03


あぁ、頭がくらくらする。気持ち悪い。熱が上がってしまったのでしょうか。
一度眼鏡を外して壁に寄り掛かる。


『(全く・・・情けないですね・・・)』


自分にあきれてしまうのは仕方ない。今日は先に上がらせてもらいましょう。

その前にドリンクを作ってから。ふぅっと一度息を吐いて眼鏡をかけて時計を確認。
休み時間終了まで残り5分。昼休みまで後2時限。


『(4時限目は理科で移動教室でした。)』


授業が終わったらそのまま部室へ行きましょう。あぁ、では精市君に鍵を貸していただなければ・・・


『(やることはたくさんありますね・・・)』


ドリンク・・・タオル・・・それから明日の練習内容の確認。あぁ、今日の練習は基礎練習ですから大丈夫ですが・・・
そろそろ私も教室へ戻りましょうか・・・

なんて、キャリーオーバーしそうな頭を整理しつつ、歩き出した。




「・・・秘歌理もう帰ったほうがよくない?」
『精市君、昼休み部室の鍵を貸していただけますか?』
「いや、うん。取り合えず言葉のキャッチボールをして欲しいな。」





*Side Yukimura

「秘歌理、ほんとうに大丈夫?」
『平気です・・・』
「でも・・・」


昼休み。

倒れたら不安だと思って、秘歌理がカギを貸してくれと俺に言ったけれど渡さなかった。
その時点で言葉のキャッチボールすらできない秘歌理のほうが不安になる。
俺の嫌いな化学室からまっすぐ俺の好きな部室に来て、鍵を開ければ秘歌理は冷蔵庫からボトルの準備を始めていた。


「あー、なんか新鮮。手伝うよ、秘歌理」


俺が手を出したらきっと邪魔してしまうかもしれないけれど、その秘歌理の作業をしている光景がずいぶん新鮮で、畳まれていくタオルに手を出そうとしたら『ドリンクやってもらっていいですか』と苦笑いされた。


『蓋をしっかり閉めてから振ってください。一度赤也君が吹き飛ばしたことがありますから』
「…うん、わかった」


そして秘歌理が言った言葉に記憶の底にあるのは、甘い匂いになったタオルを片手に泣いていた小さな赤也の姿だ。
秘歌理は笑っていたが、そういう経緯があったことは知らなかったと、苦笑いする。

けれど、サクサクとなれた手つきで準備を進める秘歌理に俺の準備が間に合わない。


「ちょっ秘歌理。」


思わず声をかけたけれど、秘歌理は上の空だ。
マスクはしているが、今日は通常のレンズで、ほほが赤いのがよくわかる。

朝は化粧でそこまで気にならなかったけど、


けれど、これが、もし、風邪じゃなかったら…。

背筋がゾワリとして、手が止まった。もちろん、ペットボトルの水はそそぐのをやめていたけれど。
秘歌理の仕事を増やすわけにはいかない。


『精市君…?』


俺を呼ぶ秘歌理の声で現実に戻る。
秘歌理同様、振り終わったボトルを置いた。


「秘歌理、ドリンクは俺がやっておくからもう帰ろう?」


それから彼女の肩に手を置いてそういえば、ずるっと秘歌理の眼鏡が傾いた。


「俺っ不安で・・・っ」


あのね、秘歌理。
俺さ、秘歌理は仁王と付き合ってても、やっぱり俺は秘歌理が大切なんだ。
だから、もし、もしだとしても、俺と同じように、自分の体調を厳かにしないで欲しい。


「今から早退して、病院行くよ。」
『えっあっ精市君!?』


取り合えずボトルはそのままに部室をでて鍵を閉め、秘歌理を連れて歩き出した


「っ秘歌理ーーーーー!!!!!!」
『雅治君!?』
「なんで幸村と一緒にいるんじゃあ!!!」
「だまれ仁王!他の生徒の迷惑だろ!! あっそれと弦一郎、蓮二!!俺、この後秘歌理を病院に連れてくから遅れる!!」


でも、仁王に負けないくらい、秘歌理のことを見てた。
それはどんなに仁王にかなわなくても。


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