優しく、佐助をあやす。
これはいつもやっていることだ。

けれど、泣き止んでくれない。



「どうしたんだ、佐助。」



もしも、知っているのならば、俺は酷いことをしているだろう。
死に逝く人間のぬくもりを深く知ってしまったら、それが消えることを知ったら・・・誰でも狂ってしまう。

俺も、颯斗も、それは乗り越えた壁だった。


案の定、佐助が吐き出したのは、本当の任務の内容だった。

多分、あの日・・・


颯斗が来た日にかすがちゃんと出かけたときに、聞いたんだろう。

だったらかすがちゃんも知っているということだ。
あの日から、ずっとずっと、二人は俺たちを騙そうと頑張っていた。

恐怖と戦っていた。


そう思うと、悲しくなる。


だから、ずっと前から言っている事を言ってやれば、佐助は息を呑んだ。

そう、それは、忍は人では無いということ。


俺は、もう、「道具」でしかない。



流れる涙を拭い、微笑めば、苦しげにマユをひそめた。




『せんせ・・・っごめ・・・そんなの、そんなの、知ってる、知ってるけど・・・っ
 ねぇ、先生、わがまま、言って良い・・・?』

「ん?」



けれど、そのまま、視線を下にやって、再び俺の肩に顔を埋めた。
本当はこの小さな背中をずっと見守ってやりたかった。


でも、もうそれも叶わない。


だったら、この、俺の気持ちも、もういらないだろう。
小さく名を呼べば、腕に力が入ったのが分かった。

けれど、距離が離れて確かに視線が交わる。


佐助の表情を分からせる明かりはたった一本の蝋燭だけ。
だが、元々目のいい俺には充分だった。



『俺様、先生のこと、好きなんだ。
 好き、好きなんだ、好きなんだよぉ・・・先生・・・先生・・・っ!!』



吐き出された、その言葉に、固まる。
何を、佐助が言っているのか、正直、理解できなかった。


多分、俺の好きと、お前の好きは違うよ、


そう、訂正したかった。


俺の好きは、


お前の好きは・・・




『憧れでも、家族としてでも無いんだっ
 俺様は、先生が・・・っ猿飛終夜っていう忍が、一人の人が・・・っ』

「っもう、良い。」



なのに、佐助は簡単に思いを言葉にする。
本当に参った。

黙らせる為に、きつく抱きしめる。


佐助の心の臓の音が早い。
あぁ、アレは嘘じゃないと、嬉しい反面、俺を苦しめた。






なんで、今なんだろうな・・・。





この俺にとってはまだ小さな夕日色の忍は、





なんで今、俺にそんなことを、言うんだ。







執筆20130126





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