「手伝ってもらってごめんね。」
『いいの、困った時はお互い様よ?』
くすくすと笑ってしまう。横にいる彼もまた同じだ。カロルと魔物討伐に行って数日。ユーリはどうやら今日お城から帰ってくるらしい。
そう告げてきたのはカロルで、一緒に行かない?と誘われたけれど丁寧に断った。どうしてほぼ他人な私を誘うのか理解はできなくて、ちょうど町の中をふらついていた彼を見つけて声をかけて買い物を手伝っているのだ。彼は、フレンは普通に接してくれるから。
「女性に荷物を持たせるなんて正直申し訳ないよ。」
『いいのよ、私、人よりも力はあるから。』
にこりと笑う。そうすれば彼は「ありがとう」とまた笑った。
「ありがとう。」と今まで何度も何度も言われ続けてきた言葉、その言葉の裏に何があるのか、なんて、今まで考えたことはなかったけれど、だけど、そうしてしまったのは今までの環境(主に、二回目)のせい。
「シルヴィアさんはヘーゼル村の出身だって、ユーリから聞いたよ。」
『え?えぇ、そうよ』
でもいきなり告げられた言葉に、驚いてしまった。
ユーリは何を話しているんだ。人の個人情報を、どうしてなんて…
ヘーゼル村に関しては、ヴェイグ達の話で聞いたこと程度しか覚えていない。
わずかな星晶の恵みで養われていた村が、ウリズン帝国のやつらによって支配された…という話だっただろうか。
「ヘーゼル村は…ガルバンゾと敵対しているウリズン帝国の、今や植民地だ。そんな中から君一人逃げ出してくるだなんて。」
『人聞き悪いわね、出身はヘーゼル村だけど私育ったのはそこじゃないわ』
「え?」
そういうことかと、呆れてしまったのは仕方ない。きょとんと、フレンが私を見る。一つため息をつくけれど、そっか「出身」って育ったところって意味でもあるんだって、改めて覚えた。言葉って難しいなぁ。なんて
『私、いろんな国を回ってきたから。ヘーゼル村の人でも私を知ってる人はいないと思うわ。』
あんまりもうヘーゼル村について出すのはやめておこう。いつかヴェイグやアニーたちにあった時にボロが出そうだ。いや、どうせ最初から嘘だし関係ないことだから掘り下げる必要もないことだけど。
「君も大変だったんだね。」
『まぁ、大変「だった」かな。』
「自分のことなのに」
『ふふ、曖昧?人間ってそういうものでしょ?』
くすくす、くすくす。笑ってしまって足を止める。
そうすればフレンも数歩先で足を止めて、こちらを振り返った。
「シルヴィア…?」
『だって、人間はどこからきてどこへ行くの?なんのために生きているの?その理由を知っているの?知らないでしょう?それと一緒。』
時間が固まるように、世界が固まるように、
二人だけの空間が出来上がっていく。フレンが驚いたように私を凝視し、私は逆に微笑んで彼を見ている。
「そのいいかた、まるで」
君は…
「フレン!」
空気をぶち壊すソプラノボイス。はっとしたように振り返ったフレン。彼が振り返ったことで開けた視界に、淡い桃色と黒。
自然と、桃色がフレンに近寄ることで私とユーリの視界が交わる。ユーリの瞳が、何かに揺れている。
その目を見ながら、彼まで歩く。
歩いて、歩いて、
ポン
「は?」
『荷物よろしく。』
フレンと一緒にもっていた荷物をユーリに押し付けた。それからくるりと身をひるがえして歩きだす。これで私の仕事は終わり。
『フレン、また楽しくお話しましょうね。』
次にいつ、二人でこうして話せるかはわからないけれど。
Re20210121
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