06

『…なん…何のご冗談でしょうか…』


乾いた言葉が口から漏れた。蓮二君の口からでた「ミクスドのペアの変更」と全然たいしたことはなかったのに…雅治君から…私をペアから外すという言葉だなんて…


「秘歌理、お前は気に病むな裏切ったのは仁王だ


グサリと、その言葉が私の心に深く刺さる。
現実味を持って、細かに説明するのならば肉をえぐり、赤い、命の液体が泉となり、その中で静かに黒く変わっていく。そんな感じだ。


『…っ私をテニス部に勧誘したのは仁王君ですよ。』
「あぁ」
『嘘を…っ嘘言わないで!!』


あまりのことに息がつまる。吐きだした言葉は思ったよりも大きかった。私は元、ゴルフ部で…多少幼い頃からテニスはかじっていたがそれが見つかったのは少なくとも私のミス。

けれどその才を見定め、そして半ば強制的にテニス部に勧誘、そして入部させたのは紛れもない雅治君でそのとき、雅治君は……ハルは言ったのだ。


「俺はおまんが、入学したときから好きじゃった。だから、そばにいて欲しい。」


珍しく、後半は標準語だった。それだけ、印象的だったのにもかかわらず、私は返事が出来なくて、彼は精市君を呼び、それから二人は職員室に向かった。

蓮二君は「お前はもう心配することはない」と微笑むようにいい「あいつらってほんと、やること天才的だよなぁ」とブン太君は空を見上げ「まぁそういうやつらじゃないか」と、それにジャッカル君が便乗、弦一郎君はただ黙ってコートを見ていた。

その直後に、校内放送独特のチャイムがなり


【マイクテストマイクテスト。仁王、コレちゃんと入ってるの?】
【さっさと用件いいんしゃい】
【あー、そうだね】


一部、学校内から奇声があがったがスルーしてもいいでしょうね。
っというよりも彼らは何を・・・と混乱する頭の中で、必死に理解しようと考えを張り巡らせた。


【これから言うことは最低限の事だよ今日から俺たち男子テニス部に、マネージャー兼レギュラーとして1年柳生秘歌理を入れる。反論なんて、許さないよ、彼女は俺たちの仲間だからね。もし、彼女を傷つけたら俺たちを敵に回すと思うんだね
【文句あるやつは俺にいいんしゃい。俺はいたって正常じゃ、秘歌理に惑わされてなんかおらん。むしろ、迷惑掛けたのは俺じゃしの】


彼らのやり取りが、本当に驚いたが、あぁ、私は居場所ができたのだと、本当に安心した。

それが中学2年のとき、私がテニス部にはいったときだ。そして、私が彼に惹かれ始め、今に至っていたのに…この話をする前に部室へ行った弦一郎君。それから精市君もちらほら現れた同級生を混乱させないため指示だしに行っている。

コートから移動したこの場所にいるのは私と蓮二君だけ。


「秘歌理、仁王はお前を」
『私でも、怒りますよ!』


つぅっと涙がこぼれた。とまらない。


『いくら蓮二君でもっハルを悪く言うことは絶対に許さない!!』


叫びが、トマラナイ。紳士?淑女?
何を言っているんですか?聞いてあきれる

今の私は、ただの女です。大切なものを、愛していた人を奪われた。ただの、女です

泣いた。嗚咽を殺し、眼鏡を取りただ顔を隠して、蓮二君はただ、静かに私の背を撫でてくれていた。

彼が私にしていてくれたように。けれど、彼よりも、その手はただ優しかった。


『すいっません』
「いや、話しだしたのは俺だ。」
『ひっく、ごめんなさい』
「謝るな、先に泣き止め。」


冷やすものを持ってくる、タオルは膝においておくからな。とそれだけ言って彼の手の温かさが消える。
フワッと離れた蓮二君の香りに、ソッと顔から手を離して、それから膝に合ったタオルを取り顔に押し当てた。

だめですね、眼鏡がなくてはぼやけて何も見えない。


「秘歌理、」
『ほ、本当に、すいません』


醜態をさらしてしまった恥ずかしい限りだ。蓮二君から受け取ったそれは多分凍り枕かなんかだろう
それをいただいて目に当てればひんやりとしていて気持ちがいい。けれど、私たちの中には沈黙が続いてる


「秘歌理、俺とでは、不満か?」


けれどその沈黙を破ったのは蓮二君だった。彼とが不満なわけではないと私は即座に首を振る


『いえ、そういう意味ではないんです。少し前にとある約束をしていたんです。雅治君と』


それからそう言って


『その約束が、とても思い出深いもので・・・ですが、今回私と雅治君がダブルスにでないとなるともう果たされませんね』
「秘歌理・・・」
『その約束が約束なんですよ。気にしないでいいですからね、蓮二君』


