03


 できれば、今は平凡でいたかった。
それでもこの雨季に入ってからの人生の転換は随分と大きい。

どんどん回りが平凡でなくなってくる錯覚は絶対に私の間違いじゃないと思う。いや、間違いだったらどんなによかったんだろうか。


「お前、まさか10代目のお命を狙ってんじゃねぇだろうな」
『ばかじゃないの?頭まで火薬つめこんでるわけ?』
「あ゛!?んだとごら!」


放課後の教室。まさかの私と転入してきた獄寺隼人。通称ハリケーンボム・ハヤトとリボーンが10代目候補だといった沢田綱吉の三人だけになったとたんに本性を現した男に冷静に返せたかと思うが、内心は腸煮えくり返っている。

あの事件は、酷く有名なのだ。
私と大好きな兄さんが離ればなれになった事件。私が9代目ファミリーに引き取られることになった事件。
何がいけなかったっていうの?ただ、兄は愛したボスに従っただけで、私はあのときなにも荷担していないし、荷担できるほど強くなかったのに。


「ちょ、ちょっと獄寺くん!女の子にそんな強く当たっちゃダメだよ!」


今まで話したこともなかった沢田綱吉さえも巻き込まれている辺り、本当にどうしようもないんじゃないか。
そもそも、校内に爆発物を持ち込むな、アホかこいつは


『ありがとう沢田くん。』


リボーンに言われて少し遠巻きに彼らのことは見ていたのだが、あまりにもアホらしかった。兄が嬉々として語るあの方とのなれそめとは月とすっぽん。
命を助けられたって、あんなの自分のミスであるし、戦場だったら死んだも同然じゃないか。


『とりあえずこのうるさい番犬どっかに繋いでおいてくれるかな』
「ばっ、んだとこのアマ!」
『きゃんきゃんきゃんきゃんうるっせぇよ、バカ犬が。てめぇがそんなだとご主人様の品位が損なわれるってわっかんねぇの?』


売り言葉に買い言葉になってしまって誠に申し訳ないが、仕方ないじゃないか。本当にうるさいんだから。ギリっとその表情が思いきり歪んで、懐から小さなボムがいくつか出てくるのが見えた。
沢田の小さな悲鳴と共に、導火線に火がついたのを見て、動いたのは私だ。地面を蹴り、身を屈めて獄寺隼人の足元を掬う。
動きは私の方が断然早い。宙に舞った小さなボムを片手で回収し、火を消した。
そのまま懐から出すのは手に収まるサイズの「針」。獄寺の両手を両足で踏みつけて封じて、いつでも投げられるとまっすぐ向けるのは沢田綱吉だ。


『実力もない小型犬がきゃんきゃん威張んな。だせぇぞ。』


口調が多少兄よりになったが、これは性だとして、たかだか女の私にこんなに性でるなんてかわいそうな男だ。今までどんな教育を受けていたんだか。


「そこまでにしてやれエマ。」
「り、リボーン!?!?え、じゃあエマさんってマフィア関係のヒトなの!?!?!」
『今までのこの教室の空気はなんだったのか突っ込みをいれていいかな、ボンゴレ10代目候補。』


半分は先日の彼へのいやがらせでもあるのだが、教室の窓から入ってきた彼はにっと口許をあげるとその小さな足で沢田を蹴る。顔面を。
おう、あれはいたいぞ。とか思っていない。兄と主の行動をたまに見ている私にとってちょいちょい見た光景だ。


「獄寺も実力もわからねぇ相手に特攻しすぎだ。こいつはついこの間まで俺が持ってた生徒だからな。」
『9代目ファミリーにいつばれるんじゃないかってヒヤヒヤしてた。』
「9代目にはばれたがな」


一年前までめちゃくちゃスパルタされていたのだ。日本語が使えるのもそのお陰ではあるが、次の標的(ターゲット)である沢田綱吉には憐れみしかない。
私は9代目ファミリーにばれないようにという配慮の元だったが、恐らくこの流れだとあのヘナチョコと同じ運命なような気がする。とりあえず、と、その場から後ろに下がって自分の荷物をとった。


