08
*Side Yukimura
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from 秘歌理
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今日の朝の練習、少々遅れて
向かいます
申し訳ありませんが、蓮二君に
練習メニューを考えておいて
欲しいと伝えていただきますか?
−−−−END−−−−」
朝、練習が始まる1時間前に来たメール。
1時間もあれば彼女は遅れずにこれるはずなのに、わざわざ俺に遅れるとメールを送った。
その意志は分からないけれど、きっと秘歌理にとって大切なことなんだろう。
これからのことを、ちゃんと秘歌理は分かってる。
だから、「雅治君に」ではなく「蓮二君に」といういつもの文面が違うんだ。
本当、秘歌理には頭が上がらない。
「…羨ましいな…蓮二も…仁王も…」
でも、そんな立場に、オレはなれない。二人が、羨ましい。オレはいつも彼女に助けられてばかりだから。
空を見上げればどこか怪しい雲行きに眉を顰める。あぁ、雨が降りそうだな…なんて、思ってたけど、案の定朝練が終わるころに、ぽつりぽつりと雨が降ってきた。
「(どうしたんだろ…秘歌理)」
もうすぐHRが始まるにもかかわらず、彼女の姿は見えない今どこで何をしているんだろう。
本当に珍しい、雪でも降るんではないかと…
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴る。この調子じゃ間違いなく彼女は遅刻だ。そして開いた扉に窓に向けていた視線を教師に移せばいつもの担任の姿があり「きりーつ、礼」と学級委員が号令をかける、
無論オレも従うし、「着席」というその言葉にそれぞれバラバラに座る音が聞こえた。
「え〜、今日の予定は…」
それから今日の予定を話し始める担任。はっきり言って興味はなかったけれど、
「あと、今日柳生さんは体調不良でお休みだそうです」
最後のそれには目を見開いた。思わず担任を凝視すれば逆に担任も驚いたように首をかしげて「あら、幸村君同じ部活なのに知らなかったのかしら」と逆に聞かれてしまった。
クラスメイトの視線が突き刺さるが気にしない
「俺のとこには遅れるということだけで…」
「そうなの、もしかしたら来る途中で体調が悪くなってしまったのかもしれないわね、」
来る途中…その言葉に視線を外す。
雨が降っている。きっと優しい君は仁王に傘を譲るだろう。
「(君は、仁王に言われたことを気にして・・・?)」
その雨の中を、一人で歩いているの?
貴公子は心優しい王子。
けれど、その優しさは彼女に告げられることなくくすぶって。
言ってしまえば楽だよと、悪魔にささやかれても彼女が笑顔ならと、自らの胸にナイフを突き立てるのです。