にこりと、氷枕を外して彼に微笑み、眼鏡をつけた。でもやっぱりまだ目が痛いと感じてまた眼鏡をはずして氷枕を当てる


『ですが、厄介なことになりましたねぇ…私と雅治君はミクスド優勝者、そして、3強の2人が出るとなれば我々のTOP3は守られますが、さすがに精市君と戦うのは少し嫌です。』
「仁王はいいのか?」
『今回のはら…いえ、お仕置きをこめて』


それから蓮二君の言葉にそう返して私は静かにまた涙を流した




絶対にミクスドは一緒に出るぜよ誰ともでるんじゃなかとよ?秘歌理




*Side Yukimura


「仁王。」


蓮二に言われて、俺は迷いなくそれを承諾した
理由は秘歌理を守るためだ。あの子は、誰よりも大人で、そして、一人で溜め込んでしまう。誰よりも弱いくせに、その心を見せないように、厚い厚い、笑顔という仮面で隠してしまう。
だから、彼女を悲しませないように。


「なんぜよ、幸村。」


俺の呼び声に怪訝そうに、仁王が返事をする。
ここはコートから少しはなれた樹の日陰。あの子、棗さんはどうやら洗濯をしているようだ。
だから、声をかけたんだけどね、


「いいの?秘歌理と蓮二がミクスドに出て。」


だから聞くんだ。本音を、それで、ちゃんと、


俺には魅春が居ればええ


仁王から出てきた言葉に、背筋がゾクリとした。一瞬求めていた言葉と全く違っていたからか脳が拒否を起こしたがふぅっと息をはきまた仁王を見れば、木陰で目を閉じている。


「本当に?」
「本当じゃ。」
「…じゃあ、いいや。」


聞き返しても、仁王が言う言葉はそれだけだ。
これは、意地やそういうものじゃない。仁王の根本が変わってしまった。


蓮二は、変わってなかったけど、弦一郎も、丸井もジャッカルも…仁王も…みんな変わってしまった。
一体。どうしちゃったんだよってそう思っても俺一人じゃどうしようもないから。


「じゃあ、秘歌理は帰したの?」


部室に戻ってみれば、そこに居たのは蓮二だけで秘歌理の姿はなかった。蓮二はオレが戻ってくることが分かっていたのか「秘歌理はいないぞ」と入ってきた時、オレに言った。

だから聞いたんだ。
そうすれば視線をオレに向けて「あぁ、そうだ」と言葉を発す。本当、中学のときから蓮二は人のことを考えて見透かすのが得意だ

まぁ、それはデータテニスをしているからだろうけど、


「…はっきりいって、これからの秘歌理の精神状態は危ういだろう。」
「そう…だよね…大丈夫かな…秘歌理」
「確実に大丈夫とはいえないが、今まで一緒に試練を乗り越えてきた仲間だ。いずれ、あいつらも思い出して昔のように戻るだろう。精市、お前は何も悪くない、責任を感じることはないぞ。」
「…ありがとう、蓮二」


本当、苦労をかけるよ。秘歌理にも、蓮二にも

中3のとき、秘歌理は全国大会出してあげることは出来なかったけれど、彼女は自分よりも、オレを優先させてくれた。


『私は、ここまでの試合をしました。それに、決勝戦は神聖なもの。女だから、と言う理由はあまり使いたくありませんが、今回はあえて使わせてください。今まで、あなたたちがすごしてきた時間は私が一番知っています。ですから、私は補欠に回りますよ、誰が、どこで怪我をするかも分かりませんからね。ですが、無茶はしないでください』


微笑み、そう言った彼女は何を思っていたのだろうか。
中学最後の大舞台。
けれど、彼女は自ら引き俺たちは試合をした。

結局負けてしまったけど、彼女に本当に申し訳なくて、俺は合わす顔がなくて、でも秘歌理は、一番にコートに来て俺を抱きしめた。

彼女は、泣いていた。けれどそれは、悔し涙ではないと断言できたんだ。

顔を上げた秘歌理は誰よりも幸せそうに笑っていたから


『精市君、やっと元に戻れました。貴方は、もっと自信を持ってプレイすればいいんです。負けたことは次に進む糧になるんですよ。』


そして、抱きしめていったんだ。負けたことを、しかるでもなく、糧にすればいいと彼女は、泣いたんだ。そのときに俺を見ていた仁王が、俺を睨んでてあぁ彼女が好きなんだなって思った。
でも、俺だって秘歌理が好きなんだ。

それはきっと蓮二も同じ。だから今回ミクスドのペアに秘歌理を指定したんだって理解できる。
今は、蓮二に譲るしかない。だってあいつが一番人の気配に敏感だから。



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