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『貴方は私に何か恨みでもありますか?』


パラリ、紙のページをまくる音とともに、俺に放たれたその言葉に静かに息をのんだ。

図書室。

俺は参謀の姿を借り、先日柳と柳生の会話に出ていた新刊を持ち、彼女の前の席に座ったまではよかったが、そこで言われた一言だ。


「・・何を言っている。」
『・・・では、はっきりといいましょう。ストーカー紛いなことをして楽しいですか? 仁王雅治。』


ばれていない。そう確信思って居たのにもかかわらず柳生の言葉は俺を鋭く貫いた。眼鏡の奥で、俺をジトリと睨み、疑うような瞳に何もいえなくなる。


『私は、君のような人間を見ているのが一番不愉快ですよ。』


「不愉快」。はっきりと言われたその言葉にだんだんと嫌な汗が流れていく。まるで潰されてるんじゃない勝手ぐらい心臓が痛い。


『嘘をつき、人を騙し、あざ笑う。私はそれが大嫌いです。』


ガタン、椅子が音を立てる
俺ではなく、目の前の、すみれ色が視界から消えた。

軽い足音。そして、扉を閉める音。フッと彼女の気配が消えて、ズルリっと椅子にもたれかかる


「(手ごわいゼヨ、淑女・柳生秘歌理・・・)」


気高き彼女の異名を決めたのは、俺
俺はただ、おまんに振り向いて欲しかっただけじゃった。



まっすぐな姿勢。迷いのない瞳
ただ、その瞳に俺を写して欲しかった。


『なんのようですか、仁王君』
「・・・なんでわかるんだい?」
『・・・普通は分かると思いますが・・・』


やっぱり、柳生は手ごわかった。次は幸村の姿を借りてみたのだが普通に分かる、といわれた。ブンちゃんも真田もわからなかったのにのぅ・・・


「なんでわかるんじゃ」


思わず聞いた。そうすれば今度キョトンっとするのは彼女の方。でも彼女は笑った。
初めて俺に見せてくれた彼女の笑み、彼女が俺だけに見せてくれた笑み。


『簡単です、瞳、ですよ。』


正確には、瞳の奥にある、心ですからね、
と、そういう柳生は、本当に美しい。心が満たされる。

あぁ、きっと俺は彼女のこういうところに惹かれたんだろう。
なぁ、頼む、頼む、頼むから・・・


「秘歌理って・・・よんでもぇぇ?」
『お好きにどうぞ、』
「俺のこと、雅治って・・・」
『貴方が呼んでほしいのですか?』
「おん。」


思わず、手を伸ばした、それに彼女はまたキョトンっとしたが、また笑いその手を取った。
じんわりと手の熱が移って、心まで満たされるそんな気がして涙がにじむ。


『寂しかったのですね、君は』


その手を引き寄せられて、ふわり、彼女のやさしい、香水とは別の、自然な香りが広がった。
今はまだ、少し秘歌理のほうが背が高くて、俺が秘歌理の首に顔を埋める形になってしまったんだが、いつか絶対おいこしちゃると。
ぎゅぅっと彼女の背に手を回した。
嫌がらないし、いつものように俺を軽蔑したりしない。


「のぅ・・・秘歌理」
『はい、なんですか?』
「テニス部、入らんか?」


俺のこと、本当に分かってくれるのは、彼女だけだって、思った。

だから、そばに居て欲しかったんじゃ・・・ずっとずっと





『お帰り、ハル』


俺だけに許された特権、二人だけの秘密の場所、少し暗いここは、全国大会の会場のすぐ近く。

そう、俺は、負けた。


「秘歌理・・・っ」


ぎゅぅ、と。彼女の闇にとけるすみれ色をみて、俺はすがりついた。俺らしくない。でも、微笑み、優しく手を広げて、俺を迎えてくれた秘歌理。
やさしい、大好きな、大切な人。


「俺、おまんにっ顔向けできんよぉ・・・」


ぎゅぅっと大好きな彼女に抱きついた。ごめんごめん、俺は謝っても謝りきれない。でも、ポンポンッと俺の背中を彼女はあやすように叩く。


『いいえ、すばらしいものを見せてもらいましたよ、ハル、貴方は出来る限りの力を使ったんです。だれも、貴方を責めませんよ。』


大好きな声、愛しい言葉に、流すことがなかった涙が滑り落ちていく。
俺は、負けた。負けてしまった。
彼女が譲ってくれたその枠で、俺は、秘歌理の夢を叶えてやれなかった。


「あのな・・・」
『はい、』
「聞いて、ほしいんじゃ・・・」


本当は、勝っていいたかった。自分のなかで決着をつけて、秘歌理に優勝旗を持たせてやって、言いたかった。


チャリッと、ポケットから出した銀。

それに驚く秘歌理。
チェーンをもって一つをとり、秘歌理の左手を取って中指にはめた。驚いている秘歌理に、俺も同じように指に同じものをはめて、スっと、膝を折って秘歌理の左手を取り、口元に寄せた。
軽いリップ音。

そして立ち上がって、秘歌理の頬を触り、ちゅっとキスする。部活をしている間は絶対にこういうことをしない。引退するまで、という約束だった。でも、俺がもう耐えられんのじゃ。


『ハル・・・』
「好いとう・・・愛しとうよ・・・」


するり、髪をすいた、
大体こういうことをするのはいつも俺から。
彼女がこういうことをしないのはけじめのためだってそういうことだってわかってはいる。
それでも、言葉にされないもどかしさや不安はいつか秘歌理が俺から離れていくんじゃないかってそんな不安だけをかりたてていく。


『月が綺麗ですね、』
「は?」
『目をつぶってくださいな、』


けれど、突然言われた言葉と微笑み。
それにキョトンッとしたが、閉じないなら覆うまでと、秘歌理は俺の瞳を右手でふさいで、俺の視界が暗くなる。


「とじとうよ」


ひんやりとした彼女の手が俺の瞳の上からどく、そして勢いよく飛び付いてきて『すごく、嬉しい。』とぎゅぅっと首に手が回さた。
驚いて目を開けば、秘歌理の頭が俺の肩もとにある。
いつの間にか少し俺のほうが高くなってた。
だから秘歌理は背伸びをすることになってる。でも、秘歌理は暗くても分かるほど耳を赤く染めて


『大好き、私も、愛してます。』


そう、俺の耳元でささやいた。
じくじくと心が焼かれるみたいに熱いなと、困ったように笑ってしまって、秘歌理に見られんようにその体を熱が収まるまでずっと抱き締めてた。






じゃけ、裏切ったのは俺。


.





失って、そばに居なくなって、初めて気がつく。三流ドラマやら小説やら、マンガやらでよくあるパターン

なんじゃそれ、って
あの頃の俺は思っとった。


『はる・・・』


泣き顔なんて・・・みとぅ・・・ないんじゃよ・・


『笑って・・・』


俺が悪かったんじゃ・・・
なんで・・・っ
俺は裏切ったのに・・・するり、俺の髪を撫でる冷たい左手、そこには、俺と同じ銀が光っていて。


『大好き…でした…』


また、一緒にダブルス組むんじゃろ?過去形なんかにせんでええんじゃよ・・っ


「秘歌理っ!!」



赤は、見とうない



元中間達の思


後悔するんは、すべて終わった後


「マサどうしたの?」
「なんでもないぜよ」
「そう?」



はよぅ気づいとくれ、少し前の俺。



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