ユーリ達が消えて、少しずつ落ち着いてきたかと思えばまたガルバンゾが騒がしくなり始めた。
約3週間か…。フレンが訪ねてきてからの日数を考えるとそろそろメルディたちが船に乗るころかと考える。
現に、シルヴィアの耳に入るのは国の不安定さと「赤い煙」のことだ。
人の口からの「噂」の速さを初めて彼女は感じていた。
『キル、彗星にいる』
「了解、あとで」
故に、少し情報がほしいと思った彼女の行動は早い。
街に戻ってきたのは食糧調達のため。次いで情報を求めてしまうのは直接の情報が入ってきづらいからだろう。「あのころ」は当たり前だったことがなくなることを覚悟していたつもりだったが、少し甘かったとシルヴィアは心の中で苦笑いをこぼすしかない。
自力で集めれば問題ないと首を横に振るのだが…。
それでも、噂と言うのは不確定で、自分が噂の根源になってしまうこともある。
街の中で耳をすませて、目を閉じて…そうして世間話からいろんな情報を得るぐらいしか、今は出来ない。随分と歯がゆいなと…。
「およ?お嬢ちゃん久しぶりに見るねぇ」
後方、おおよそ3M
聞きなれたようで、ここではそうでもないその声に目を開けて振り返ればその人が居た。
ゆらゆらと揺れるザンバラ髪が高い位置で一本に結ばれて、紫色の羽織が揺れている。
『確か、レイヴンさん…?』
嘘を塗り固める鴉が彼女の前にいた。
『こっちは思ったより大変だったのね。』
「そーなのよ。青年たちったらもっと考えて行動してほしかったわ。」
ギルド・凛々の明星。拠点。
シルヴィアの前で盛大なため息をつくレイヴンは続けて「騎士団にもつけまわされて俺様もうヘトヘト…」と脱力している。
シルヴィアのもとにもフレンがきたから、もっと関わりのある彼らはなおさらだろう。
今はユーリ達のことがあるため、ギルドの仕事は休業中らしい。おかげで、商売あがったりだということだ。ギルドは信用で成り立っているから、ギルドのメンバーが王女を攫った…となればそれはまぁ、そうなるだろう。
『国の重要人物ですからね、エステリーゼ様は…』
「ねー…」
互いに苦笑い。
それから出されていた紅茶をシルヴィアは一口飲んだ。
けれど、レイヴンの言いたいことはそうではないと、直感が言っている。
道化師というにふさわしい、この男はシルヴィアから情報を手に入れたくて、自分たちの拠点に引きずり込んだ。
確かなのはもう一つ。陰に隠れてこちらを伺う気配があるからだろうか。
その彼女が、情報に関しては誰よりも早いということも分かっている。
『騎士団も必死ね。シーフォ隊長も私のところに来たし。』
「そ、俺様達が青年らと連絡とってねぇか尾行してんのさ。」
俺様らも知らんのにね。とおどけたようで、その眼は違う。
標的を狙うようだとシルヴィアは感じた。しんっと静まる室内に、二人。
『私は、情報屋とは違うんだけど。』
その静寂を打ち壊し先に話しだしたのは彼女で、にこりと笑って見せるその行動に一切の悪気はない。だが、ぴんっと空気が張り詰めていく。
「でも、知ってるでしょ」
疑問符はない。
確信を含んだ、そして、シルヴィアを見る目は彼に珍しく酷く真剣で、また笑う。
『交換条件。まさかただで教えるわけないでしょ?』
「およ、おっさんと取引しちゃう?」
『ついでに片道切符もつけてあげる。ものによってね』
笑う。あぁ、いいことが聞けそうだと、道化師と救世主。二人して心を偽って見せた。
Re20210122
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