『変なことを言うのね。貴方達は。』
言ったのは、氷の国の女王。周りに居た愚民たちは女王の笑みに固まる。
その笑みは今まで彼女が作り描いていたものと違う、ひどく冷たいまるで戦場で命乞いをする敵に向けるそれににていた。彼女が対戦相手にのみ見せる絶対零度の笑み。
『私が謝罪をする許可を与える。なんていうと思ったかしら?』
くすくすと笑って、女王はそのまま歩き出す。彼女の邪魔をさせないように、手を出させないように慈郎と向日が左右についた。彼女の行く手に阻む生徒は自然とその道をあけている。
まさにモーゼというにふさわしいのか。先程まで、意識が朦朧としていた彼女の姿は欠片もない。
美しい素足でまっすぐに自分の道を進むのはまさしく、女王。
その斜め後ろをいつものように樺地が続いた。
「跡部!!!!」
そんな彼女にかけられたのは、もっとも愚かな家臣の声であり、女王を蹴落とした、その男だった。
彼女との間に、宍戸が立ちふさがれば、ぎりっと男は拳を握りしめる。しかし、女王は知っていた。
『アナタには、本当に悪いことをしたわね・・・速水。私のせいでアナタにはかわいそうなことをしたわ。』
自分のせいで惨めな思いをさせていたことを、だからこそ、それに対する謝罪はした。ピタリっと足を止めて首だけを振り返る。その目には氷のような冷たさの奥にはっきりとした怒りをにじませて、彼を見ている。彼女の横にいた日吉は、ただ瞳のなかに潜む悲しみをしっかりと見ていた。
『人の欲と言うものはひどく醜く、そして恐ろしいものだわ。ひとときの感情に流されてしまうことだってあるかもしれない。
だからといって許しはしないけれど』
するりと、持ち上げられた白い腕。鉄パイプで割れた爪に、にじむ赤に、鳳が痛みを感じているように唇を噛み締める。
パチンッ
高らかに響く、彼女の音。それに、耳を済ませ、滝は気高い彼女の後ろ姿をしっかりと目に焼き付ける。
「見誤ったが最後や。残念やったな。」
メガネのブリッジを押し上げて、景の体をいたわるように、再び抱えあげた侑士に『自分で歩けるわよ』と苦笑いをこぼした女王様。つられるように、回りの騎士も笑った。
風に舞うのは凍った桜の花。
風に流れて舞い落ちたのは、焦土と貸したかつて女王が治めた王国。見るも無残になれ果て、それは過去の威光を全く感じさせないものとなってしまった。
ソレとは否。
新たに創立された氷の王国は衰弱する国とは裏腹に、どんどんと力をまして行く。クスクスと、その国を上から眺めながら女王は笑った。
氷の王国は二度と崩れることは無いだろう。
信頼の置ける仲間達が、彼女には着いているのだから。
「景なに笑ってんのや、」
『ん? なにって・・・すこし、昔のことを思い出したのよ・・・』
もうすぐ、彼女の季節が来る。
寒い寒い冬。氷の世界がもっとも栄える季節。
巡り巡り、時は巡る。
そして、終わる。
口元を吊り上げて、私は笑った。
40 『
氷の世界に、ひざまずきなさい
』
悲劇を喜劇と笑ったタンホイーザ
それは、何よりも、己のことだと知っている。
無残にも崩れた喜劇だが。
だがしかし、氷の女王と仲間達の絆は、より深く固いものとなった。
「景!早くー!」
ほら、今日も彼女を呼ぶ声がする、
36 それは終端
《笑い。笑い。》
《さいごまでわらうのはだあれ?》
再1904
←
list
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -