佐助を俺の布団に寝かせて、表情を柔らかく、微笑んだ。

けれど、スッと、佐助の上から退く。
そうすれば、はっとしたように、俺の着流しを掴んだ。



『っあ、ま、って!』

「佐助・・・」

『先生、だったら・・・だったら・・・っもう行かないでって言えないから、
 だから、俺様を先生の「物」にしてよっ

 先生に俺様は使役されるから・・・っだから・・・っ』






ふわりと、佐助の目の奥に、赤い子虎が見える。

佐助が、その子虎と出会い、そして、笑い合っている。

困ったように、嬉しそうに、けれど、大切に想っている情景

信頼を寄せ、そして・・・・





俺に、ずっと執着していない・・・その瞳で、その虎を見ていた。

今、俺に向けている瞳は・・・きっと・・・





佐助が、止まった。
ゆらゆらと、瞳を揺らして、また、ぽろっと一粒の雫が落ちる。

悲しい思いをさせているのは百も承知だ。


でも優しく微笑んで、口を開く。



「佐助、もうすぐ大切な人が現れるよ。
 俺よりも、ずっと良い人だ。」



佐助!


小さな子虎が佐助を呼んでる。

まだ、幾分小さい身体で佐助を追回し、佐助は苦笑いしながら、それに答えている。



「佐助を一生愛して、守ってくれる人。」


どういうつもりだ!佐助!!

成長した若虎が、佐助を怒鳴っている。
佐助は手傷を負ったのか、腕や首、今は長いその髪は、短くなっている。

でも、後悔はしていないようで、それとも、過去を隠すためか、へらリッと笑っている。





「だから、佐助、


 
 
 佐助も、その人の為に全てを捧げな」


「……佐助を辛い、痛い思いをさせたくない」

佐助を思い、その身を案じ、愛し、求め、

若き虎は、佐助を大切にしていると・・・
あーぁ・・・なんだか嫁にやる気分だ・・・




一度、目を閉じれば、その情景はすべて消える。
長いようだが、一瞬で全てが視える俺に佐助は違和感なんて持たないだろう。

いや、気がつかなくていい・・・




「俺の元へ、来てくれて、ありがとう。」



そして、俺から教えられることは、もうない。

最期に佐助の記憶に残っている俺は、笑っていて欲しい。

なんて、思った俺の最期のわがままだ。



佐助も、佐助で、一生懸命笑おうとしているが、裏腹に涙を流していた。
辛いだろう、

でも、もう、巣立つときなんだ。




『っれ、さまも・・ひっく・・・先生に会えて、よかったっ』



俺には、その言葉だけで充分だ。



佐助の前髪をあげて、額に一瞬だけの口付けを残す。


そして術をつかって蝋燭を消し、庭に音もなく出れば、




あとから、







佐助の悲鳴のような泣き声が聞こえて、




「いいのか・・・終夜・・・」

「あぁ・・・もういい・・・」






でも、佐助。



もう、俺は・・・






佐助のおかげで






そこ(光)に行くことができたんだ。







だから、お前は、お前で・・・





もう苦しむな・・・




もう、佐助は、俺にとって唯一無人の大切なものだから








生きて、生きて、





後悔しない、明るい道をたどっていきな





執筆日 20130127





×