「お前の姉弟子だぞ。」
『嬉しくないし、私の師匠はこの世界でたった一人だからね。あなたのことは認めてない。』


にっとリボーンが沢田に笑ったのを見たが、笑顔で拒否していいだろう。そろそろ風紀委員というなの肉食動物の狩りの時間だ。ここから逃げていて損はない。

きっと明日から彼は私に、酷く怯えた目を向けるんだろうな、とかなんとか思いながら教室を出た。
どうせ、私に友達はできない




*Side Tsuna

教室からエマさんが出ていった。
リボーンが来なければどうしようかと思ったけれど、恐らくエマさんはあれ以上俺たちに攻撃はしてこないだろうと、そんな確信があったのもまた事実。


「ご、獄寺くん大丈夫!?」


獄寺くんが転入してくるまで、このクラスで銀色の髪を持つのはエマさんただ一人だった。
窓際の席で、いつも静かに本を読み、そのしぐさはすごくきれいで、それこそどこかのお嬢様みたいな。そんな風に思っていて、京子ちゃんをかわいい。というのであれば、彼女は誇り高い女性。という風な感じに思えた。
帰国子女だから、日本語関連の授業は眉間にシワを寄せて心底理解できないように聞いているが、それ以外の科目は恐らくトップに当たるだろう。
体育も時たまに黄色い声が上がってるのを聞いて、ちらっと覗けばだいたいエマさんが活躍している。

成績優秀。運動神経抜群。だからこそ、一目おかれているわけだが、そんな彼女は山本とすごくなかがいいことを俺は知っていた。

いや、恐らく山本のもの応じしない性格だからこそ、なんだろうけど。


そんな彼女に、まさか獄寺くんが突っかかっていくとは思わなかったんだ。
授業も終わって、いざ帰ろうとしたら「10代目、少々お時間よろしいですか」と言われ、他の生徒が帰るまで残って、そしてさっきの状況になった。

獄寺くんが話しかけにいったとき、雰囲気が一変した。それこそ、表のカードが裏にひっくり返ったみたいな感じ。
そんなに口悪かったの?って驚いたけれど、一番驚いたのはその動きだった。

懐から獄寺くんが小さなダイナマイトを取り出したとき、女の子にそんなもの投げたらって思ったのに、素早い動きで、エマさんが獄寺くんの足を引っかけた。
ぐらついて、手から滑り落ちた数個のダイナマイトを片手ですべて回収し、獄寺くんが動けないように足で拘束して、制服の袖から三本の長い針を俺に向けた。

早業、というより、もはや神業のようにすら思ってしまった俺は悪くない。


「獄寺くん。あの、」
「なんすか?」


エマさんにやられたからか少し不機嫌な声で獄寺くんが俺に言葉を返してくれた。
それに苦笑いをしてしまうのだが、本人は否定しててもリボーンが彼女を姉弟子だとかいっているのであれば、恐らく俺と同じぐらいリボーンにいじめられていたんだろう。そう思うと、彼女も大変だったんだろうなって思うんだけど、


「エマさんって、なにかやっちゃったヒトなの?」
「……聞きますか?」
「え、そんな重大なことなの?」
「いや、もしかしたら十代目も知っているかとお思いですが、ボンゴレ10代目候補だと言われたエンリコ・フェルーミとフェデリコ・フェリーノをご存じですか?」


思い出せばリボーンがそんなことをいっていたような気がしなくもないのだが、なにゆえ突然そんなことになったのか。
だれだったけ?っと首をかしげた俺に「抗争中に殺害されたエンリコといつの間にか骨になっていたフェデリコです」と随分簡潔に教えてくれた。
簡潔すぎて思い出した。骨になっていたヒトの次が俺だった。


「その首謀者がエマだとボンゴレ内部で噂している連中がいるんです。彼女の兄は9代目率いるボンゴレにたてついた裏切り者でしたから」


どうやら彼女は俺が思っていたよりも大分危険人物らしい、


190110


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