森で出会ったその人たちは、私が「ディセンダー」だと言うことを知っていた。
水路を作ろうとしてから3日。
ベースの目の前に作った「畑」と呼ばれるそこに巻いた粒が芽を出した。
それは「芽」といって、植物の子供だと思った。芽が育つと花を付け、それから実をつけ、実が食べ物になるのだという。
本当に不思議なことだ。
けれど、最近気になるのは「怪我」。やはり森での作業、それからなれない環境での毎日で十分に休めなかったり疲労がたまったりで体調を崩す人がいる。
料理も今のところ食料はすべて街から調達してきてその手間もかかっている。
みんな頑張っているけれど、キルの顔にも疲れがみえる。
一度彼らの怪我を治すために治癒術を使ったら、彼らは驚いたけれど、口をそろえて「なるべく使うな」と言った。それはきっと彼らが「赤い煙」がヒトを治すと知っていて、噂が広がるのを避けるためだろう。でも、彼らの役に立てるのは私にとってこれしかない。
『…はぁ』
女と男。こんなにも扱いが違う…差別されているみたいで心細い。なんて、考えながら森の中
拠点よりも離れた子の場所は位置から言うと湖を真ん中に東側。
北側…今作っているところは畑スペースにして作物に強い人たちのところにする、
次はここを開拓するのに、キルは手の空き始めている人たちに声をかけ、相談中らしい。
私はおいてけぼりだ。何も知らないから。
『…風よ。その力を刃に変えて、わが力となれ。エアカッター!!』
だから、先に木を切ってしまおうとここに来た。驚かせる。というよりも、何かしていないと落ち着かないから。魔物も今は少ない。
風が吹き荒れる。
髪が巻き上がるが、そんなことを気にしている場合じゃない。
なるべく上ではなく、下…根元から切るように。
それは彼らがそうやって切っているから。
めきめきと樹の折れる音。あまり好きではないけれど…
『…ごめんね。』
地面に倒れていく木。それらに込めて一言つぶやくように。
昔、キールに聞いたことがある「植林」というものをこれからできるように。
目を閉じて、息をはいた。
「こんなところにいたのか、ディセンダー」
けれど、なぜ。突然「それ」が言われて、目見開いてしまう
ドクドクと変な動悸。
ゆっくりと振り返ればそこにいたのは、見知らぬ女性。綺麗なウェーブを持つ金色の髪に、一部だけ緑…その後ろに黒髪の男の人がきょとんっと私と彼女を見ている。
少年は、おそらく「ヒト」
けれど、彼女は…?
『…私がディセンダー?どうしてあなたにわかるの。』
「ミラ・マクスウェル。私は精霊だ。」
「精霊」
何度も聞いた言葉。
マクスウェルという名は始めて聞いたけれど、きっとそれは私が何も知らないから、きっと知っていたらよかったんだ。
ウィルや、クラトス…しいなに聞けばおおよその答えを教えてくれるだろう。でも今その人たちはいない。切り倒された木の広場で、世界が固まる。隠れるために亜の場所から出てきたのに、こうしてばれてしまうのはきっと…
「うまくヒトに紛れていても、私たちにはわかるものでな」
複数系。彼のほうを視界にとらえると、少し慌てていた。
彼は、違う
違うのに、どうして精霊といわれる彼女と一緒にいるのか、
「あ、あの!!突然すいません!!ディセンダーさま」
『様なんてつけないで、私はシルヴィア・ローウェルよ。』
「えっと、」
『シルヴィアでいい』
彼は、どこかカロルに似ている。しいていうならエミルやルカかもしれないけれど…
私の名を聞いてからか、次いで「ジュード・マティスです。」と続けた。
視線を外す。一つ息を吐いて、ぐぅっと背伸びをした。
『で?ディセンダーってわかってなに?私をどっかに連れていく気?世界に脅威がきてることなんてとっくのとうに知ってるわ。じゃなきゃ私は生まれない』
にっこりと笑って見せる。
私は私。ディセンダーでも私だ。
何度目か巡っていたせいで随分と人を疑うようになってしまったようだと思う。
キルたちに悟られないように彼女たちをあの場所からさらに人の来ないところに誘導したのは壊れるのが怖いからだ。
壊れて、自分をディセンダー以外の何者としても見てもらえないようなそんな不安が彼女をしめているから
「今回は随分と自由に生きているのだな」
彼女はまるで最初の頃の己だと、うっすらシルヴィアは思った。ヒトとしての形はできているのに表情が乏しい。どこか俗世離れしている風貌がさらにそう感じさせるのかもしれないが
『ディセンダーは常に自由よ。』
「だが、今までのお前はひとつの殻にこもり、世界を見てきただろう?」
『そうしなさいと言われてきたわけでもないし、別に誰が困るわけでもないじゃない』
きっと、自分はそう長くはないのだと、実感しているのだ。何度も何度もめぐっているからか、一番最初のころよりも己の体は成長している。そうして悲しいことにも気がついてしまった。
気がついてしまったからこそ前に進めなくなってしまったというのも正しいのかも知れない。
「そうか、ヒトとは難しいか」
『そうね、ヒトのこころは残念なことに辛いことから逃げたくなるものなのよ』
最初の頃ならば何もかもを純粋に受け入れ吸収し笑っていられた。
それは拒絶を知らなかったからだ。
今は違う。
それを恐ろしいと思ってしまった時点で、シルヴィアはディセンダーとしての器からはみ出しかけてしまっている。
だからこそ、その恐れから逃げたのだ。
「ふむ」と考えるそぶりを見せたミラはチラリと後ろにいるジュードに視線を向けた。
彼は「好きなようにしていいよ」とそのいを込めてひとつ頷く
「ディセンダー」
『そう呼ばないで、私はシルヴィアよ』
「では、シルヴィア。私はお前を守護する精霊になろう」
『は?』
ミラの言葉にシルヴィアは目を丸くする。
そうすればくつりとひとつ、笑ったミラは「もともと私たち精霊はマナの多いところを好む。ここはいいところだしな。時期にお前の噂は広がるだろう。ならば守りが必要だ。お前を守り、お前の守りたいものを守る仲間がな」と言葉を続けて、あっけにとられているシルヴィアに近づいてぽんっとひとつ頭をなでた
「それに、困っていることを体に溜め込んでいるのだろう。ヒトにはわからないことも私ならば解決できるかもしれないしな」
それは、慈しみ
シルヴィアがいままで感じた中ではアンジュがそれに一番近いのではないかとも思う。ヒトと程遠い気がしていた彼女だったが思ったよりもヒトに近いのは、きっと傍らにいるジュードのお陰だろう。
あの頃の己と愛したヒトとの関係によく、似ていると
ただ似ているだけできっと根本は違うのだろうけれど、
Re20210122
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