんじゃないかと思う。
「シルヴィア。僕、先に馬車のところで待ってるよ」
『ジュード。』
「僕はフレンさんが信用できる人間じゃないのは確かだし、僕も僕で情報収集してるから。」
きっと、フレンさんはシルヴィアを悪くすることはない。
それは彼がさっき騎士団と言ったことでも信頼できるし、何よりシルヴィアが彼を信頼しているってわかったから、少し悔しいけど、詳しくはあとで彼女から聞くことにする。
なにより、世界を知りたいのは、シルヴィアのはずだから
でも、彼女がそれを抱えきれなくなったとき、どうなってしまうのかだけが、なによりの心配だった。
---それは、精霊と共に生きる優しい青年の願い。
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