*-*Side Kilu
最初は単なる傭兵かと思って声をかけた。
今日も今日とて下町と貴族街中間に位置するこの場所はよく賑わっていた。
下町、貴族街、ザーフィアス城。
ここ5年ほどでずいぶんと平民と貴族の間が縮まったのは騎士団とギルドの連中が仲良くしはじめたからだろう。
実際。ギルド・凛々の明星のユーリと騎士団長のフレン・シーフォは下町生まれの幼なじみ。
故にお互いがお互いを助け合って(たまにぶつかりあって)いる。噂で聞く謀反や戦争とはまだかけ離れた平和がここにあった。道具屋としては、閑古鳥が鳴くのは痛いが仕方がない。平和が一番だ。
今日も女子供の声がよく響いている。
ただ、いつもと違ったのだ。紛れたようで紛れきれていない、銀色。
背に布に巻かれた何かを背負い、回りを気にすることもなく歩き続ける姿。
気配を殺している訳でもない。
パッとみれば荷物を背負っているだけの女性。それでもおもわず「お嬢ちゃん見ない顔だね、傭兵かい?」と店先から声をかけた。
振り返った彼女の空のように蒼い瞳が俺をとらえて、ひらりと手を振れば ヒトの合間を縫ってうまく店先に来た彼女は改めてこの店の意味を理解したらしい。
『えぇ、一応。店主、オレンジグミをいただける?』
「まいど! いやぁ、すごいねぇ、お嬢ちゃんみたいな女の子が傭兵だなんて。」
『性別なんて今のご時世関係ないと思うわよ?』
一応。と言ったがさらりと彼女が言ったのは術を発動するとき補助になるものだ。
つまり背中のは杖か何かか。ただ、普通にしていれば引く手あまただろう彼女の容姿におもわず思ったことを吐き出せば彼女から出るのは疑問だった。
すべてを平等にと考える。それはまるで。
「あぁ、そりゃぁねぇ…、今や星晶の回収のために戦争まで起こす国があるんじゃなぁ…特に異国じゃ星晶のある村を襲うっていう国もあるみたいだしなぁ、ディセンダー様がこの世界を見たらなんて思うか。」
『あら、店主はディセンダーを信じているの?』
「そりゃぁ当り前さ!いや、何、俺の実家はかつてディセンダー様をお祀りしていた一族でね。」
口にしたのは気まぐれだ。けれど彼女は食いついた。戦争でも星晶でもない。ディセンダーという単語に。彼女は、俺の意見を面白いといった。他のヒトには可笑しいといわれる、それを。
それから彼女はこの町に住み始めた。といっても俺が紹介した宿に長期滞在の契約を取り付けたらしい。それも下町には驚くほどの大金をぽんっと一括で。よく道具も買いに来てくれるし時には差し入れもしてくれる。
一部では彼女はどこか別の国の姫君やら、逃亡者ではないかと噂もたったが、彼女は生粋の戦士だった。
『ディセンダーは救いは与えられても、罰は与えられない。世界樹を苦しめたやつらを罰せられない。救う力しかない。たとえ救えてもそれは一時で、繰り返す世界を見たら何を感じるのかしら。』
心底深い闇。それを瞳に宿して、彼女は世界樹を見た。何を思っているのか、わからない。その眼。
まるで、まるで 、その言い方はと…
そこからは簡単だった。
彼女はひどく純粋でそして諦めることなんてしなかった。
ただいつも前を見て、新しいことに目をキラキラさせて子供のようだったのだ。
故郷に世界樹の話を、自分がいましていることを、そして、シルヴィアのことを話せば故郷からたくさんの仲間が来てくれた。
それにひどく驚いていたようだったけれど、いろいろなことが同時に進んでいくのが物珍しいのがきょろきょろして回っていた。
その様子をみて、やはりみな同じ事を思ったらしい。何よりも、だんだんと彼女は世界のことについて知りたがっていたから。
だがヒトの体というのは疲れが見えてしまう。
一番に唯一の女性である彼女の場所を。
そして次にとやっているうちに誰かが怪我をした。
と言っても、だれが頼んだわけでもないふわりと足元に光が走ったかと思えば、体に暖かいものが流れこんでくる。そうして、光がやめば体のだるさや怪我は一切なくなっていたのだ。
満場一致で、彼女にその術を使わせるのをやめさせた。
心底傷ついた顔をしていたけれど、彼女は守らなくてはいけない。
魔物には勝てないが、おかしなことに最近はからっきしおそってこなくなった。それどころかたまに狩られた兎や木の実がおいてある。それはきっと、彼女のお陰なのだろう。
けれど、遠い目をするようになった。
遠い、遠い目をして、寂しげに笑うようになった。間違っているのかそうでないのか、わからなくなって、そんなときに二人が現れた。
精霊と名乗るミラという女性と、医者をしているジュードという少年。
ミラはたしかに神秘できでつかめない。そして何よりもシルヴィアのそばで守ろうとした。それはジュードもだった。
そこではっきりしたんだ。
あぁやっぱり。
月の光のなかにたたずむ彼女は、この世のものとは思えないほど美しかった。
Re20210122
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