02
「あれ、秘歌理。いつもより遅かったね。」
弦一郎君と話していたことにより数分ロスしてしまいましたが、ラケットをもちコートに辿り着けば精市君にそういわれてしまった。
彼はいつもどうりすでにストレッチをしていたが、私が現れたのと同時に顔を上げたから、さすが長年の好といいますか。
『すいません、少々手間取りました』
「ううん、大丈夫だよ?それよりも…秘歌理今日体調悪くない?」
それに素直に謝り、ラケットを壁に立てかければ直後精市君にそういわれてしまった。
わざと首をかしげ、『そう見えますか?』と逆に質問を返せばあっさり「うん」と即答されてしまった。
眼鏡がずり落ちそうになりましたが、くすくすと笑って見せる。
『実は昨日少し寝不足だったんです。おもしろいSF小説を見つけてしまいまして・・・』
そういえば、きょとんっとされてしまいました。なるべくなら隠しておきたい。
そう思うのはきっと彼が一度病に倒れたからなのかもしれないけれど、
一方の彼は一瞬表情を歪めたかと思えば、立ち上がり私の腕をつかんだ。
「しまった」と思うよりも早く、額に冷たい感覚が触れる
「あっ、熱がある」
思わず身をすくませた私はきっと無罪だ。
彼の驚いたような、その声に罪悪感が膨らんでいくがこうやって隠すことしか私にはできない。
「化粧して隠してるんだね、秘歌理」
『…お願いします。勘弁してください。』
そして少し低い声でそういわれて、少しビクッとしながらそういう。
他の生徒がいない時間でよかった。なんて思う余裕が私にあることがまず謎ではあるのだけれど、それは心の逃避行だと思いたい。
「今度の練習試合で俺とダブルス組んでね。それでチャラにしてあげる」
なんて考えていれば彼は突然そう言った。
逆に固まってしまうのは私のほうだ。
蓮二君ではないけれど、精市君がダブルスを組むのは主にミックスダブルス…男女混合のテニスの大会の時だけであって、それ以外は彼は末期のシングルスプレイヤーだ。
逆に私はダブルスプレイヤーだが
「遅れてすまなかった」
そんな会話をしていれば、先ほどあった弦一郎君と、準備を終えた蓮二君がやってくる。
そうすれば自然と精市君の手が自分の肩にかかっているジャージをつかむのはいつものことで、
「おはよう」と彼らに一言挨拶をすると私を見て「じゃあ、秘歌理は今日、マネージャー業よろしくね。」と私に笑って見せたのだ
そういえば、今日はマネージャーの仕事をする日でしたね・・・。なんて、一瞬飛んでいたそれが少々恥ずかしいですが彼はそう言って私の背中を押した。
全国が終わってから引き継ぎも一通り終わり、これからの新メンバーの編成も始まる。
その前にスコアの整理や、新しく買えそろえるものそれらのリストも作っていかなくてはいけないと、ジャージの袖をまくった
***
朝練が終わる10分前には着替えを済ませ、回収したボトルを洗っていた。
みなさんが戻ってきたら洗濯機で回しているタオルを乾せば時間敵にはちょうどいいでしょう。なんて考えながら作業をする。
「なー、秘歌理!ガムもってねぇ?ガム!」
そんなとき朝の練習が終ったのか部室の扉を開け、ドリンクのボトルを洗っている私の元にかけてきたブン太君が私に抱きつき言った。
抱き付くのはやめなさいといつも言っているのですが、ブン太君はまだ加減をして飛びついてくるからいいものの、赤也君はひどいものだ。
『私のジャージのポケットの中にグリーンアップルのでしたらありますよ』
「!まじか!!」
『えぇ』
そういえば、びゅんっと彼はすぐ後ろにかけておいたジャージに手を伸ばしてポケットを漁っている。
確かに私は昨日ポケットに新品のガムを入れたと思います。
「!これ期間限定の奴じゃん!」
『ほしければそのまま差し上げますよ、』
「まじかよぃ! 秘歌理さんきゅー!」
それにテンションを上げる彼はまた私に抱きついてきた。
パンパンっ
そんな時、聞こえて来た手を叩く音。それはよく精市君がメンバーを収集するためにする合図でもあるので、条件反射なのか私を抱きしめるその腕の力が弱まったかと思えば彼が引っ張られた。
「うぉっ!?」
「秘歌理に、何しとるんじゃ、ブンちゃん」
振り返ればブン太君の首根っこを掴んでいる雅治君と、入り口の近くでニコニコしている精市君、ノートを片手にため息を付いている蓮二君と、苦笑いしているジャッカル君、弦一郎君がいなかった。
あぁ、きっと彼女の元にいったんでしょう。無駄に広いですからね、この学校は…
なんて思いながら洗ったボトルを棚に置く。
「秘歌理、いつもありがとう」
そんな私にそう言った精市君。私は笑顔を向けて『私は外で洗濯物干してます。終わり次第教室に帰りますね。』といえば「うん、じゃあまた教室でね。」と彼もまた笑顔で私に返してくれた
*